伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年11月4日: 高齢者の生活習慣病について考える GP生

 先日、TG君が「今月号文藝春秋に載っている近藤誠医師の(健康診断が私た ちを不幸にする)という記事が面白いので、我々老人にはいろいろ参考になりま す。是非、読んでみて下さい。」との書き出しで、内容を要約したメールを伝蔵 荘の仲間に送ってくれた。早速、文芸春秋を買って来て読んでみた。内容は、近 藤医師が従来主張してきたものだが、今回は健康診断の弊害をメインテーマにし ていた。

 自分の所にも、毎年区役所から、老人健診の申込書が誕生月の前に送られてく る。ここ5,6年受診したことはない。以前の検診でコレステロール値が基準値 をオーバーした時、医者にスタチン剤を処方すると言われた。自分は、原因は分 かっているので、自分で対処するから無用であることを丁寧に述べた。医者には 「それなら処方はしないが、万が一心筋梗塞になったら面倒は見る」と言われた。 検査の度に、薬の処方を廻って、医者と遣り取りをするのが煩わしい事と、余分 なレントゲン線を胸部に浴びるのが嫌なので検診をパスしてきた。

 コレステロールは体脂肪の減少と食生活でのカロリー制限でコントロール可能 だ。近藤医師が書いている様に、コレステロールは細胞膜の重要な材料だ。細胞 膜は脂質の二重膜で構成され、コレステロールは二重膜構造を安定させる役割も 担っている。細胞膜に供給されるコレステロールはLDLだ。通常、悪玉などと 言われているが、人体の代謝に必須の物質で、悪玉と揶揄される物質ではない。 コレステロールの6,7割は肝臓を主体にして体内で産生される。体内で造られ る物質は、人体に対し合目的性を持っている。だから必要量が作られるのだ。

 血圧も身体の合目的性によりコントロールされている。高いのには、高いだけ の身体事情がある。近藤医師の言う通り、高齢者の血圧は高めになる。血管が種 々の理由で弾力性を失うからだ。人体の代謝は血流による物質の運搬が基本だ。 心臓が頑張っても、柔軟性を失った血管は拡張できず、血圧は上昇する。その結 果血管内膜が傷ついたり、硬化が進む。負担のかかった心臓は肥大する。薬で血 圧を下げれば、血管の負担は減少しても、人体で一番高みにある脳への血流が滞 り、健康寿命を縮める事になる。

 生活習慣病と呼ばれる、癌、脳卒中、高血圧、心筋梗塞、糖尿病等に対して、 通常、医者は「ハイ、お薬を処方しましょう」との対応をする。各病に対する処 方箋がマニュアル化されているので、医者が考えるの事は、如何にマニュアルを 患者に対応させるかにに過ぎない。マニュアルに書かれた数値基準は平均値だが、 患者に平均値の人間はいない。夫々の体質は異なり、生活習慣が違う。

 薬物には副作用は付き物だ。此の副作用の現れ方は人によって異なり、必ずし も一律ではない。副作用によって生じた身体の異常が常態化すれば、医者は更に 薬物を追加する。病の数だけ薬が増え、副作用は相乗され、最後に患者は何が何 だか分からなくなる。薬を止めたら体調が良くなった例は、自分の周辺でも幾ら も見聞きする。薬を止めれば、その反動が身体に現れ落ち着くまで、しばらく時 間がかかる。薬の存在を前提に、人体が代謝をコントロールしているからだ。服 用を止める事で生じる新たな安定に至るまで、身体の乱れは続く。これが、医者 の指導が無ければ、薬物の服用が止められない理由だ。

 そもそも生活習慣病を薬でコントロールするならば、短期服用が基本だと思う。 長期に服用すれば、副作用のみならず、人体が本来の機能を回復する機会を失う からだ。血圧、コレステロール、糖尿病の検査値が高くなったとすれば、高めて いる原因がある。医者は、患者の食生活を含めた生活習慣を丁寧に聞き、誤りが あれば指導する事が本来の医療行為だ。数値が高すぎるゆえ、危険だと判断すれ ば一時的に薬を処方するのは理解できる。所が、医者は「一生飲む薬です」など と言う。副作用での苦しみを患者が訴えれば、他の薬を処方して済ます。異常値 を示す原因究明と改善指導が無ければ、患者に救はない。

