伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年12月3日: 犬のアレルギー性皮膚炎 GP生

 以前、日誌に書いた通り、自分は3匹の小型犬を飼っている。3匹とも女の子で、何れも処女のままだ。7歳のシーズー犬が今回の問題犬である。このシーズーの毛が、3年ほど前から抜け始めた。下半身や尾っぽの毛が全て抜け落ちたり、耳の毛、それに胸毛が抜けたりする。毛が抜け落ちた後の皮膚は、赤くなっていたり、乾燥した皮膚の断片がはがれ落ちたりもする。残った毛にも、沢山のフケが付着した状態がしばしばだ。皮膚アレルギーの症状だ。かゆいのだろう、何時も後ろ足が届く範囲の皮膚をかいている。人のアトピー性皮膚炎と症状が類似している。

アトピー性皮膚炎は、「アレルギーの異常反応」と「皮膚を保護するバリアー機能の異常」により発症する。遺伝的要因も考慮に入れる必要があるかも知れない。シーズーの皮膚アレルギーに対処するために、アトピー性皮膚炎の処方を参考にした。

 「アレルギーの異常反応」は何故起こるのか。白血球中のリンパ球にはT細胞が在る。T細胞には細菌やウィルスを攻撃、破壊するTh1細胞とB細胞に抗体を作らせるTh2細胞とがある。このTh2細胞がB細胞にIgE抗体を作らせ、これがアレルギーを起こす物質とくっき、ヒスタミンやロイコトルエンを放出させる。その結果、アレルギー症状が起きると言われている。花粉症、気管支ぜんそく、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎等の症状だ。アレルギー患者はTh1細胞とTh2細胞のバランスが崩れ、Th2細胞が多くなっている。これらの働きは腸内でコントロールされている。

 Th1細胞を増やし、Th2細胞を減らせば良いのだが、簡単なことではない。プロスタグランジン=PGと呼ばれる局所ホルモンのバランスが関係しているからだ。PGは3種類有り、代謝を絶妙にコントロールしている。PG1とPG3は抗炎症の働きをし、PG2は炎症性を有する。体内でPGのバランスが崩れPG2が増加すると、Th2細胞を増やすので、アレルギー反応は更に大きくなる。牛、豚肉に多く含まれる不飽和脂肪酸のアラキドン酸は、PG2生成の材料になる。魚油や亜麻仁油、エゴマ油等に多く含まれるω3系と言われる不飽和脂肪酸は、抗炎症性PGの材料になるαリノレン酸を多く含有する。油をバランス良く摂取する事は、人でも努力が必要だ。

 「皮膚を保護するバリアー機能の異常」は、皮膚を保護する「セラミド」の生成能力の低下により生じる。正常な皮膚は、常在菌には反応しないが、保護機能の落ちた皮膚には病原菌や抗原が進入し免疫反応や炎症が起きやすくなる。セラミドの生成にはアミノ酸とω3系のαリノレン酸とγリノレン酸、補助物質としてビタミンB6・亜鉛・ビオチン・ビタミンAが必要だ。何れにしても重要なのは、ω3系脂肪酸の摂取だ。

 これらの知見を基に、シーズーの皮膚アレルギー解消のため、幾つかの対策を行った。まずは、ドッグフードを通常犬食から皮膚や消化管の配慮した餌に変更した。フランスのロイヤルカナン社の「Vets Plan セレクトスキンケア」と呼ばれる餌だ。特徴は、アレルギーの原因になりにくい七面鳥のタンパク質と米をベースにしていることだ。更に、ω3系の脂肪酸や銅、亜鉛、ビタミンB群、抗酸化物質を含有している。腸内細菌バランスに配慮した食物繊維も含まれている。餌を換えてから、皮膚の状態に改善の兆しが見えたが、完全解消には遠かった。

 皮膚の乾燥対策は、定期的にスペシャルオイルを塗り込みマッサージを行った。γリノレン酸を多く含有する月見草油に、ビタミンEとAのカプセルの中味を混合したオイルだ。ビタミンAは魚油に溶かし込まれているので、EPAとDPAが豊富だ。何れの成分も油性であるので、皮膚からの吸収は容易だ。何回も塗ると皮膚から魚油特有の臭いがするのは欠点だが。ビタミンEは皮膚の炎症を抑え、ビタミンAは皮膚の分化に貢献しているはずだ。他の成分はセラミド生成の材料になる。特に、完全に毛が抜け落ち、乾燥肌が露出している部分に、根気よくオイルを塗り続けると、2ヶ月ほどすると毛が完全に生えそろう。ビタミンB群を補充するため、ビタミンB剤を食事の度に服用させた。

