伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年4月26日: 食料油と高齢者の健康管理 GP生

 我が家の3匹の犬は、定期的にシャンプーとトリミングを行っている。この内、7歳のシーズー犬がアレルギー体質で、皮膚が乾燥し易く、はがれたり、大量に毛が抜けたりする。毛の抜けた痕が赤く腫れ上がる事もある。シャンプー時には、肌に優しい「犬用・太陽の塩石けん」を使ってもらっている。ドッグフードはターキーベースのアレルゲンの少ないスキンケアー食だ。それでもアレルギーが起きる。シーズー犬は、足の届く範囲をかきむしり、出血する事も多い。この症状が何時起こるのか予測が付かない。今度も激しい症状が起きた。

 皮膚の乾燥は保水機能の低下で起きる。シーズー犬は生来、皮膚の代謝に問題を抱えていていて、スキンケアー食だけでは解決出来ないのだろう。皮膚の乾燥が始まると、月見草油にビタミンEとAを加えた自家製治療油を毛が抜け皮膚に毎日塗布する。数日すると腫れが引き、皮膚の乾燥状態が改善され、3週目頃に毛が生え始める。ビタミンE、Aは脂溶性ゆえ皮膚から吸収される。Eは抗炎症作用、Aは皮膚の再生に必須のビタミンだ。月見草油には、皮膚の正常化に必要な不飽和脂肪酸のγリノレン酸の含有量が多い。ビタミンAとEはサプリのカプセルをつぶして利用する。Aはカプセル中のEPAとDHAを含む魚油に溶かし込まれている。この二つの脂肪酸も必須だ。

 犬のシャンプーとトリミングを生業としている女性に高校生の女の子がいる。彼女は子供の頃からアトピー性皮膚炎に悩まされていて、現在休学中だ。子供の頃アトピーでも、成長するにつれて治癒する例は多いが、彼女は未だ悩まされている。彼女は、母親からシーズー犬の皮膚アレルギーが改善された話を聞き、治療に利用できないかと、電話を掛けてきた。彼女からアトピー性皮膚炎の症状を聞くと、シーズー犬の症状とオーバーラップしていた。シーズー犬が回復した理由とアトピーと油の関係について話をしたが、細かい話は電話では出来ない。次回、犬をシャンプーに連れて行った時に、話をする約束をして電話を切った。

 食用油に含まれている脂肪酸の役割については、分子栄養学の重大なテーマの一つだ。勉強会で得た知見の基本は、記憶に残っても、細かい知識は時間の経過と共に薄れてくる。アトピー性皮膚炎との関連を含め脂肪酸の復習を始めた。アトピー性皮膚炎の原因は大きく分けて二つある。一つはアレルギーの異常反応、二つ目は皮膚を保護するバリアー機能の異常だ。アレルギーは免疫系で炎症を起こす物質が作られる事、及び炎症性の局所ホルモンが多量に作られる事で生じる。一方、抗炎症性の局所ホルモンの生成が少ない事がアレルギーを助長する。皮膚のバリアー機能の低下は、バリアー材料の不足に起因することが多い。

 免疫系の異常改善は腸内環境を正常にする事が基本だ。乳酸菌、オリゴ糖、食物繊維の定常的摂取で改善が期待できる。局所ホルモンは不飽和脂肪酸に属するリノール酸、アラキドン酸、αリノレン酸を材料にして 、細胞内で三種類のホルモンが生成される。アラキドン酸から生成されるホルモンは炎症を起し、αリノレン酸からは炎症を抑えるホルモンが作られる。リノール酸の働きは複雑で、炎症を抑えるホルモンも作るが、アラキドン酸に換わる系統も有する。

 抗炎症ホルモン二種類、炎症ホルモン一種類は、それぞれに、9種類のホルモンに分かれるから、全部で27種類のホルモンが機能している事になる。その作用は複雑で、血糖値、血圧、コレステロール、肥満、アトピー、免疫等々、自律神経系とは別系統て身体をコントロールしている。局所ホルモンのバランスは、摂取する不飽和脂肪酸のバラスに起因する。安価で大量に出回っているリノール酸系の油とアラキドン酸を含有する肉類を食する機会は多いが、αリノレン酸やγリノレン酸は意識しない限り摂取量は少なくなる。そして、ホルモンバランスが崩れ症状が現れる。

 食用油では、大豆油、コーン油、ごま油、ひまわり油等は、多くのリノール酸を含有し、亜麻仁油、エゴマ油はαリノレン酸の含有が多い事で知られている。リノール酸が多い食用油は、安価なので家庭で多く使われる。既製の総菜やスナック菓子、ドーナツ等の食品のほとんどは、リノール酸系の油が使われている。しかも、製造後時間が経って油が酸化し、変質している事が多い。

