伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年10月25日: 前立腺ガンの治療終了 GP生

 平成25年の5月、激しい血尿に見舞われたのを契機に、前立腺ガンの進行が明らかになった。長い治療を経て、つい先日、最後のホルモン療法のカプセルが腹部に注入された。カプセルの効果は3ヶ月継続するので、来年1月末には効果が消滅する。治療終了がガンの完治に繋がれば良いのだが、そうならない可能性を秘めているのが、ガン治療の難しさだ。現在の検査技術をしても、治療後に、ガン細胞の転移の有無を直ちに知ることが出来ない。人がガンと宣告された時、生き方が試されることになる。

 思い起こせば、近くの泌尿器科で血尿の診察を受け、ガンの疑いから、紹介された慈恵医大泌尿器科での検査がスタートだった。まずは、血尿の原因を見極めることから始まった。血尿は腎臓、膀胱、前立腺等の臓器が発生源だ。CT検査で腎臓の疑いは晴れ、内視鏡検査で膀胱も除外された。血液検査の結果、PSA値は48、生検針12本中6本にガン細胞がヒットした。血尿は前立腺ガンによるものと確定された。

 生検によるグリソンスコアーは7。進行ガンであるが、骨シンチ検査の結果、転移は無く、ガン細胞は前立腺に留まるかなりの悪性との診断であった。前立腺ガンは、何故か前立腺周辺部に発生する。従って、癌細胞の増殖が進むと周辺臓器やリンパに転移しやすくなる。自分の病状は、前立腺を切除しても肉眼判定出来ない周辺部に癌細胞が残存する恐れがあり、手術は除外された。

 主治医は「ホルモン療法+放射線治療+ホルモン療法」を選択し、詳細な説明を受けた。放射線治療前のホルモン療法は6ヶ月間行った。前立腺ガンは男性ホルモンが無いと生存ないしは増殖できない。他の臓器のガンに無い特性だ。男性ホルモンの90%以上は陰嚢で、残りは副腎で産生される。陰嚢からのホルモンは、腹部に皮下注射されたソラデックスにより産生が抑制され、副腎からのホルモンは、飲み薬カソデックスが前立腺のホルモン受容体に干渉する。この結果、1ヶ月後のPSA値は5.95、その後、毎月0.26,0.11,0.05と順次低下した。

 放射線治療は「高線量率組織内照射+放射線外照射併用」と呼ばれる慈恵医大独自の療法を受けた。放射線治療は高線量ほど癌細胞の致死率が高いが、同時に周辺の健全臓器に対する副作用が増大する。組織内照射とは、前立腺に20本の中空針を刺し、針内に小線源(イリジュウム192)を循環させ、患部に集中して高線量を照射する治療法だ。周辺臓器への影響は極力抑えるられる。2日間照射する為、股ぐらに20本の針を刺したまま、一晩過ごさなければならない。これが最大の苦痛だ。外部照射は最新の高精度放射線治療器により16日間行われた。内部照射で70%、外部照射で残りのガン細胞を死滅させるコンセプトであった。

 放射線治療の副作用は、長期に亘る排尿障害にある。自分の場合、治療後1ヶ月は夜間5,6回のトイレ行きで、一日20回以上の回数となった。前立腺に20本の孔が開いている為、血尿が止まるのに10日以上を要した。外部照射の為の通院は、トイレ行きとの戦いでもあった。頻尿だけでは無く、尿意を催したら我慢が出来ない切迫尿意もストレス要因となった。20分以上の車の運転は無理であった。排尿障害のみならず、体調不良が長く続いた。何をするのも意欲が湧かず、期限が決まっている事務処理は死ぬ思いであった。放射線治療による体調不良から抜け出た時は、晩秋を過ぎていた。

 放射線治療後、2年間はホルモン療法の継続だ。3ヶ月に一度、カプセル注射と血液検査、尿検が続いた。この間のPSA値は0.01以下だった。先日、最後のカプセルが打ち込まれ、慈恵医大での全ての治療が終了した。問題は来年1月以降のPSA値が如何なるかだ。主治医は、自分が受けた治療による再発率は、統計的に30%だという。外部照射のみだと50%、手術でも50%だと言われた。前立腺ガンと言えども根治が如何に難しいかの現れだ。

 自分の友人、知人も今年に入って再発を知らせてきた。一人は手術による全摘、一人は外部照射治療だった。治療後のPSA値が2.0をオーバすれば再発と診断される。高齢者が再発した場合、放射線治療や手術は不可だ。体力が持たず、かえって寿命を縮めてしまうからだ。残るのは、ホルモン療法のみだが、それとて、何れガン細胞に耐性がが生じて効果が無くなる。自分の場合、再発してホルモン療法の効果が無くなり、全身に転移して寿命が尽きる頃は、80歳を遙かに超えている筈だ。心配するのは野暮と割り切っている。

 現在も排尿障害は続いている。夜間の回数や一日の回数は年齢並みに落ち着き始めたが、時々、切迫尿意を感じる。尿意を催すと我慢が出来ないのだ。1時間を超える車の運転時には、「超うす型 まるで下着」なる紙パンツを利用している。最初は、抵抗があったが、使ってみると安心感がまるで違う。2回分はOKとのうたい文句通り、ぬらしても皮膚にベタベタ間が全くない。乾いた感触しか感じられず、外目にも普通の下着感しか見えない優れ物だ。

 2ヶ月前から「ノコギリヤシ+イソサミジン」のサプリの服用を始めた。ノコギリヤシは、その果実に含まれる成分が男性ホルモンの合成を抑える事から、前立腺肥大を抑制する働きが知られている。既に、肥大した前立腺を縮小する働きの有無は分からない。自分が注目したのはイソサミジンだ。イソサミジンは、九州南部から沖縄の海岸沿いに自生するセリ科の植物「ボタンボウフウ」に含有される成分だ。イソサミジンは膀胱の排尿筋をリラックスさせ、過剰収縮を抑制する作用があると言われている。

 自分の排尿障害は前立腺肥大によるものでは無く、膀胱原因と考えている。前立腺ガンと診断される前から前立腺は肥大していたはずだが、当時、夜間排尿はゼロ、一日の排尿は7,8回であった。排尿障害は無かったと思っている。放射線内部照射の影響が、膀胱の排尿筋過剰収縮に繋がったと思っいてる。少量の尿の蓄積で、直ぐに尿意を催すからだ。イソサミジンのサプリはタカラバイオが研究開発した商品で「ノコギリヤシ+」として販売されている。ノコギリヤシは要らないのだが仕方が無い。2ヶ月程度の摂取では顕著な効能は自覚できないが、排尿間隔が少し延び、排尿後数分で残尿が排出されるのは、イソサミジンの効果かも知れない。この手のサプリは最低半年続けなければ、回答は出せないものだ。期待はしている。

 主治医の話では、排尿障害が3,4年続く人も居るとのことだ。自分の排尿障害の回復は、早いほうだとも言われた。ホルモン療法による膨れ顔は来年には解消するはずだが、本来丸顔だから傍目には判別が付かないだろう。来年1月以降、長期に亘る検診が続くはずだ。最大の関心事はPSA値の動向だ。2年半の治療結果が試されている。興味津々の時を過ごすことになるだろう。

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