伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年1月29日: 老年症候群と健康管理 GP生

 人の歳は外見の変化に現れる。髪の毛が薄くなり、白髪が増え、背中が曲がり、歩行は前屈みで歩幅は小さくなる。しかも、踏み出す足は弱々しい。外見だけで無く、体内でも同様の変化が生じていると考えられる。外見の変化は健康に直接影響しないが、体内の変化は健康だけでなく寿命に影響することすらある。身近な老人達の体調不良を見聞するにつれ、自らの経験を鑑みても老人の健康管理の難しさを実感している。

 先日、小学校の同級生達と久しぶりにテーブルを囲んだ。女性2人、男性3人の気心の知れた仲間だ。Kuさんは、「命の電話」にボランティアで参加している社会性豊かな女性だ。会席での彼女の座り方がおかしい。聞いてみると、「腰を痛めてコルセットをしているが、痛みが取れない」と言う。何時もは、日本酒、焼酎何でもござれの彼女だが、ビールをグラス一杯しか飲まない。目の方も白内障気味と嘆いていた。

 ジム仲間のKo君は、昨年、脊椎間狭窄症の手術をしてから元気を取り戻したが、膝の軟骨減少により痛みが生じ始めた。長年の大工仕事で膝に負担をかけ続けた結果のようだ。高齢になってからも、ジムでエアロバイクに熱中して膝に負担をかけ、悪化させてしまった。やむなく、ヒアルロン酸の注射を打ちに、定期的に通院している。現在は、30分ほどの水中歩行とサウナと風呂で時間を過ごしている。対処療法で膝の痛みは感じないものの、軟骨増加が無い限り完全回復はないだろう。年齢からしてまず無理だと思う。

 知人に60代半ばの男性がいる。彼は大腸ガンの内視鏡施術を受けたが、その後橋本病の発症をみた。更に、狭心症の疑いからニトログリセリンを所持している 。その上、肺に問題が生じた。ここまで問題が生じるかには原因がある。夜の食事はアルコール中心で、極度のヘビースモーカー、激しい偏食で好む物しか口にしない。中年以降、この生活を続けてきた。大腸ガンの手術で入院し、退院したその日にタバコと飲酒だ。自らの趣向を止められない確信犯だが、全身が悲鳴を上げていることに自覚がないように思える。小柄な男性だが、体重は40キsを遙かに下回っていると聞いている。

 知人の60代の女性は膝痛に悩まされている。彼女の昼食は毎日外食で、食後にケーキが付きものだ。夏には更にコーラを飲む。運動は全くしない。朝夕の食事内容は知らないが、口ぶりから偏食であることが想像できる。外見のまん丸い体型は脂肪に覆われている事がよく分かる。最近の血液検査でγ−GTP値がかなり高くなっていると聞いた。アルコールは全く飲まないので、脂肪肝の疑いが強い。

 これら友人、知人に生じる障害は、若い時には同じような生活をしても生じないものだ。自分も経験があるが、いくらでも無茶な生活が出来た。加齢の進行につれ、能力の低下を自覚することが多くなる。身体の衰えは臓器の衰えであり、細胞の代謝機能の衰えでもある。機能低下は全細胞に平均的に生ずるのではなく、偏りがあるのだろう。老年期に入れば、持って生まれたDNAとそれまでの生活習慣のあり方が、老化の個人差として現れることになる。

 三石理論研究所が編集し、メグビー社が月一回発行している小冊子に、「メグビーインフォーメーション」が有る。人体に生ずる様々な機能障害を分子栄養学的見地から解説し、最新の研究情報を提供する情報誌である。最新号のテーマは「老年症候群」であった。これによれば、老化には「生理的老化」と「病的老化」があり、この二つが重なって多くの機能障害が現れるそうだ。老人特有の障害には、認知症や鬱、精神障害や起立・歩行障害、転倒、嚥下困難等の運動障害、更に、頻尿・失禁の排尿障害等が有る。これらの症状は高齢者特有の症状故、老年症候群と呼ばれている。これら外見上の老化は自覚できても、動脈硬化や肝機能、免疫力、各種代謝能力の機能低下は、病状として現れない限り自覚されないのが普通だ。

 老化が何故生じるかは、1880年代から幾つもの仮説が提唱されてきたそうだ。その代表がテロメア説だ。染色体の両端には、染色体を保護する塩基配列が有る。これはテロメアと呼ばれ、細胞分裂のたびに短くなる。テロメアが全て消滅すれば細胞分裂は出来なくなる。これが細胞の老化で、加齢と共にテロメア時計が進行するとの説だ。

 次いで、酸化説だ。細胞の中にはエネルギー産生の小器官たるミトコンドリアを抱えている。肝細胞は一つの細胞内に数千のミトコンドリアを有していると言われている。ミトコンドリアは酸素を利用してエネルギーを発生させるが、この時活性酸素も発生し、ミトコンドリアDNAや細胞膜の脂質が酸化され、次第にエネルギ産生能力が低下していく。老人の活力低下はこれが原因のようだ。

 加齢の進行と共に病原体感染によらない炎症に、細胞老化があると言われている。ガン病変や動脈硬化の部位では老化細胞が多く、これら細胞は炎症性サイトカインを放出する。それが更に細胞老化を促進させるとのことだ。これらの要因が複合的に重なって老化が進行するなら、ガン、糖尿病、脳梗塞、高血圧、心筋梗塞等の生活習慣病が中年以降に多く発症する根本原因は老化であろう。テロメア減少を防止する手段はないが、活性酸素による細胞老化や炎症による老化は対応可能かもしれない。

 生理的老化には、心・肺・腎・筋肉等の働きが熟年期より低下しているももの、日常生活を自立的に過ごせる「通常老化」と、リスク要因をコントロールしてし疾病発症を抑え、精神活動や身体活動、更に社会性や創造性ある生活を営める「健全老化」の二つがあるそうだ。我々高齢者が目指すのは「健全老化」で有ることは論を待たない。細胞の自然老化を防ぐことは出来なくとも、細胞内の酸化や炎症の一部を防止することは可能と考える。それには、分子栄養学で言う「高タンパク+メガビタミン」をベースにして、抗酸化食品を多く摂取する食生活に転換する必要があるだろう。

 70歳を過ぎてから、毎年、友人、知人の訃報や発病の知らせを受けることが多くなった。詳細を知るにつれ、中年から初老期に至る時期の生活習慣に、原因を見いだされることが多かった。喫煙、過度の飲酒、偏った食生活等が共通要因と思える。友人でも、老化防止をテーマに食生活を考える者は少ない。生きることは目的でなく手段だ。たとえ、人は持って生まれたDNAの宿命から逃れられないとしても、魂の乗り船たる肉体の健康を保つ事は、この世に生を受けた人としての使命であろう。

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