 アラキドン酸は豚肉、牛肉に多く含有されている。アトピー性皮膚炎の患者が避ける食品の筆頭だ。アトピーの特効薬として使われているステロイド剤は、細胞膜からアラキドン酸が細胞内に供給されるのを防ぐ事で、炎症ホルモンの生成を抑止している。炎症は一時押さえで、根本治療にはならない。ステロイド剤は細胞膜中の全ての不飽和脂肪酸に影響を及ぼすため、恒常的使用は正常な代謝を妨げ、別の身体不調に繋がる。

 皮膚のバリアー機能はセラミドにより保たれている。レンガ造りの壁が、モルタルでレンガを接着して一体化している様に、セラミドは皮膚の細胞間を埋めて、細胞と一体となりバリヤー機能を果たしている。このセラミドの生成に問題か起きると水分が抜け、皮膚が乾燥すると同時に、外部からの有害物質の侵入を許す事になる。その上、アレルギー異常で皮膚に炎症が起きればアトピーは重症化する。

 セラミド生成にはアミノ酸とγリノレン酸が必要だ。更に、補助物質としてビタミンB6、亜鉛、ビオチン(ビタミンH)、ビタミンAが不可欠だ。遺伝的なアトピー性皮膚炎は、セラミドを生成するDNAに問題がある場合だ。自分たちの子供の頃に、アトピーなる言葉を聞いた事がない。現在のアトピー患者は、食生活にほとんどの原因が求められる。マーガリンやショートニングのトランス型脂肪酸の摂取も要因と考えられている。

 先日、テレビで「エゴマ油で脳疾患を予防できる」との番組を放映していた。エゴマ油は亜麻仁油と共にαリノレン酸の含有が多いので有名だ。翌日、スーパーの店頭からエゴマ油が消えた。亜麻仁油は沢山残っているのにだ。αリノレン酸が細胞内でエイコサペンタエン酸(EPA)に替わり、抗炎症局所ホルモンが作られる迄には、幾つもの酵素反応を経由しなければならない。ならば、EPAの含有が多い青魚を食した方が早道だ。脂肪酸が体内で必要物質に変換するのは酵素反応だ。酵素の産生には、アミノ酸とビタミンやミネラルが必要な事をテレビでは説明しない。

 代謝機能が低下した高齢者にとって、意識して摂取しなければならない脂肪酸に、γリノレン酸がある。γリノレン酸は生体内でリノール酸から生成されるはずだが、高齢者はこの機能が低下していると考えた方が良い。手足の皺が多くなるのは、γリノレン酸の減少が原因だ。γリノレン酸への転換にはビタミンB6、マグネシウム、亜鉛が必要だ。これらミネラルは高齢者にとって不足しがちな栄養素だ。γリノレン酸を含有する食用油は少なく、月見草油、麻の実、ブラックカント油が代表的だ。生活習慣病の多くは、遠因にγリノレン酸不足があると言われている。

 最近、友人や知人の身体トラブルの話を良く耳にする。最近、小学校の同級生は脳溢血で倒れた。朝起きたら鼻血でシーツが真っ赤になっていた友人もいる。脳血管も細胞で出来ているし、鼻の粘膜は細胞と糖タンパク質の複合体だ。細胞膜の主要構成物質の一つが脂肪酸だ。身体の機能を維持するため、必要材料は日々供給しなければならない。必要物質の産生能力の衰えた高齢者はにとって、材料不足は致命傷となる。けれど直ちに症状が現れる訳ではない。老化が促進したり、気がつけば発病だが、原因が必須脂肪酸の不足にある事に思い至らないのが通常だ。不足しがちな、αリノレン酸やγリノレン酸を含有する食用油を意識して摂取する事が、健康寿命を伸ばす事に繋がると信じている。

 脂肪酸の摂取が偏ったり、タンパク質やビタミンの摂取が不足すると、加齢による生理活性物質の生成能力が低下し致命傷となる。健康管理の基本は「高タンパク+メガビタミン」に不足しがちな脂肪酸の摂取を加えるのが正解だ。脂肪酸に限らず、色々な栄養素をどれだけ摂取すれば、健康を維持できるかと問われれば、人によって異なるとしか言い様がない。あるべき食生活は個人差が極めて大きいし、高齢期の人生観にも左右される。我々高齢者は、個々の生き方を信じて生活するしかないのだろう。

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