伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年12月5日: 解散総選挙についての居酒屋談義 T.G.

 団地の仲間5人と居酒屋へ飲みに行く。少し前に団地の自治会役員をやった同じ年配同士で気が置けない。飲んでいるうちに選挙の話になった。「Gさんはどこへ投票するの」と聞くので、「もう少しアベノミクスを続けてもらいたいから自民党だな」と言うと、元大手自動車会社の経理マンの相方は「自民党だけは嫌だ」と言う。「それならどこがいいの。まさか民主がいいとでも」と聞き返すと、「民主は問題外だが、維新なんかどうかな」と言う。「アベノミクスはともかく、自民では公務員改革や規制緩和は出来ない。維新はそれをやると言っている」と言う。確かに自民以外なら維新しか選択肢がない。維新以外の民主党やその他の雑魚政党は解散で慌てふためいているだけで、何の政策も示せない。実行力もない。共産党と社民党は相も変わらず何でも反対の金太郎飴である。

 そもそも今回の選挙は安部首相と財務省の喧嘩である。他の政党はそのとばっちりを食っているだけだ。マスコミは大儀のない選挙と批判するが、それは彼らに大儀が見えていないか、単に安部嫌いだからに過ぎない。アベノミクスがかろうじてうまく回り出して、日本経済が浮上し始めた。財務省はそれをいいことに4月に消費税を3%上げさせた。安部首相は半信半疑だったが、三党合意で決まっていたことだからやむを得なかった。途端に経済状況が悪化し、第3四半期のGDPはマイナス成長に落ち込んだ。このあたりでやっと気づいた安部首相がさらなる消費増税見送りの気配を見せると、財務省の巻き返しが始まる。彼らの強大な権限を駆使して、政界、経済界、マスコミ、学者、知識人たちの洗脳が始まった。マスコミはもとより、自民党の大物、はては消費税に反対のはずの労働組合にまで消費増税やむなしの大合唱をさせた。財務省の権力の強大さが如実に分かる。

 低成長の経済先進国でも、GDPマイナス成長は異様である。それほどまでしてあえて消費税を上げる理由はない。金の卵を産む鶏を潰すのと同じで、せっかくアベノミクスで浮上しかけた日本経済が再び沈没してしまう。税収も減る。アベノミクスに代わる金融財政政策は今のところない。少なくとも誰も示さない。これに危機感を抱いた安部総理は、突然消費税再増税を見送り、解散の挙に出た。要するに財務省に喧嘩を売ったのだ。解散を決めた後の記者会見で、安部首相は何度も繰り返している。「税は議会制民主主義の根幹だ」と。「税を決める権限は財務省にはない。国会だ。」と言う小気味いい啖呵である。俺が日本の権能者だと言わんばかりの、夜郎自大に陥った財務省に喧嘩を売ったわけだ。

 過去に財務省に真正面から喧嘩を売った首相や政治家はいない。もしやったら潰されることが分かっているからだ。それくらい財務省の権限は強い。少しでも逆らうと、マスコミにスキャンダルを流させる。スネに傷持つマスコミは、国税庁を配下に持つ財務省の言いなりである。朝から晩までテレビで明治座観劇と下仁田ネギのニュースを流す。これで潰された政治家は数知れない。今回の小渕優子も、財務省が仕組んだ安部潰しの一環だろう。雑魚の小渕が相手ではなく、財務省に逆らう安部内閣が本丸なのだ。タイミングとしてはぴったりである。

 今回財務省が各界を洗脳して言わせた消費増税必須論は大きく分けて二つある。「国際公約不履行と国債金利上昇」、および「財政規律改善」である。前者については単なる言いがかりである。一国の税制が国際公約などになるわけがない。日本の勝手である。金利上昇にしても、消費増税先送りを理由に格付け会社ムーディーズが日本国債の評価を1ランクを下げたが、国債金利はびくともしなかった。逆にその翌日には金利を下げている。日本国債は未だに安全パイなのだ。どちらも為にする作り話である。後者については一理なしとは言えない。なんと言っても国債発行残高がGDPの200%、千兆円を超えているのは世界の奇観である。放っておいたらいずれは日本の滅亡につながる大問題である。しかし千兆円もの借金を積み上げた張本人の財務省の言うセリフではない。

 過去、1987年の竹下内閣に始まって消費増税が3回あった。いずれも目的は財政規律改善にあった。1980年頃には130兆円しかなかった国債発行残高が1990年には310兆円と倍以上に膨れあがる。税収より国家予算が大きい、プライマリーバランスの悪化が原因である。足りない分は国債をじゃぶじゃぶ発行して補う状態が続いたのだ。これ以上財政規律を悪化させられないと、竹下内閣の時、初めての消費税3%に踏み切る。その後橋本内閣の時に5%に上げ、今回の3%増税は三度目である。いずれも目的は財政規律改善にあったが、一度たりともそうはなってはいない。集めた税金は一般会計予算ですべて使い切ってしまい、国債発行減にはつながっていない。つまり財政規律は一度たりとも改善されていないのだ。国の予算は最終的に国会で決めるが、原案は財務省が作る。原案の金額が国会審議で減らされたことは一度もない。事実上国家予算は財務省が決めているのだ。その財務省が財政規律改善を言うのは、冗談を通り越してブラックユーモアである。

 自分らは悪くない、国民が欲したからそういう予算を作ったと財務省は言うだろう。それは半分本当のことだが、度を過ぎた国債発行で、愚かな国民を分不相応の贅沢に慣れさせたのは財務省である。それでは財政金融の総元締めの意味がない。そういう予算を組んでいたら、いずれ千兆円を超えることは分かり切っている。それが分からぬほど財務省はアホではない。分かった上で財政規律を正そうとしない確信犯なのだ。彼らは税金を取って使うことが、唯一生き甲斐の動物なのだ。これ以上税と予算を財務省の役人に任せておけない。大局的に見たらそれが今回の解散総選挙の大儀なのだ。安部が勝てばアベノミクスはとりあえず継続されるだろう。その間に景気が回復したら消費税を上げるが、そうならない可能性もある。安部が負ければ財務省の勝ち。安部内閣は潰れ、財務省の傀儡内閣が出来る。おそらく首班は谷垣か麻生になるだろう。財務省にとって景気回復より増税の方が大事なのだ。

 大袈裟に言えば、内閣と財務省(旧大蔵省)の喧嘩は憲政始まって以来の快挙である。もし政治が負ければ日本は財務省の治外法権になる。政治が勝てば悲願の行政改革の第一歩を踏み出せる。それなのに財務省にけしかけられたマスコミと野党、評論家達は、馬鹿の一つ覚えのアベノミクス非難の大合唱をしている。国民がこれに目眩ましされなければいいが。5年前の事を考えると、いささか気がかりではある。あの無能な民主党に、気分だけで空前絶後の308議席も与えたのだ。それが繰り返されなければいいが。日本国民は未だに成熟していない。

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