 シーズーは定期的にシャンプーとカットが必要だ。毛が伸びやすいのと、オイルを塗っているので体臭が濃くなるためだ。犬用のシャンプーを使うと脱毛が促進される。含有する化学物質が皮膚を刺激するのだろう。人用のシャンプーを幾つか試したが駄目だった。たどり着いたのが「太陽のせっけん・犬用」だ。原料油脂は全て天然材で、塩が35%含有されている。価格が極めて高いの難点だ。これを使ってから、皮膚と毛の状態は安定してきたが、それでもオイルマッサージは必要であった。シャンプーの間隔を狭めると、塩分の影響により脱毛を促進させるので、インターバルの見極めが難しかった。

 暫く、「セレクトスキンケア、オイル、太陽の石けん、ビタミンB剤」を続けたが、皮膚の安定は難しかった。かかり付けの獣医に相談した所、免疫抑制剤シクロキャップを勧められた。この薬は、犬のアトピー性皮膚炎抑制剤との説明を受けた。薬効のメカニズムは分からない。皮膚の炎症は抑制できても、免疫力全体を弱体化すさせるので、直ぐには飛びつけなかった。関節リュウマチで免疫抑制剤を服用している友人がいる。彼は冬期、人混みの場所には絶対に近寄らない。感冒、インフルエンザの罹患を避けるためだ。

 数ヶ月前、皮膚疾患の犬に特化した餌・「スキンサポート」を見つけた。ロイヤルカナン社の製品だ。成分を検討すると「セレクトスキンケア」に比べ、アレルギー対策と皮膚保護の成分が優れている事が分かった。早速注文したが、ネット価格でもペッツプラン比べて遙かに高価だ。同時に免疫抑制剤の服用を始めた。悩んだ末の決断だ。最初の1ヶ月は毎日食間に飲ませた。その後は1日おきにした。

 最近、手造り石けん「スーパーササボン」をシャンプーに使い始めた。家人が以前から使っている石けんで、オリーブ油等の不飽和脂肪酸を始め原料全ては天然材である。太陽の石けん以上に、肌に優しい材料を使用している。アトピー性皮膚炎やニキビに効果があるとの説明もあった。太陽の石けんに比べ安価であった。この石けんのベビー用を取り寄せた。効果はてきめんで、フケの発生が激減した。皮膚の赤味も減少したように思えた。

 最近、シーズ犬の毛並みが整ってきた。毛が抜け落ち、赤い皮膚を露わにしていた尾っぽにも毛が生え、ふさふさ感が出てきた。毛が抜けて、赤く腫れていた胸部にも毛が増えてきた。後ろ足で身体をかく動作も見られなくなった。皮膚の状態が安定してきたのは、処方の総合的効果だと思う。免疫抑制剤は、毎日服用で8週間が限度だ。11月末で限度期間を迎えた。12月から免疫抑制剤の服用を止め、「スキンサポート、ビタミンB錠、スーパーササボン、オイルマッサージ」で対応している。

 アトピー性皮膚炎の対処療法にステロイド剤の使用がある。薬効は顕著で皮膚の痒みは解消し腫れも消える。ステロイド剤は細胞膜からアラキドン酸が出てくるのを抑止して、PG2の生成を抑えるから炎症は治まる。同時に、必要なPG1やPG3の生成に必要な不飽和肪酸も抑えてしまうので、長期の使用は身体に異常を起こすことになる。ステロイド剤や免疫抑制剤の長期使用は、人か本来有する機能を乱すことになる。犬とて同じだ。

 自分が子供の頃、アトピー性皮膚炎に悩む子供は一人もいなかった。現在は昔に比べ、食生活の変化が著しい。偏った親の食生活が胎児に影響し、子供が幼少時に発症するのかも知れない。問題のシーズーも、親が食べた餌に問題があったのかも知れない。犬の餌はピンキリだ。質の悪い餌は犬の寿命に直結する。免疫抑制剤の服用を止めた今月以降、シーズーの皮膚が如何なるか。新たな対策を講じる必要がないことを願っている。

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