伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年4月25日: 民進党の迷走 T.G.

 北海道5区の結果が出た。前町村信孝自民党議員の死去にともなう補選だが、昨年9月の安保法制以来初の国選と言うことでマスコミの注目を浴びた。野党は安保法に異議を突きつけ、廃案に追い込む選挙と、なりふり構わぬ選挙戦で臨んだ。その極めつけは民進党(いまだに馴染めない党名)と共産党との選挙協力である。政策無視の野合で候補者を一本化したが効果は上がらず、自民公認の和田氏が順当に当選した。

 和田氏は町村氏の娘婿で、一種の弔い選挙である。結果を見ると、2014年の前回選挙での町村氏の得票数131,594票(50.9%)に対して民主党と共産党の合計得票数126,498票(49.1%)だったが、今回は和田氏135,842票(52.4%)、民進+共産123,517票(47.6%)で、形成はまったく変わらなかった。野党連合が鳴り物入りの安保法制批判を展開したにもかかわらず、リベラル左派が強い北海道にしては、むしろ野党連合の数字が落ち込んでいる。

 昨年9月に成立した安保法案に対し、野党は「安保法廃止、立憲主義の回復」を主要争点に掲げた。安保法制に異を唱える政党の選挙方針としては、必ずしも間違ってはいない。賛否はともかく、一幅の絵ではある。しかしながら安全保障問題を争点に掲げながら、基本政策に乖離がある民進党と共産党が選挙協力したことは大いに疑問である。党の綱領に「自衛隊の段階的解消、日米安保の破棄」を掲げる共産党とそうではない民進党が、安保政策で一致できるわけがない。政策無視の候補者一本化は、悪魔に魂を売るのと同じで、政権交代を目指す政党としては自殺行為である。党名をわざわざ民進党に変えながら、この党はどこへ行くつもりなのだろうか。

 マスコミが注目する中で、選挙戦を派手に戦った野党候補の池田氏は、北海道江別市の選挙事務所で「権力に負けたが、この確かな一歩を希望に変えていきたい」と敗戦の弁を述べたと言う。ここにも野党連合の了見違いが滲み出ている。事務所内の仲間内の談話とは言え、新聞記者もテレビ局も入っている場所で「権力に負けた」とは、いくら何でもお粗末である。これでは青臭い左翼かぶれの若者と同じではないか。池田氏がどういう出自の候補者か知らないが、いったい彼女は権力をどう考えているのか。途上国ではあるまいし、日本の選挙は権力者にコントロールなどされていない。そのことは国民が知っている。おそらく彼らは自分たちの意見にそぐわないものすべて国家権力と見なしているのだろう。革命を目指す共産党が、既成秩序をすべて敵と見なす論法に似ている。この選挙戦が共産党に牛耳られていたことを如実に物語っている。この点、党首の岡田はどう考えているのだろう。

 安全保障政策を争点にして選挙を戦いながら、なぜか池田候補は無所属だという。彼女が議員になったら、どういう立場で安全保障議論に参加するのか。自衛隊存続、日米安保堅持の立場であれば民進党だし、そうでなかったら共産党だ。既成秩序のぶち壊しを狙う万年野党の共産党ならそれでもいいが、政権政党を目指す民主党にとっては問題だろう。今回の選挙で池田氏がシールズなどと言う怪しげな若者団体を担ぎ込んだことも間違いだ。昨年の安保法制騒ぎに便乗して出来たにわか団体だが、昔の全学連と同じで共産党の鉄砲玉、別働隊である。そのことは国民が知っている。これで選挙戦がいっぺんに胡散臭くなった。野党連合の敗因の一つだろう。安保法制に首をかしげても、共産党には拒否感をもつ有権者は少なくないのだ。このあたりも岡田民進党の計算違いだろう。

 他の先進国にはあって日本にないものは、政権交代可能な健全野党である。ミャンマーでさえスーチーが政権を取った。政権交代が可能な野党を欠いた日本は、いつまでたっても政治が成熟しない。そういう意味で、民進党には掛け値なしに頑張ってもらいたい。かっての社会党のような何でも反対の泡沫野党ばかりでは、政治に緊張感が出ない。政治が革新されず停滞する。現在の安部政権は基本的に順当な政治をやってはいるが、緊張感を欠いた党運営は冗漫になっている。次元の低いスキャンダルが続出しているのはそのせいだろう。にもかかわらず、今回の民進党の選挙戦略はお粗末だった。風を活かせなかった。とりあえず北海道5区を押さえるだけならいいが、本場所である次の総選挙ではどうするつもりだろう。今回のように基本政策が違う共産党との野合に流れているようでは、国民は信任しないし、いつまでたっても政権は取れない。

 民進党が目指すべきは、あくまでも政権交代可能な健全政党である。そのためには国の骨格である安全保障と金融財政について、確固たる理念や政策を国民に提示しなければならない。血肉である社会福祉や教育などの政策は、おいおい付け加えればいい。安保法制に反対なら、それに代わるしっかりした安保政策を国民に提示すべきだ。対案がない法案廃棄では国民は納得しない。安心して国を任せられない。アベノミクスを批判するなら、それに代わるトータルな金融財政政策を国民に提示すべきだ。日本の経済情勢は待ったを許さない。その上で局面に応じて誠実で建設的な政治活動を続けていれば、国民の信認を得て遠からず政権にたどり着けるだろう。

 国民は現在の自公体制に必ずしも満足しているわけではない。アベノミクスも行き詰まっているし、安保法制も国防という面では不十分だ。トランプ旋風で日米安保に隙間風も吹いている。まずやるべきは、共産党との野合のような愚劣な戦略に頼った岡田、枝野ラインを変えることだろう。国家観と志を欠いた彼らにやらせていては駄目だ。いつまでたっても政権は取れない。民進党に人はいないのか。

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