伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年9月12日: 前立腺ガン治療後の後遺症 GP生

 今年の1月、2年半に亘る前立腺ガンの治療全てが終了した。長いようで、過ぎてしまえば、もう終わったのかの感もある。治療は、半年間のホルモン療法、1ヶ月に及ぶ、放射線の内部照射と外部照射、その後の2年に亘るホルモン療法だ。後遺症と副作用は、放射線照射と男性ホルモン分泌停止によるものだ。放射線障害は、治療を終えても長期間継続する。この期間は個人差が極めて大きいようだ。ホルモン療法の副作用は、男性ホルモン・テストステロンの分泌が止められ事による代謝異常だ。代謝の異常は、ホルモン療法を止めても直ぐには回復しない。ましてや高齢者の身体機能は、若い時のそれではない。

 放射線治療による障害は、頻尿と切迫尿意だ。放射線照射中、排尿は一日20回を超え、夜間のトイレ行きは5,6回を数えた。外出時は、常にトイレのある場所を意識していた。放射線治療を経験した友人達の話を聞いても、これほどの頻尿では無いようだ。これは、治療法の違いによるものと思う。放射線の内部照射が原因と考えている。高線量率組織内照射と呼ばれる内部照射は、20本の中空針を会陰部から前立腺に刺し、この中を高線量のイリジウム192を2回循環させる療法だ。「放射線の照射を局所に留めることが出来るので、強い線源による照射が可能。完治の確率か高くなる」との説明を受けた。後日、CT画像を見せられたが、前立腺内に密集した20本の針先が、膀胱壁を突き破っていた。前立腺ガンは前立腺外周部に発生し、前立腺自体が膀胱に密着しているため致し方の無い事だ。

 膀胱内壁への物理的障害の回復は早かったが、強い放射線による影響は一朝には回復しない。現在も続いている。排尿が終わっても、膀胱内に尿が残ってしまうのだ。そして少し尿がたまると再び尿意を感じる。所謂頻尿だが、これに我慢できない切迫尿意が加わる。過敏性膀胱あるいは過活動膀胱と言われる症状だ。今でも、トイレに行ってから5分もしないうちに尿意を催し、かなりの尿が排出される。前立腺肥大の影響もあって、膀胱内の尿が完全に排出されないのだ。排尿は、自律神経によりコントロールされている。何かに集中している時は、長時間尿意を催さないが、暇な時は、意識した途端尿意を催し我慢できない状態に陥る。

 過膀胱活動改善のため、昨年9月から、宝ヘルスケア社のサプリ「ノコギリヤシ+イソサミジン」の摂取を始めた。ノコギリヤシは前立腺の肥大改善サプリとして有名だ。イソサミジンは、九州南部や沖縄諸島の海岸に自生するセリ科の多年草ボタンボウフウの葉から抽出したエキスだ。イソサミジンは血管拡張や動脈硬化改善も期待できるが、過活動膀胱の改善効能が最大眼目だ。一日3粒中、ノコギリヤシエキス320r、ボタンボウフウエキス63rを含有する。治療が始まってから記録しいる排尿回数等を見ると、サプリ服用半年を過ぎた頃から、やや顕著な排尿回数の減少が始まっている。最近は、夜間排尿ゼロの日が多くなった。

 ホルモン療法は、男性ホルモンの分泌を抑えるソラデックス・カプセルを前半6ヶ月は、1ヶ月ごとに、後半の2年は、3ヶ月に一度腹部に注入した。これにより精巣からの男性ホルモン分泌は止められた。副腎で少量分泌されるホルモンについては、カソデックス錠の服用で対処した。これは、前半6ヶ月で終った。前立腺ガンの増殖には、男性ホルモンが不可欠だ。男性ホルモンの分泌を止めれば、ガンの一部は死滅し、他は増殖を止める。自分の場合、PSA値はホルモン療法開始3ヶ月後には、48から1.0以下に低下した。ホルモン療法が始まってから暫くして、一時、GOT値が上昇したのは、死滅したガン細胞が肝臓に負担を掛けた結果だろう。

