伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2015年1月6日: 2015年新春 高齢者の健康管理に思う GP生

 昨年は正月を穏やかな気持ちで迎えられなかった。1月半ばに前立腺癌の放射 線治療が予定されていたからだ。現在、ホルモン療法は続いているが、排尿障害 も大方解消して、健常者と同等の身体状態に戻っている。昨年末に、孫がインフ ルエンザに罹患し、39度を超える高熱に見舞われた。今年は止む無く、正月の 家族全員集合を中止した。お蔭で夫婦と犬三匹とで元旦を迎えた。こんなに静か な元旦は記憶にない。

 我々夫婦は10年以上、風邪やインフルエンザと無縁でいる。家人は毎年イン フルエンザの予防注射を受けているが、自分は予防注射を忌避している。インフ ルエンザは突然変異が激しく、注射したワクチンと型が異なれば予報効果が期待 できないからだ。それより、薬物による健康管理を忌避する気持ちが根底にある のは確かだ。最大の防御策は自己免疫機能の向上だが、老化と共に、この機能が 著しく低下するから油断は禁物だ。

 TG君による、昨年末の伝蔵荘日誌「今日は大晦日」に、「ミネドリンを呑み 始めたら、体調が良くなり、秋から冬にかけて風邪を引かなくなった」と有った。 ミネドリンは総合アミノ酸液で、ビタミンB6、B2、それとニコチン酸アミド が含有されている。B2は主に脂質代謝に、ニコチン酸アミドは糖質や脂質の代 謝に関与し、B6は主にタンパク質の代謝と抗体の産生に関わっている。含有さ れるアミノ酸は、体内で合成できない不可欠アミノ酸8種と可決アミノ酸11種 類だ。タンパク質は消化器官でペプチドやアミノ酸に分解されてから、小腸で吸 収されるので、食してから体内の必要器官に送られるのに時間を要する。ミネド リンはアミノ酸液故、消化工程を経ず直ちに吸収され、疲労回復に素早い効果を 発揮する。

 風邪やインフルエンザのウィルスに対抗できるのは、人体の免疫機能が産生す る抗体のみだ。抗体は二重構造のY字型をしている。この構造は含流アミノ酸の 硫黄原子による強固なS−S結合により保たれているので、含流アミノ酸が無け れば抗体は産生出来ない。食品から供給されなければ、ウィルス感染と言う人体 の非常時に際し対抗手段を失う。硫黄を含有するアミノ酸はシスチンとメチオニ ンの2つしかない。これ等アミノ酸は、動物性タンパク質と鶏卵に多く含まれて いる。鶏卵はコレステロールの含有が多いと忌避されがちだが、高齢者にとって 必須の食品でもある。卵酒が風邪に良いと言われてきたのは故あることだ。

 加齢を重ねるにつれて、免疫機能は低下してくる。この季節、高齢者にとって、 人体免疫機能の70%を占める腸管免疫の機能向上が急務である。昨年の後半、 前立腺癌のホルモン療法中、NK細胞の活性化のための食事療法を行った。その 一つがヨーグルトの大量摂取だ。1日、400g以上を食した。これに乳酸菌や ビフィズス菌、腸内細菌の餌になるオリゴ糖を加えた。日本の腸内細菌の第一人 者である光岡知足先生の著書、「人の健康は腸内細菌で決まる!」によれば、摂 取菌は生菌でも死菌でも、腸管免疫を活性化するとある。済陽高穂先生の癌の食 事療法の柱の一つがヨーグルトの大量摂取である。必要なのはどれだけ大量の菌 を腸管に送り込めるかだ。自分は二人の先生の説を信じ半年間実施した。その後、 放射線治療を行ったため、食事療法の結果を確かめる手段はない。

 アメリカの化学者ライナス・ポーリング博士はビタミンCの大量摂取を提案し、 自らも実施したことで知られている。通常でも1日10g以上のビタミンCを摂 取し、風邪でも引けば数倍の量を摂取したそうだ。ビタミンCは体内で抗酸化物 質として作用し、風邪に効果があることは知られている。三石巌先生はメガビタ ミンを推奨したが、単独ビタミンの大量摂取を戒めている。例えば、過剰のビタ ミンCは、体内でラジカルに替わり、活性酸素と同じ害を及ぼすからだ。ビタミ ンの摂取時はタンパク質やアミノ酸を同時に摂取しなければ、体内でのビタミン の働きは限られたものになるだろう。TG君はミネドリンを摂取する時、ビタミ ンCとB群を同時に摂取している。此の相乗作用が身体機能を高め、風邪を予防 できた理由だと思う。

