伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年7月2日: 軽井沢へドライブに出かける。 T.G.

 11年目の車検に出していた車が帰ってきたので、家人と二人で久し振りに軽井沢へドライブに出かけた。ディーラーの営業マンはそろそろ買い換えたらどうかと盛んに言うが、金もないし、もうこの先11年運転を続ける自信もない。どこも悪いところはないし、さしたる交換部品もない。車検費用も今までで一番安く上がった。だましだまし乗ればあと7〜8年は大丈夫だろう。そうなると20年乗ることになる。日本車の耐久性は実に大したものである。同年配の友人達の間で「一生もの」という物言いが流行っているが、まさに一生ものだ。

 軽井沢に着いて、家人が旧軽の商店街を散策している間、いつものように碓氷峠まで往復する。片道小一時間のハイキングである。梅雨の半ば、濃い緑が心地よい。別荘地を抜けて山道に差し掛かったあたりで小学生の団体とすれ違った。先生に引率されて峠から下ってきたところだろう。みなきちんと挨拶して通る。聞くと5年生だという。うちの孫より一つ大きいが、実に可愛い。

 峠は曇りがちで見晴らしがきかない。天気が良ければ、谷越しに妙義山塊と遠く関東平野が見渡せる。一休みして、今から下りると家人に電話して下山にかかる。ちょうど旧軽から峠まで往復するボンネットバスが着いたところで、観光客が大勢下りてくる。中国人が半分ぐらいである。大声の中国語ですぐ分かる。こんなところへ来てなにが面白いかと思うが、今頃はどこへ行っても中国人ばかりだ。

 4月に上田城趾の桜を見に行ったときも中国人だらけだった。日本人でもよく知らない、田舎の無名の城跡なのに、観光バスで大挙して押しかける。中国がよほど金持ちになったのだろう。いただけなかったのは桜見物の仕方である。みな桜の枝を引っ張って写真を撮る。中には枝を折り取って、それをかざして撮る不届き者もいる。周囲も係員も、眉をひそめながら見て見ぬふりである。よほど中国人観光客の恩恵に与っているためだろう。商売とは言え、なんともやりきれない。

 40分ぐらいで旧軽の商店街に下る。気づいてみたらここも中国人だらけである。ほとんどが家族旅行のようで、子供連れが多い。見たところ団体旅行客ではなく、個人旅行のようだ。団体ツアーに比べて個人の海外旅行は金がかかる。日本人でもよほどの金持ちしかしない。今の中国の一部の富裕層は、バブル時代の日本人よりはるかに金持ちなのだ。

 もう一つ驚いたことは、登り始めの別荘地内にある公衆トイレと、峠の山中の公衆トイレが、両方ともウォシュレットだったことだ。以前は普通の公衆便所だった。なかなか清潔で設備もしっかりしている。寒い冬の軽井沢でどうやって維持管理しているのだろう。我らが伝蔵荘も、たびたびウォシュレット化の話が出たが、冬季の凍結対策が不可能で、いまだに悪名高いポットン便所のままである。

 その後、千ヶ滝にある元務めていた会社の山荘に泊まる。まだ会社が盛んだったバブル時代に建てられた保養施設で、なかなか豪勢な作りである。元社員の我々も割安料金で泊まれる。40年間文句も言わず、働きづめに働いた余録だろう。

 それにしても、我ながらよく働いた。今でも時々家人が言うのだが、朝早く出て行って、午前零時前に帰宅したことがない。休みもほとんどない。子供は寝顔しか見たことがなかった。近所の奥さんに「旦那さんはどういうお仕事ですか」とたびたび聞かれたと言う。なにやら怪しげな仕事をしていると思われていたらしい。みなあの頃はそうやって働いていた。息子家族などを見ていると、最近のサラリーマンはああいう働き方をしなくなった。よく言えば我々の頃より生活を楽しんでいる。その合間に仕事をしている。我々のような働き方をしたら、いっぺんに離婚だろう。こういう働き方では、日本が落ちぶれていくのは致し方のないことだ。せめて中国様に来てもらわねば、情けない話、日本はもたない。

 朝起きて、朝食を済ませ、軽井沢のアウトレットに向かう。いつものお決まりコースである。今月から全店50%引きのバーゲンセールだと、家人は朝から張り切っている。女性はなぜああもアウトレットが好きなのだろう。特段買うものがあるわけでもないのに、ウインドウショッピングだけで楽しいらしい。何が面白いのか、男には理解できない。男は買いたいものがあるから買い物に行く。なければ金持ちでも行かない。先日も4年生の孫娘を連れて近くのショッピングモールへ行った。家人と二人で店をあちこち渡り歩いて、なにやら矯めつ眇めつ品定めをしている。当方が近づくとジイジはあっちへ行っててと追い払われる。そうやって小一時間かかって可愛いTシャツを一枚だけ買った。男なら3分で済む。小学生にしてすでに大人の女性のショッピングである。栴檀は双葉より芳しか。

 アウトレットでかれこれ3時間、ウインドウショッピングに付き合った後、帰途についた。久し振りでのんびりしたドライブを楽しんだ。

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