伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年4月18日: 高齢者の前立腺ガン再発 GP生

 治療を終えたガン患者の最大の心配事は再発だ。ガン治療の目的は、ガンの根治にあるが大変困難である事は確かだ。ガンは身内の細胞の異変だ。この異変が一日に、2000から3000もの細胞で生じているそうだ。NK細胞を主体にした免疫機能が、変異細胞を次々に破壊ている。進行したガンにも免疫は攻撃しているが、直径1センチのガン巣内の細胞数は10億と言われ、多勢に無勢だ。孤立しているガン細胞と異なり、固まったガン細胞に有効な攻撃が出来ない事は容易に想像が付く。

 自分は昨年1月から2月にかけて前立腺ガンの放射線治療を行った。この経過については日誌に何回も書いてきた。内部照射2回、外部照射16回の治療でガン細胞は死滅したはずだと主治医は言う。しかし、本当にガンを根治できたかどうかは、5年間、PSA値に変化がない事で確認できるとも言われた。自分が受けた放射線治療は最新の治療法で、都内でも実施している病院は少ない。再発率は30%だとの説明を受けた。

 それでも前立腺ガンの再発率としては低位なのだ。通常の外部照射は40回近く行うが、再発率は50%、摘出手術での再発率は50%だと説明された。手術で前立腺と精嚢を全摘すれば、癌細胞は残存しないはずだか、再発する。目視は出来なくとも、前立腺に密着する周辺臓器にガン細胞が浸潤していたとしか考えられない。ガン細胞が転移して、そこで目視できる程、増殖するには年月が掛かる。骨シンチグラフィーで転移無しが確認され、前立腺内の局所ガンと判定されても、前立腺ガンは前立腺外周部で増殖する特性から、周辺臓器に浸潤しやすいのだろう。

 前立腺ガンの治療法は確立されていて、ホルモン療法、手術、放射線治療、重粒子治療等だ。患者の状態により、治療法が選択されると考えるのが一般的だが、どうもそうではないらしい。今年2月、小学校の同級生から電話をもらった。生検6本ヒット、グリソンスコアー7の前立腺ガンと診断された。東京でも名の知れた病院だ。治療法は前立腺全摘手術のみだそうだ。自分もグリソンスコアー7と診断され、周辺への浸潤の可能性はゼロではないから、手術は勧められないと言われた。同級生に自分の診断結果と治療法を説明した。結局、彼は病院を代え、近々放射線治療を受ける事になった。

 病院により治療方針が違うようだ。同級生が最初に行った病院は、手術が標準治療法だし、慈恵医大は根治する可能性が高い「高線量内部照射法+外部照射法」が選択できる。福島県に住む同級生のKo君は、陽子線治療を受けて根治した。彼は全国で4病院しか行っていない治療法を受ける僥倖に恵まれた。どの病院で治療を受けるかは、まさに運命の分かれ道となる。

 最近、前立腺ガンの再発の話が相次いだ。義弟は3年前に、6ヶ月のホルモン療法の後、37回の放射線外部照射を受けた。治療1年後からPSA値がじわじわ上昇し始め、最近の値は4.0に近づいた。診断は再発だった。通常、放射線治療後のPSA値が2.0を超えると再発と診断されている。医者は義弟が高齢者ゆえ、時間を掛けてPSA値の推移を見守った様だ。6月に再度PSA値を確認して、ホルモン療法を行うと聞いた。

 昨日、伝蔵荘仲間のSa君から電話を貰った。彼は前立腺摘出手術を受けていたが、最近PSA値が上昇して再発と診断された。全摘手術の場合、PSA値が0.2を超えると再発との判定になると言っていた。彼の場合、自分よりグリソンスコアーは低いし、生検結果も併せて手術の選択になったのだろう。骨シンチグラフィー検査で全身への転移がない事は確認されていたが、周辺臓器への微細な浸潤は、どんな名医でも目視できない。PSAの上昇は前立腺肥大でも起きるが、全摘であれば、これは無い。前立腺周辺臓器僅かに残った癌細胞が増殖し始めたのだろう。

