伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年3月29日: 神風トランプ旋風 T.G.

 共和党のトランプ候補がアメリカ大統領選挙を賑わしている。過激な発言がひんしゅく買い、やがて潰れるだろうと見られていたがその反対である。過激発言が大いに受け、今では押しもされぬ共和党の筆頭候補になった。民主党のヒラリーもトランプ相手ではやりづらいらしい。下手に過激発言を非難すると、選挙民の反感を買い支持率を減らしかねないと言う。それくらいトランプの発言はアメリカ国民の少なからぬ支持を受けているようだ。

 彼は従来から日米安保の片務性と米軍駐留経費の大きさに疑問を投げかけていたが、最近になってさらに一歩踏み込んで日米安保条約解消、在日米軍引き上げに言及するようになった。戦後70年続けてきたアメリカの伝統的安全保障戦略の完全否定である。いくら何でもと思っていたが、どうやらアメリカ国民の受けは悪くないらしい。そうなると仮にヒラリーが大統領になっても、そういう国民の意向を無視できなくなる。何かしら政策に反映させる必要が出てくる。どうやら期せずしてトランプが日米同盟の潮の変わり目を呼び込んでいるようだ。

 トランプ氏は単なるアジテータで政治経験はない。だからアメリカにとっての日米安保と在日米軍基地の意味や価値がまるで分かっていない。日本に頼まれて仕方なしにやっていると思っている。考え違いも甚だしい。在日米軍基地は戦勝国アメリカの戦利品であり、以前は対ソ連、今は対中国のアメリカ防衛最前線基地に使っている。断じて日本防衛が目的ではない。そのことは普天間を見ればよく分かる。アメリカの戦利品の扱いについて、日本の左翼が意味もなく不平不満を垂れるが、アメリカはいっさい関知しない。彼らにとって普天間の危険性などどうでもいいことなのだ。日本防衛にしても単なる条約上の口約束に過ぎない。仮に中国が尖閣に侵攻してきても、おそらく在日米軍は動かない。見て見ぬふりをするだろう。歴代大統領がたびたびそのことを匂わせている。

 それはそれとして、トランプの思慮に欠けた発言が、少なからぬアメリカ国民の共感を得ている事実には目を向けなければならない。安保条約の片務性や莫大な駐留経費への忌避感を、アメリカ国民が感じ始めている。トランプ発言の是非はともかく、そのことに我々日本国民はそろそろ思いを致すべきだ。いつまでも国防をアメリカ任せにしては置けないと。日本人は忘れているが、手前勝手なアメリカに過去に何度も煮え湯を飲まされてきた。呑気にしていると再び足下をすくわれかねない。自国防衛はそろそろ自分でやらねばと。

 そもそも一世紀近くの長きにわたり、自国領土に他国の大軍隊を居座らせ、防衛を丸ごと委ねてきたことが異常なのだ。そんなおかしな国は世界中どこにもない。後進国を除けば日本だけである。ドイツ駐留の米軍はヨーロッパの安全保障体制であるNATO戦略の一環である。ドイツ国民はそう理解している。だから文句は言わないし、領土内の核配備の合理性も理解している。しかしながら日本国民はそうではない。右も左も感情論と思考停止で現実を見ない。両国民の成熟度の差だろう。

 考えてみれば、トランプ発言が巻き起こす効果は、日本にとって左派も右派も大いに歓迎すべき事だ。左派にとってはいままで忌み嫌ってきた日米安保体制が解消され、在日米軍基地がなくなる。沖縄県民の天敵である普天間や辺野古移設が、願い通り一挙に消滅する。基地返還や条約破棄なんて、こちらから持ちかけたらいくら吹っ掛けられるか分からないが、向こうさんの都合だから代替条件もない。万々歳である。もう安保法制反対などと意味不明の政治闘争をする必要もなくなる。トランプ様々である。

 同じ事は右派にも言える。アメリカさんがいなくなったら、独力での自主防衛が必要になる。いくら日本人が平和惚けでも、それくらいは理解するだろう。理解しなければ世も末である。日本はお終いである。そうなると自主防衛体制確立を邪魔立てする憲法九条は、即刻廃止か改変する必要がある。70年間果たせなかった憲法改正がトランプ様のお陰で実現する。こちらもめでたしめでたしである。

 世界第三の経済大国が、一世紀近くも自国防衛を他国に委ねているのは世界史にも例がない奇観である。こんな異形があと10年続くはずがない。しかしながら一国平和主義のぬるま湯にどっぷり浸かっている日本国民は、そのことに気づかない。誰かが分からせてくれるまで気づかない。300年間太平に明け暮れていた鎖国日本は、ペリーの黒船でビックリ仰天。置かれた危うさに気がついて、一挙に明治維新を成し遂げた。そういう意味でトランプの過激発言とペリーの黒船来襲は似ている。もしかするとトランプ旋風は日本にとって神風なのではないか。危うさに気がついた日本人は、明治維新の時のように一挙に日本の政治や国の在り方を変えるのではないか。これが本当の戦後レジーム脱却である。

 安倍や岡田など、因習姑息なロートル政治家ではどうにもならない。さりとて幼稚なSealDsでは話にならない。日本を潰すだけだ。今こそ平成の高杉晋作、坂本龍馬、西郷隆盛出でよ!

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