伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年1月16日: 冬の伝蔵荘を楽しむ。 T.G.

 会社同期の友人Ar君らが、伝蔵荘でスキーをやりたいというので、付き合うことにしました。当方スキーはやりません。友人達が近くのスキー場へ出かけている間、のんびり雪の伝蔵荘生活を楽しもうという魂胆です。天気予報を見ると、佐久穂あたりは日中でも零度に近い気温です。町より標高が500m高い伝蔵荘は、おそらく夜間零下10度を下回るでしょう。せいぜい暖かいウエアを着込んで車に乗り込みました。

 昼過ぎに伝蔵荘へ到着しました。雪はそれほど積もっていませんが、気温はかなり低い。おそらく零下5度を下回っているでしょう。小屋中凍り付いています。さっそく小屋を開け、電気、ガス、水道、ボイラーを使えるようにします。いつものことですが、厳冬期の小屋開けは大変です。うっかり間違えると水道を凍らせてしまいます。そうなったら、春が来るまで小屋が使えなくなります。

 まず電気のブレーカーを入れ、水道管に巻き付けてある凍結防止帯を暖めます。ついで、秋に小屋を閉めるとき、止水栓で水を落とし、開けっ放しにしておいた蛇口の水抜き栓を締め直します。うっかりこれを忘れて水道の止水栓を開けると、水が噴き出して部屋中水浸しになり、そのまま凍ってしまいます。慎重に操作して、最後に地中の止水栓を開けます。これで水道が使えるようになるはずですが、いつものことで水が出ない蛇口がいくつか残ります。蛇口に水が残っていて、それが凍っているのです。台所で湯を沸かし、それで融かします。この一連の作業で小一時間かかってしまいました。冬の小屋開けは大変なのです。

 小屋開けで一仕事している間に、暖炉が大好きなOb君が暖炉に火を入れています。石油ファンヒーターも全開にして、やっと人心地つきました。今晩の献立は鶏の水炊きです。麓で買い込んだ食材を調理して、暖炉の火に当たりながら鍋を囲みます。窓の外は雪。麓のスーパーで買ったチリワインと、Naさん持参の20年ものの泡盛古酒が実に美味い。冬の伝蔵荘の醍醐味です。

 暖炉の火とファンヒーターで部屋を十分に暖めて寝たのですが、夜中に暖炉の薪が燃え尽きてしまったら、しんしんと冷えてきました。厚手の羽毛布団で寝ていても足下が冷えます。今まで何度も冬の伝蔵荘で過ごしましたが、こんなに寒い夜は初めてです。小用に起きたとき、ヒーターの室温表示を見ると9度に下がっています。おそらく外の気温は零下15度を下回っているいるはずです。うっかり洗面所の蛇口をちゃんと閉めず、ぽたぽた状態にしておいたら、排水管が凍結してしまいました。蛇口から湯や水は出るのですが、排水ができない。過去に水道を凍らせる失敗は何度もありましたが、排水管を凍結させたのは初めてです。水道が大丈夫でも、排水管が凍ると使い物にならないことを痛感しました。

 翌朝友人達を車でスキー場に送った後、麓の井出商店へ出かけました。40年この方、伝蔵荘のガス、灯油、水回りの面倒を見てもらっている店です。老社長が出てきてあれこれ解決策を教えてくれました。要は暖めるしか手がない。凍結防止帯を配水管に押し込んで気長に暖めるしかないと言います。どのくらい時間がかかるのか聞くと、「春が来るまで気長に待つ」と、すました顔で言います。4日しか滞在しない我々はそれでは解決になりません。焦って何とかならないかと頼んだら、老社長は表情も変えず「春が来るまで気長に待つ」と、仙人のような口調で繰り返します。どうやら「誰がやってもそれしか方法はない」と言う意味だと気が付きました。

 老師との禅問答を切り上げ、古い凍結防止帯を1本貸してもらって小屋に帰り、排水管の根本から押し込んでコンセントに差し込み、通電しました。その後、暖炉の火に当たりながらバッハを聴いたり、串田孫一の山の随筆を読んだりして半日過ごしていたら、夕方になって、老師が言うとおり春が来ました。

 友人達が出かけたスキー場は松原湖の上の小海リエックスです。洒落たリゾートホテルで、夏はゴルフも出来ます。近くにもう一つ町営の八千穂スキー場があるのですが、コースが短く、彼らのようなベテランスキーヤーには今ひとつ物足りないようです。車が一台しかないので、小生が二日間、片道30分の送り迎えをしました。リゾートホテルらしくスキー場のサービスも良く、リフト券が安いのだそうです。彼らがよく行く志賀高原やニセコあたりのスキー場は、リフト代が1日5千円以上するそうですが、ここのシニア料金は1500円ぽっきりだそうです。安くていいスキー場だと満足のようでした。

 伝蔵荘へ戻る前に、ホテルの日帰り温泉を楽しみました。もう少し下にある町営の八峰の湯と同じ源泉を使っていますが、ホテルらしいサービスで、、露天風呂から浅間や佐久の市街が見渡せてなかなかの雰囲気です。八峰の湯は露天風呂に板囲いがあって、せっかくの景色が見えません。サービスがよく景色がいいこちらの方が断然いいです。入浴料金が800円と300円高いのも納得がいきます。

 小生のレガシィは5年使っている古いスタッドレスタイヤです。雪道がいささか心配なので、今回はNaさんのスズキジムニーを使わせてもらいました。軽自動車ですが、ターボエンジンに4WDの性能はなかなかのものです。4人乗って高速道路を100キロでブンブン走ります。雪道の強さはレガシィ以上でしょう。

 これで友人達を朝夕スキー場へ送り迎えしました。カミさんに「スキーもやらないのに、あなたっていい人ね」と皮肉を言われました。語順が逆で、正しくは「人がいいね」です。意味がまったく違います。日本語は難しいものです。
 朝送っていくとき、小海リエックス手前から見る八ヶ岳連峰は絶景でした。ここには何度も来ていますが、八ヶ岳がこんなによく見えたのは記憶にありません。

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