 医者がマニュアルに頼るのは、患者の診断が短時間で済み、一定時間に多くの 患者を捌けるからだ。万が一の時の責任回避にもなる。近藤医師の言うテンプラ 医者が如何に多い事か。しかし、患者にも責任の一端がある。生活改善は、患者 の責任だが、面倒だ。それより医者に処方された薬を飲むほうが遥かに楽だから だ。副作用は別にして、数値は明確に下がる。コレステロール降下剤の効果は劇 的ですらある。薬の処方を期待してきた患者に、生活指導のみに留めたとしたら、 医者の評判が落ちる事すらある。医者に直してもらおうとする姿勢の患者は多い。

 健康診断や人間ドックが普及しても人の健康寿命が延びず、逆に縮める結果は、 近藤医師の指摘を待つまでもなく、各種疫学調査でも明らかだ。それでも、検査 結果が基準値から外れていたら、人は間違いなく悩むことになる。医者に頼るこ となく、数値の意味を理解し、自ら対策を考え実行する人は少ない。殆んどの人 は、医者の指示に従って薬の処方を受ける事になるだろう。

 基準値なる数字も、時代と共に低下してきた。基準を下げれば、早めの処置が 可能との考えも有るだろうが、基準オーバー即投薬のならば、医療費は拡大する。 検診を増やせば、患者は増加する。儲かるのは医者と製薬会社であるとの近藤医 師の指摘は正鵠を射ている。投薬で国民の健康レベルが上がればよいが、結果は 逆だ。ヨーロッパでは閉経後の女性の総コレステロール値が280を超えない限 り投薬はしないと言う。日本の小金井調査の結果でも、コレステロール値が高い ほど、癌の死亡率が低下するとの調査も有る。これ等の医学的所見には根拠があ る。基準値を下げる事は、本当に正しいのだろうか。

 コレステロール対策は、心筋梗塞と脳梗塞、それに高血圧予防に尽きる。その 結果、癌患者は増加する。予防とは全ての病から逃れ為のはずだ。コレステロー ルが高くとも、血管内で活性酸素により酸化されなければ何事も起こらないのだ が、活性酸素対策は医者の視野にはない。

 秋田のWaさんは、脳梗塞の予防薬によって血液サラサラの状態を保っていた。 血液の凝固を防ぎ、血栓の出来るのを予防するためだ。彼は、自宅の階段から転 落して骨折し内出血した。ところが血液が凝固せず、輸血の甲斐なく出血多量で翌 日亡くなった。予報薬が命を奪ったのだ。我が家の例を見ても、薬の副作用に よる体調不良は確実に存在する。体調の回復はアミノ酸とビタミンの投与で可能 だ。副作用は新たな薬の投与では解決できない。高齢者が長期に薬に頼るのは危 険との認識が必要なのではないか。

 今日の新聞に、メタボと高血圧のコラボが心筋梗塞を発症させるとの記事があっ た。特に内臓脂肪の蓄積が危険だと言う。内臓脂肪から分泌される物質がインス リンの効果を妨げ、更なるインスリンの産生を促進させる。その結果、交感神経 が優位になり、血管の平滑筋が収縮して血圧が上昇するとの説明がなされていた。 従って、メタボ対策が重要だが、メタボの人でも効果があるARBなる降圧剤の 説明の方に力が入っていた。臓器保護作用がある優れた薬だと紹介されていたが、 副作用に対する記述はない。魔法の薬の印象を受けた。札幌の専門医の話をまと めて書かれていたが、優れた医者であっても、武器はやはり薬だ。

 近藤医師の内容で一番の問題は、「私の理想の死に方は癌死であり、治療を一 切しない事だ」との考えにある。癌は、一切の治療をしなければ、苦しまずに大 往生できるのは確かだ。自分も友人や高齢の恩師の穏やかな死を見ている。80 歳、90歳の高齢の癌患者なら、医師は治療行為をしないだろう。自分は73歳 の時、前立腺癌が判明した。医者には、「あなたが75歳を過ぎているなら、ホ ルモン療法しか行わない。それでも80歳までにがんで死ぬことはないだろう」 と言われた。「放射線治療や手術は身体に対する負担が大きく、施術すれば寿命 を縮めてしまう恐れがあるからだ」との説明があった。発癌が若い時なら、一切 の治療を行わないとの判断は難しい。73歳の自分ですら迷った。

 高齢者にとって、生活習慣病は避けて通れない。近藤医師が言うように、現代 医学の進歩が著しいのは確かだが、日々休むことなく行われている人体の代謝活 動をすべてコントロールすることは、医学が発達しても不可能だ。生活習慣病を 薬物で完治することは出来ない。そのごく一部に、薬物により介入をするのが精 いっぱいだ。生活習慣病を予防するのも、治すのも自力によるしかない。薬物は、 あくまで短期の対処法と心得なければならない。

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