 ソラデックスの副作用は、「肝臓・胆管系や代謝に傷害を生じさせることがある」と、主治医から説明を受けた。これらの副作用は、治療した10%程度の人に発症するそうだ。自分の場合、コレステロールと、特に中性脂肪値の上昇が顕著だ。治療前LDLは150台、中性脂肪170台であった。基準値より少し高めだが、ホルモン療法が始まってからは、LDLは170、中性脂肪は300を超えた。現在でも代謝異常は続いている。

 男性ホルモンは、筋肉や皮膚、骨格に男らしさを発現する。男性は、40〜50代に掛けてテストステロンの分泌が低下し、男性更年期障害が起こすこともあるそうだ。男性ホルモンは血管を正常化し、コレステロールの沈着を防ぎ動脈硬化を防止しする。中高年過ぎてからの成人病は、男性ホルモンの分泌低下が遠因になっているのかも知れない。更に、男性ホルモンは、脳細胞を活性化させ、記憶力、集中力、認識力を向上させ、ドーパミンの分泌を盛んにする。やる気を起こさせる働きもあるそうだ。

 思い起こしてみると、前立腺ガンの治療が始まってから、何事に対しても意欲が低下した事を自覚していた。放射線治療の後遺症と思っていたが、それだけでは無かった様だ。一昨年の2月末、放射線治療の全てが終わった時期が、仕事の決算期に重なった。気力を振り絞って対処したが、今までに無かった苦しみであった。その後、次第に改善はされたものの、無気力状態は長く続いた。仕事に関することは、何とかこなしても、日常の些事には意欲が湧かないのだ。家人から頼まれたことはともかく、自ら目を向け、行動する意欲は起きなかった。マンションのエントランス落ちているゴミを、掃除する気力すら湧かなかったくらいだから。

 昨年10月に打ち込んだ最後のソラデックスが、今年1月に効果が無くなり、ホルモン療法は終了した。4月頃からだろうか、些細な事に意欲を持ってるようになった。意識したわけでは無く、自然に身体が動けるようになったのだ。ムーンフェイスも、何となく細見を帯びてきたように思える。男性ホルモの分泌が少しずつ始まったのだろう。主治医は、分泌が元に戻るのは半年から一年位はかかると言っていた。男性ホルモンの産生に不可欠な栄養素は、アミノ酸と亜鉛だ。タマネギの含硫化化合物やニンニクの成分が、産生を促進するそうだ。

 8月から、TG君の勧めでデキストリンの摂取を始めた。デキストリンは水溶性の食物繊維で、国産品はトウモロコシからデンプンを抽出した残物が原料だ。デキストリンは、スムースな排便に効果があると同時に、中性脂肪対策にも有効だと教わった。摂取し過ぎると軟便になるそうだ。自分は、昼はヨーグルトに、夜は牛乳にそれぞれ5gずつ溶かして飲んでいる。次回の定期検診が、10月末に予定されている。さて如何なるか、乞うご期待だ。

 前立腺ガンは、ステージに応じた治療法が確立されている。放射線治療法の進歩は著しいし、重粒子治療法も登場してきた。ホルモン療法新薬の開発も進むだろう。即、命に関わるガンが多い中では、前立腺ガンは程度の良いガンと言える。それでも、治療後の副作用や後遺症により、生活の安定を脅かされる。今後、80歳まで慈恵医大で3ヶ月ごとの検診が続く。この間、PSA値が2.0を超えなければ完治だ。治療法の説明時に、主治から「完治を目指します」と言われたことは、記憶に新しい。病院と主治医に恵まれた事と、生活に意欲が湧いてきた事は素直に喜びたい。考えてみれば、寿命との戦いでもあるのかも知れない。

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