伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年3月9日: アメリカ大使襲撃事件と韓国の不思議 T.G.

 去る5日、駐韓アメリカ大使が暴漢に襲撃される事件が起きた。幸いにも命に関わることはなかったが、襲撃の状況は暗殺目的だったことが濃厚だ。刃渡り25センチの刃物で、いきなり首筋を狙っている。あと2センチで頸動脈に達したと言うから、大使は運良く難を逃れたとも言える。この一連の騒動を見ていて、韓国という国がつくづく不思議な国に思えた。

 中東を外遊中の朴大統領は、この事件の一報を聞いて、「駐韓米大使への攻撃は米韓同盟への攻撃に等しい。こうした行為を韓国は絶対に許さない」との立場を表明したと報道されている。大いに違和感を感じる。まるで人ごとである。自分の息子が人様に危害を加えたのに、謝罪はそっちのけで社会正義を一席ぶっているのと同じだ。加害者は彼女の国民である。被害者は他国の大使である。一国のトップとして真っ先に表明すべきは、相手国に対する謝罪だろう。その上で自国民に対して、「こういう悪さは許さない。」と釘を刺すのが筋である。米国との関係が微妙なこの時期の大統領の外交辞令としては、あまりにも不適切だ。いったい何を考えているのか、不思議な大統領である。

 報道によれば、襲撃犯は左翼運動家で、札付きの反日反米常習者らしい。日本大使襲撃事件など、同様のテロを何度も繰り返し、有罪判決まで受けている。そう言う人物が易々とアメリカ大使に近づけたのも不思議な話である。映像で見ると、異様な風貌だし、この方面でかなり著名な人物で、警察や警備の人間はとっくにご存じのはずなのに。襲撃状況を見ると、大使のそばにSPがついていなかったようにも見える。日本ならあり得ぬ話である。キャロラインの周りはSPだらけである。動画映像を見ると、外へ自力で逃れた大使が、「とにかく救急車を呼んでくれ」と頼んでいる。救急車を呼んでいなかったと言うことだ。大使はパトカーで病院に向かっている。これも日本ならあり得ない。他の先進国でもあり得ない。最重要国アメリカ大使にこの対応。途上国ではあるまいし、不思議な国である。

 この事件を受けて、韓国内ではいろいろな報道が出ている。首をかしげるのは先日のシャーマン米国務次官の発言に絡めたものだ。今韓国では、シャーマン氏が歴史認識問題で日本の肩を持ったとアメリカを大批判している。政府が公式の抗議もした。反米デモも頻発している。だからこの事件が起きたのだと言いたいらしい。悪いのはアメリカで、それを言わせた日本はさらに悪いという論調である。犯人は米韓軍の合同演習反対を叫びながら連行されていた。シャーマン発言など一言も口にしていない。まして日本非難などしていない。それなのにアメリカと日本が悪いのでこうなったと言わんばかりである。電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな日本が悪いことにする。世にも珍しい不思議な国だ。

 今回の犯人を伊藤博文暗殺の安重根と同列に置いて、英雄視する風潮もある。さすがに表マスコミは書かないが、裏マスコミの韓国ネットでは盛んにそのことを言っている。ある意味、韓国国民の共通意識なのだろう。言われてみると今回の犯人は安重根とそっくりである。当時と今の国内情勢や国際環境も酷似している。

 安重根は李氏朝鮮時末期の支配階級、両班の出自である。国内で独立運動をしていたが、朝鮮政府の腰が定まらないことに嫌気がさし、ロシアに逃れ、そこで反日にのめり込む。熱意を祖国の自主独立に向けず、反日活動に明け暮れる。列強の圧迫を受けながら、明治維新を成し遂げた日本の志士たちとは大違いである。挙げ句の果てにハルピン駅頭で、日本の黒幕、伊藤博文を暗殺した。それによって大韓帝国へ道が開けたわけではない。かえって滅亡が早まった。そのおっちょこちょいの安重根を、いまだに建国の英雄と称える韓国民の頭の構造が理解できない。不思議な国である。

 今回の犯人がそれとそっくりである。さすがに両班の出ではなさそうだが、さしたる政治活動もせず、左翼的な南北統一運動にのめり込み、北朝鮮に何度も行き来している。にもかかわらず、肝心の南北統一には何の影響力もない。目立った活動は独島防衛に始まる反日と、北朝鮮の影響を受けた反米だけである。挙げ句の果てに、日本大使を襲撃し、今回はアメリカ大使暗殺である。安重根と同じように、それをもって韓国に利をもたらそうとしたわけでもない。単なる感情的な反日反米である。仮にアメリカ大使が亡くなっていたら、米韓関係が悪化しただろう。安重根の時と同じように、韓国は大いに不利益を被っただろう。

 李氏朝鮮末期、清、ロシア、日本の間で揺れ動いたように、現在の韓国は、アメリカ、中国、日本の間で揺れ動いている。どうやら今の大統領は離米、反日、中国接近の方針を決めたようである。日本を疎んじてロシア公邸に逃げ込んだ最期の朝鮮王高宗に似ている。業を煮やした日本は、ロシアを破って韓国を併合した。韓国軍の下士官の大半は、意識として反米だそうである。次の戦争はアメリカが相手だと思っているという。アメリカは行きがかりの韓国防衛で14万人の兵士を失い、膨大な軍費をつぎ込まされている。その韓国が日米との通貨スワップを拒絶し、中国と協定を結んだ。中国に脅されて、米軍とのミサイル防衛を拒否している。業を煮やしたアメリカは、近々韓国から手を引くだろう。その後は中国の属国へまっしぐらだろう。地政学的に、韓国は日米のバックアップなしに自主独立は出来ない。

 努力して経済では世界14位の経済先進国になった。にもかかわらず、政治と国民の意識は李氏朝鮮末期とまるで変わっていない。大国の間を二股膏薬的に渡り歩くのが国家戦略と思っている。自ら国を律しようとせず、他力本願の反日反米に明け暮れて、かろうじて国家意識を保っている。そうすることが自主独立への道と思いこんでいるように見える。他国に社会インフラ建設を依存したり(日本)、国防を委ねる(米国)のがそれほど疎ましいなら、歯を食いしばって自力でやればいい。普通の国はそうしている。それが自主独立というものだ。戦後70年経ってもそれが出来ない。やる気もない。つくづく摩訶不思議な国である。

(後記)今日の日経ビジネスに、韓国ウォッチャーの鈴置高史氏(日経新聞編集委員)と韓国人A氏の対談、「「米大使襲撃」で進退極まった韓国、「二股外交の破綻」を韓国の識者に聞く」が載っている。小生の日誌よりはるかに辛辣で的を射ている内容である。この国はどこへ行くのだろうか。

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