 再発に対する医学的手段はホルモン療法のみだ。前立腺ガンは男性ホルモン・テストステロン無しには増殖できない。陰嚢で産生される男性ホルモンの生成過程に干渉して、生成を止めるのがホルモン療法だ。へそ横に薬のカプセルを打ち込み、時間を掛けて溶け出させる仕組みだ。カプセルは4週間物と12週間物が有る。自分は後者を後一年継続する事になっている。カプセルは直径1ミリ強、長さ10ミリ強だ。そのまま注射で打ち込めば流石痛い。5分ほど患部を冷やしてから打ち込むと、一瞬弱い痛みを感じてそれで終わりだ。後は、何も感じない。ホルモン療法の副作用は、ムーンフェイスと身体のほてりが多い様だ。元々、不細工な丸顔の自分は、ムーンフェイスの自覚はないし、ほてりも感じた事がない。副作用の自覚がないのだ。

 男性ホルモンの供給を止められた癌細胞は増殖を停止し、一部は死滅する。生きている限りこの状態が続けば良いが、癌細胞も生存努力を始め、やがて男性ホルモンなしでの増殖機能を獲得する。主治医は、この期間は最大7年と言っていた。当然個人差があるはずだ。70代後半や80代での再発は、あまり恐れる事はないだろう。ホルモン療法の効果が期限切れにっなつて増殖を始めても、高齢者では増殖は遅いはずだ。前立腺ガンが転移し、転移先の臓器不全で死に至るには何年もの時が必要だ。その前に、別の要因でこの世を去る事になるだろう。

 自分のホルモン療法はあと1年で終わる。その後5年間、PSA値が上昇しなければ完治だが、それは神のみぞ知ることだ。年齢に不足はないのだから、再発について深刻な心配はした事はない。医者に出来る事は限られていても、患者に出来る事は多い。その筆頭は食事療法だ。ゲルソン療法や済陽式食事療法は何回か日誌に書いてきた。自分の前立腺ガンが発覚して暫くしてから、済陽式を実行してきた。ホルモン療法と平行していたから、食事療法の効果を検証は出来ない。現在、少し手を緩めたが、済陽式の基本は毎日実行している。

 再発したSa君の場合、癌細胞はそれほど大きくないだろう。ホルモン療法によりガンの増殖を止められる時間は十分ある。この間、食事療法により、癌細胞が増殖できにくい身体状況をつくり、免疫力を活性化させる努力をすれば、ガンの根治は可能と信じている。ホルモン療法との併用だからPSA値は当然下がる。食事療法の効果は分からないのが当然だ。よほどの覚悟を以て継続しないと面倒な食事療法をやめてしまう事になりかねない。

 食事療法は、細胞内のナトリウムイオンを減らし、カリウムイオンを増加することにある。ガン細胞はカリウムを嫌う。従って、徹底した減塩と野菜や果物の摂取だ。肉食は厳禁なので、配合タンパク質の摂取を考える必要がある。それと腸内環境の改善による免疫機能の向上だ。これが済陽式で、ガン細胞が増殖しにくい体内環境を作り、向上した免疫でガン細胞を攻撃するのだ。防衛力を強化し攻撃力が増せ、戦に勝てる道理だ。

 済陽式の食生活は、見方を変えれば高齢者にとっての健康食となる。しかし、我慢して食事療法を行えばストレスになる。通常の高齢者にとって、食事の準備は妻の役割だ。高齢の妻に食事療法の負担を更に加えるのは酷というものだ。自分は、朝食と昼食は妻の手を一切煩わさず自分で準備している。夜の総菜は妻の手作りだが、それ以外は自分の責任だ。このスタイルも慣れてしまえば大して面倒ではない。自分の病を治癒するのは、本来身体に備わった力だ。病を治すのは医者ではない。医者は専門的立場からの助力者で有り、主治医は自分であるとの自覚が必要だ。

 前立腺ガンの再発予防や再発治療に限らず、高齢者には病気のリスクや健康阻害の要因は多い。人に頼らず自主自立の生活を保つためには、必要に応じた学習が必要だ。分子栄養学を創設した、故三石巌を先生は、95歳でこの世を去るまで分子栄養学による健康管理を説いた。「日々、学習者たれ」は先生の座右の銘でもある。先生にはとても及ばないが、「病を治すのは自分である」との覚悟は、何時も持っていたいと思っている。

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