 家人は昨年末から高血圧に悩まされてきた。秋ごろまでは130を下廻ること が多かったが、肉体的痛みや精神的ストレスが重なり高値安定となった。医者か らは降圧剤を処方された。武田製薬のアジルバ錠だ。緊張や痛み等が生じると、 自律神経はアンジオテンシンUと言う物質を出し血管を収縮させる。人体の合目 的性による防御反応だ。このアジルバ錠は血管のアンジオテンシンU受容体に作 用して、血管への結合を防止する。比較的新しい薬の様だ。薬価も高値だ。

 正月に入り、家人の血圧が上は110を下回り、下の血圧は50台まで低下し た。薬を飲まなくとも、この状態が2日続いた。当然、身体はフラフラして仕事 にならない。医者からは、下がり過ぎたら病院に来るように言われているが、病 院は休業中だ。病院に行ったとしても、下がりすぎた血圧を元に戻す手段は医者 にはない。「服用を止めて、安静にして様子を見てください」と言われるのが関 の山だ。自分も、毎朝ジムの脱衣室で血圧を測定して記録しているが、今朝の血 圧は144を示した。寒さ故の上昇だ。水中歩行を終え、風呂に浸かってから測 定すると126だった。この程度の変化は日常幾らでも起こる。

 厚労省による血圧基準たる「上130」は、年齢に関係なく適用される。20 代の若者と70代の年寄りとが同じ基準である事はおかしい。高齢者の血管は弾 力性を失い固くなる傾向にある。抜本対策は血管の柔軟性を取り戻すことだ。こ れは食生活の改善により、ある程度可能だが、医者は指導しない。薬物療法が唯 一の手段だ。メンタルや身体状態は、時々の環境で変化するが、薬物の作用は単 純な一方的作用でしかない。副作用は何れの降圧剤でも存在し、調剤薬局からの 文書を見れば、効能書きの何倍もの量の副作用が書かれている。此の副作用の殆 んどを自覚できないのは、人体がセッセと解毒しているからだ。

 血管は細胞と平滑筋で構成されている。細胞膜は脂肪酸、平滑筋はタンパク質 が主材料だ。細胞膜に不飽和脂肪酸が少なければ、膜は柔軟性を失い、平滑筋の 柔軟性はビタミンCの存在で保たれる。コレステロール等が酸化され、アテロー ムを形成すれば動脈硬化は進行する。防止には血液中に抗酸化物質の存在とアテ ローム形成を防ぐビタミンEの存在も不可欠だ。本態性高血圧を別にすれば、加 齢による高血圧は食生活の改善で、ある程度防止できると信じている。ジムの脱 衣室での毎回測定する血圧データーは、自分の食生活を含む健康管理に役立って いる。

 中年時代と違い、老人の健康管理は個人の身体的特性を考えなくてはならない。 生活環境の違いも大きいだろう。老人の病原菌感染に依らない身体トラブルの多 くは、細胞の老化にあると言われている。癌、糖尿病、脳梗塞、高血圧、心筋梗 塞等が、中年以降に多く発症するのは、テロメアの減少や活性酸素による細胞老 化が原因なのだろう。70歳を過ぎてから、毎年、友人知人の訃報や発病の知ら せを受ける事が多くなった。死因の詳細を知るにつれ、原因が中年から初老期に 至る時期の生活習慣にある事が多かった。喫煙、過度の飲酒、不摂生な食事等が 細胞老化を促進しているのだ。

 老化には病的老化と生理的老化があり、通常はこの2つが複雑に絡み合ってい ると言われている。生理的老化には、心・肺・腎・筋肉等の働きが若年期より低 下しているものの、日常生活を自立的に過ごせ通常老化と、リスク要因をコント ロールして疾患発症を抑え、精神活動や身体活動それに社会性や創造性のある生 活を営める健全老化の二つがあるそうだ。

 我々高齢者が目指すのは「健全老化」であることは論を待たない。細胞の自然 老化は防ぐことは出来ないが、老化を少し遅らせる事は可能だと思う。優れたD NAの持ち主が老化防止を実施すれば、ジムのHaさんの如く、89歳で毎日1 000mを20分台で泳ぎ切ることが可能になる。マッサージプルのHaさんと の会話でも、打てば響く頭脳の回転だ。どう見ても70代半ばにしか見えない。 穏やかで人間味豊かなHaさんから、「GP生さんはお若いから」などと言われ ると嬉しくなる。

 加齢の積み重ねの末に、自分の肉体と精神が如何なる過程を得て、終焉を迎え るかは分からない。自分のホルモンの療法は一年後に終了する。前立腺癌は完治 したと信じたいが、再発の有無は神のみぞ知るだ。今年も無事新しい年を迎え、 齢を一つ重ねた。今年は現状の生活を維持できるかもしれなが、明日の事が予想 できないのが世の常だ。この世に生を受けた以上、魂の乗り船たる肉体を慈しむ 心が、高齢者の健康管理の基であると思っている。

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