伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年8月10日: 認知症検査の体験 GP生

 今日、近隣では有名な脳神経外科病院で認知症検査を受けてきた。自ら積極的に受診した訳ではない。7月中旬の事だ、家人を郊外の整体院に車で連れて行った時、車内の冷房が効かず、家人が熱中症寸前の状態に陥った。原因は自分の感違いにより、A/Cのスイッチを押さなかった事にある。車は大型のミニバンで、車内は蒸し風呂状態になった。室温は40度以上に上昇していただろう。窓ガラスを開いて難を逃れた。フロントパネルには「AUTO」と「A/C」のスイッチがある。通常、「AUTO」のみで運転していた。「A/C」のスイッチを失念していたのだ。

 国の統計では65歳以上の高齢者の15%が認知症を発症していると言われている。75歳以上の後期高齢者を対象にすれば、認知症割合は更に上昇するだろう。もし、自分が認知症の入り口にあり、更に進行すれば、我が家の安寧は崩壊する恐れがある。認知を心配した家人の強烈な後押しを受けて、認知症検査を受ける事になった。

 検査はMRIと問診の二本立てだ。MRIの結果は、「VSRAD」と呼ばれるMRI画像解析ソフトにより解析され、数量化して画像と一緒に表示される。認知症検査の最新の武器と言える。認知症の7割を占めるのが、「アルツハイマー型認知症」で、まずは大脳で短期記憶に関係する「海馬」の萎縮に現れるそうだ。海馬と大脳全体の萎縮状態を数量評価することで、認知割合を客観評価すると説明された。

 もう一つは、問診による認知度合いの検査だ。自分の氏名、生年月日、今日は何年何月何日の何曜日?から始まった。三種の品名を記憶した後、何種類かの数字計算の後、品名を答えさせられたり、「たばこ、ブラシ、時計、鍵、10円硬貨」を眼前に並べ、後に、置いてあった物を問われた。三桁と四桁の数字が幾つも口頭で提示され、数字を逆から順に答える質問もあった。最後の質問は、野菜の名前を知っている限り述べよだ。日頃買い物をするスーパーの野菜棚をイメージして、名前を言い続けたら10種でストップとなった。短期記憶と長期記憶、時間感覚の確認であったようだ。満点は30点で、20点以下だと認知症の疑い有りだそうだ。3月に受けた免許証更新時の認知症試験を思い出した。あの時は、16品目の記憶を強いられた。

 MRI検査は初めての経験だった。騒音防止のヘッドホンを着装し、検査台に横たわり頭部が固定され、非常用のベルスイッチを左手に握らされ検査が始まった。何種類もの激しい音が耳元に響き渡り、ヘッドホンから流れる癒やしのミュージックは何回も遮断された。MRI装置はフィリップ社製の最新鋭機であった。微動すら許されぬ測定は15分で終了した。興味深い体験であった。

 「VSRD」による海馬の萎縮評価基準は、「0〜1」は「萎縮なし・アルツハイマー型認知症リスクは心配なし」、「1〜2」は「萎縮やや出現・経過観察の要有り」、「2〜3」は「萎縮がやや強い・認知症の疑いあり」、「3以上」は「極めて萎縮が強い・要認知症治療」の4段階に分かれている。医者は、大脳全体の萎縮より、海馬の萎縮状態が認知症の判断として大事だと言っていた。短期記憶障害は海馬の大きな役割だから、認知症は海馬の機能低下から始まるからだろう。従来のMRI画像の肉眼判定に比べ、萎縮状態を数量化できるのは、MRI機の進歩と認知症のデーター蓄積が進んだ結果だ。初期認知症診断に大きな力を発揮するだろう。

 全ての検査が終わり、主治医から総合判定の説明を受けた。脳の萎縮が見られない高齢者でも認知症を発症する事もあるし、萎縮しても正常である高齢者も多いとは、医者の説明だ。VSRADの判定結果は0.69で、海馬萎縮は問題なく、脳全体の萎縮を表す数値も2.26で、アルツハイマーリスクなしであった。問診検査は30点であった。75歳の脳として全く正常であるとの診断であった。今回の受診は、家人の心配を取り除く意味合いが強かった。自分も、現在の医療機器による大脳の客観評価に興味があった。過去15年以上継続してきた、独自の食生活が大脳にどのような影響を与えていたかを知る良い機会でもあったからだ。

 VSRADの判定結果は0.2とか0.3ではなく0.69だ。萎縮やアルツハイマーリスクに問題なしとの診断でも、海馬に多少の萎縮が起きているのかも知れない。MRI画像を見て萎縮の兆候が見られないとしてもだ。0.69程度の萎縮が起きていると考えれば、日常で物忘れや凡ミスのが生じるのかも知れない。車のA/CスィツチOFFに気付かなかったのも、0.69が関係しているのかも知れない。老人性健忘症の原因は、海馬の微少萎縮にあると想像できる。

