伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年6月27日: 英国のEU離脱 UH

 結果は「英国 EU離脱」となったが、直前の世論調査で残留優勢などと報道されたので、反動がけたたましく出ている。この場合、英国の離脱という結果はEU側の責任が非常に大きいように思われる。

 EUは巨大な官僚国家となり、ある意味で理想主義的な政策を強力に推し進めてきた。難民問題 しかり。環境問題、安全性問題 しかり。しかし政策課題というものは、一方に正義があれば一方にダメージが行く。八方にうまい話はないから、一般には「妥協の産物」となるのだが、EUでは他の国に比べて、そのバランス加減がおかしくなっていることが多いと感じられる。

 例えば環境問題に例をとってみようか。環境的視点から望ましい事柄は、自動車産業など製造業の立場から見れば勘弁してほしいというケースになりがちである。この場合、環境問題を一歩進めるものの、産業側の意向も斟酌した落とし所を探るのが通例である。ところがEUの場合、自動車産業を持たないオランダとかデンマーク出身の人がEUの大臣や官僚トップになることがある。そうした場合、当人は純粋に環境側や市民団体側などの意見に沿った、言ってみればややエキセントリックな決定を下すことに繋がりやすい。全般的に見てもEUの官僚機構は実社会・経済から遊離した頭でっかちになってきた。

 EUとアメリカを比べるとおかしいほどの差があるから、その辺のことがよくわかる。環境問題において、アメリカは京都議定書すら認めなかったけれど、あそこまで産業界などの意向をくむと、地球環境の先行きが危ぶまれる。その後もEUの求めるものとアメリカでは、相当レベルの差が出ているけれど、一概にEUが正しいとも言えないのが現実である。EUに属している28の国々では、EU本部が推進する難民対応政策や各種規制に不満を抱いている国や国民が少なくないのが現状だが、通貨ユーロのパワーに依存している側面がある。人口5億人のもたらす市場規模の魅力も捨てがたいだろう。しかし英国の場合、ユーロには参加せず、言いたいことを言いやすい立場にあった。

 今回の結果を受けてEU本部側が反省し、行き過ぎた事柄を見直すことになれば望ましい方向に進むことになるかもしれないが、当面はそのようにはならないだろう。何せ、ほかにも不満が渦巻いている現状で、英国に続いて離脱を望む国の出現が続いたらEUの崩壊リスクが生まれるので、EU本部側は英国との協議においてハードルを高くし、「EU離脱がどんなに大変か、高くつくか」見せつけることだろう。 そうなれば反省どころの騒ぎではなくなることだろう。

 一方で、英国の離脱派の面々も、EUがもたらしたメリットについて過小評価している感じが否めない。これからの時間の経過、物事の推移によって、そうしたことの実際がクローズアップされるだろうが、どちらの側が泣きを見ることになるだろうか。

 さて以下は蛇足であるが、今回の離脱という結果によって我が安倍政権は大きなボーナスをもらったような気がする。

 最近、件の朝日新聞は、参院戦を前にして「「改憲4党 2/3をうかがう」という予測報道に力を入れている。「2/3を超えると改憲に繋がりますよ」と言い続けることで 褒め殺しを狙ってのことだ。朝日的常套手段である。

 ところが「英国EU離脱」という結果を受けて、先般の伊勢志摩サミットにおける安倍さんの勇み足「リーマン級のリスクが・・・」という言葉が、現実のものとなってきたのである。こうなると危機対策としてアベノミクスのブースターをさらに噴かすべきという点や、消費税上げの延期がツボにはまってくるのだから皮肉である。

目次に戻る