伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年3月16日: 雪の肘折温泉へ湯治旅 T.G.

(肘折温泉)

 毎年この時期恒例の、雪の温泉へ湯治に出かけました。行き先は山形の豪雪地帯にある肘折温泉。月山の北東麓にある古くからの湯治場です。数年前にも一度行ったことがありますが、地元の人の話では今年は例年になく雪の少ない冬だったそうです。それでも豪雪地帯の温泉街は雪の中でした。

 いつも通り、Fu君のオデッセイに伝蔵荘仲間6人相乗りで出かけました。年金生活者の貧乏旅行、ガソリン代と高速料金を安く上げるためです。山形インターで高速を下りたあたりでは道の両側に雪はまったく見かけませんでしたが、国道13号線を新庄に向かって北上するにつれ雪が見え始めます。大石田を過ぎ、舟形から13号線を離れて肘折温泉のある大蔵村に向かって西へ進むと、途端に道路脇の雪が増え始め、雪国の風景に変わります。同じ山形でも南と北とでは積雪量がまったく違うことがよく分かります。

(肘折温泉、三春屋)

 到着したのは肘折温泉街の真ん中にある三春屋。3泊4日、朝昼晩3食付きで1万5千円という格安の湯治宿です。この温泉場で見かけるのは同様の古びた質素な湯治宿ばかりで、豪華設備の観光旅館は見かけません。東京から遠く離れていて、湯治目的以外の観光客は滅多に来ないのでしょう。我々6人、隣り合った8畳二間に押し込まれました。値段が値段なので仕方ありませんが、部屋の仕切りが襖と障子だけなので、隣の泊まり客の声が筒抜けなのには参りました。朝から晩まで温泉に浸かるだけが目的の湯治客にはさしたる支障はありませんが、プライバシーを気にする都会の観光客は耐えられないでしょう。

(宿上流の肘折ダム)

 湯治宿らしく部屋も食事も質素ですが、温泉は実に素晴らしい。石造りの湯船に源泉かけ流しの少し熱めの湯が蕩々と流れ込んでいます。肘折温泉は源泉の湯量が豊富なので、どこの宿も源泉かけ流しが当たり前です。温泉地でよく見かける加水循環型のインチキかけ流しとは大違いです。肘折温泉は1万年前の噴火で出来た直径2キロの肘折カルデラの中央に位置しているので、湯量は無尽蔵なのでしょう。

 ここに3泊してひたすら温泉を堪能しました。湯治が目的なので、碁を打つか散歩する以外、やることがありません。寝ては温泉、起きては温泉。朝から晩まで温泉に浸かりっぱなしです。夜中に目覚めて小用に起き、ついでに入る温泉がまた格別。寝静まった人気のない深夜の温泉に浸かって、じんわり温まった体を布団に潜り込ませると、天国のように快適です。朝までぐっすり寝られます。温泉に浸かる以外日がな一日何もしていないのに、妙に腹が減って三度の食事が待ち遠しくなるのはどういうわけか。温泉に浸かるのはかなり体力とエネルギーを消費するようです。

(肘折ノルディックスキー場)

 三日目はさすがに退屈になって、午前中温泉の裏手の山にある町営のスキー場に出かけました。珍しいノルディックスキー専門のコースです。車で20分ほどのスキー場に着くと、スキー客は一人もおらず、広い雪原が閑散としています。手持ちぶさたの係員にレンタル料千円のスキーを借りコースに出ると、平らな斜面を雪上車で踏み固めた周回コースが出来ています。地元のノルディック競技の選手は一週10分程で回るそうですが、ノルディックスキーは初めての仲間達は1時間近くかかっていました。エッジがついていないノルディックスキー板だと、下りでコントロールが効かず転びまくりなのだとか。スキーをやらない当方はスノーシューでスキー場の上の稜線に登りました。そこから見下ろす新庄方面の盆地は、見渡す限りの雪景色です。

 宿に帰って再び温泉三昧。翌日帰途に着きましたが、車窓から振り返る真っ白な雪の月山、朝日連峰が見事でした。

目次に戻る