 家人が心配する日常生活での凡ミスには理由がある。一昨年5月に発症した前立腺ガンは、無意識下で自分の心身に影響していたようだ。特に、昨年1,2月の放射線治療は身体に大きなダメージを残した。以前に近い日常を過ごせる様になるには、10ヶ月近い時間を要した。待ったなしの仕事は気力を振り絞っても正常時のそれとはほど遠かった。日常の家庭内の雑事は手抜きの連続だ。必要時以外では、思考は停止していた。

 今回の検査は、認知症に対する勉強の良い機会となった。アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の減少、脳の萎縮、老人斑の増加、神経現繊維の変化、更にβアミロイドタンパク質の蓄積により、健全な神経細胞を変化・脱落させる事で進行するようだ。スタートは短期記憶を司る海馬の脳神経細胞が減少する事だ。

 アミロイドと呼ばれるタンパク質は高齢者であれば、認知症患者でなくてもしばしば見られる現象だ。βアミロイドは認知症の原因ではなく結果であるとも言われている。タンパク質の変性は何故起こるのか。認知症は何故起こるのだろうか。医学的には原因は特定されていない。

 分子栄養学の観点から認知症発症の原因を推測できる。脳内毛細血管の血流減少と活性酸素による脳神経細胞の損傷だ。人は加齢が進むにつれ、全身の血行が衰えてくる。原因は、血管が老化により弾力を失うからだ。そうなると人体の合目的性により血圧は上昇する。人体最上部にある大脳に血液を送るには高い血圧が要求されるからだ。医者は安易に降圧剤を処方し、脳血管への血流量を減少させる。血流の減少は、脳細胞への酸素と栄養の供給減を招き、脳神経細胞を死滅させる。降圧剤と認知症の関連データーは寡聞にして知らない

 人体では呼吸した酸素量の2%が活性酸素に替わると言われている。人体は活性酸素に対する防御物質SOD (スーパーオキサイド・ディスムターゼ)なる酵素を産生し、発生した活性酸素を消去させている。若い時は、これの産生量が極めて多いから、激しい運動をして大量の酸素を消費しても、人体がダメージを受ける事はない。60歳を過ぎればSODの産生量は激減する。脳神経細胞は活性酸素の攻撃を受け、細胞内のタンパク質が変成する。皮膚に出来る老人斑と同様の変成タンパク質が脳内に生成されるのだろう。脳神経細胞の変成が進行し、認知の症状が現れる前に、脳内血行の低下防止と神経細胞の酸化防止を、同時に行う必要がある。

 脳内血管も内皮細胞にタンパク質の膜でカバーされた構造である。細胞の柔軟性は二重構造の脂質の性質により左右されるから、ω3系不飽和脂肪酸は欠かせない。更に、タンパク質とビタミンCの摂取は血管の弾力性維持に欠かせない。脳内神経伝達物質の産生にもタンパク質とビタミンの供給は不可欠だ。

 脳神経細胞の酸化防止力が加齢の進行と共に衰えるなら、坑酸化物質の積極的摂取により補うしかない。ビタミンE、Cや各種フラボノイド等だ。特にビタミンEは血流を促進させる効能は大だ。家人は時々眼前か真っ白になり一時的に視力を失う時がある。この時、ビタミンE4粒(αトコフェノール200r含有)を摂取すると、5.6分で視力が回復する。大脳の視神経に関係する毛細血管の血流が回復したものと考えている。自分は毎日、αトコフェノール300r相当のビタミンEを摂取してきた。

 アルツハイマーの症状を回復させる物質にイチョウ葉エキスがある。ドイツでは1965年に医薬品として登録された。イチョウ葉エキスの主成分、フラボノイドとギンコライドは活性酸素除去能力が高い。特に、ギンコライドは海馬に優先的に働き、脳の萎縮を抑制する事が確認されている。イチョウ葉エキスは毛細血管の血行を改善する働きがある。

 軽い胃炎が生じた時、γリノレン酸を含有する月見草油にビタミンEとイチョウ葉エキスの液体を混合し服用すると、胃痛が解消する事がある。Eによる消炎抑制・抗酸化とイチョウ葉エキスによる抗酸化力・血流促進とγリノレン酸による粘膜修復の複合効果の結果だ。消化器系に弱点のある家人は、この混合液を何時でも準備している。イチョウ葉フラボノイドは分子量が大きく吸収されないので、分子量を小さくする加工が必要だ。そのため、高価格である事か利用を難しくしている。医薬品に認定されれば保険が使えるのだが。

 今回、認知症検査を受けて良かったと思う。放射線治療の後遺症はともかく、自分の集中力欠如で、車中で家人を苦しめたのは事実だ。「AUTO」スイッチで全てをコントロールしているとの思い込みから、眼前にある「A/C」スイッチOFFに目に入らなかったのだから。日常でも物忘れを意識する事も多い。慣れから生じるケアレスミスは、車の運転では重なれば大事故に繋がる。

 加齢により脳力減退があるとしても、海馬を含めて大脳の状態が正常と判定されたことは安心材料である。歳を取ると日常の雑事に面倒くささを覚える事が多い。高齢者にとって、日常生活が惰性に流されず、小事においても集中力を失わない努力の必要性を強く感じた。高齢者にとって、脳力だけではなく身体機能全てが年々衰えていく。生活習慣全てに対して、見直す事が必要のようだ。

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