伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年10月11日: 心と身体と伝蔵荘日誌 再び GP生

 この一ヶ月の間に、賃貸部屋の解約が続いた。解約した入居者の殆んどは30 代半ばで、分譲マンションに転居している。住宅ローンの長い返済期間を考えれ ば、この年代が決断のしどころなのだろう。しかし、大家としては一大事だ。  1,2の空室ならともかく、2割近い数の部屋が空き部屋となると経営上の由々 しき事態となる。今の入居者は、部屋の好みが多様化している上、供給過剰の現 状も有り、内検しても中々決めてもらえない。マンションの間取りや広さも、時 代の変遷と共に大きく変化している。築20年も過ぎれば、時代に取り残された 感が、色濃くなるのは避けられない。9月に入り、新たに町の大手不動産屋と提 携した。新しい担当者と空部屋のリニューアルを相談し、逐次、実行し始めた。

 賃貸部屋のリニューアル工事の材料を買うため、郊外のドイト店に車を走らせ た。今までも、業者工事では割高になる雑工事は、自分が行うのを常としてきた。 完成したイメージから、施工方法を考え、材料を選択する。ドイトで材料を検討 しながら、最初の計画を変更することも有る。常に考えながら作業を進める事は、 老化防止にもってこいだ。前立腺癌治療の後遺症から90%以上回復し、身体が 自由に動くことは喜びだ。長年付き合いのある業者から「歩きが違いますね」と 冷やかされた。完成した物が、施工前のイメージ通りに出来上がった時の喜びは ひとしおだ。心と身体が一体感を以って生活をしている時、人は生きている喜び を感じるのだろう。

 思い起こすと、TG君に勧められて「伝蔵荘日誌」に投稿を始めてから4年が 過ぎた。第一回のテーマは「生老病死について考える」であった。日誌とは言え、 「不特定多数の人が読んでいる」と言われると真剣に考え、書かざるを得ない。 それでも、暫くは、自分の思いを表現できなかった。 この4年間の投稿テーマを思い出しすと、「人の老化や病気」、それに「死」に 対する題材が多かったように思える。TG君から「抹香くさい」とよく言われた。 昨年から今年に掛けては、自分の前立腺癌に如何に対処するかが、大きなテーマ となった。

 この4年間、多くの知人、友人を失った。葬儀にも参列した。殆んどが、平均 寿命を下回っていた。死亡原因は、所謂、生活習慣病が多かった。脳梗塞の予防 薬により、内出血が止まらなかった悲劇すらある。或る年齢になると、人が本来 有する回復力や自然治癒力は低下する。免疫力、抗酸化力、エネルギー産生能力、 各種酵素産生力、然りだ。70歳を過ぎれば、これ等の低下は著しい。これを自 然現象だと考えれば、対処法は病院通いだ。薬物の注射や服用、手術に頼ること になる。何れも対処療法で、根本治療ではない。ある年齢になれば、人は何故病 むのかを真剣に考えるだろう。生活習慣病と呼ばれる病は、自ら対処するしか根 本治療は無い。医者は補助者に過ぎないからだ。

 自分が50代半ばに分子栄養学と出会えた事は僥倖であった。この経緯は何 回か日誌に書いた。加齢による身体機能の低下は、タンパク質とビタミンの大量 摂取で、ある程度カバーできることを知ったのは、分子栄養学勉強会の成果の一 つだ。先日、家人が夕食後に飲んだ抗アレルギー薬の副作用で、夜中の1時過ぎ に救急搬送寸前になった。状況を確認し、高濃度アミノ酸液にビタミンB群とC のパウダーを混合したドリンクとビタミンE200mgを服用させた。飲んでか ら10分後から体調に変化が生じ、30分後には、吐き気、ふらつき、虚脱状態、 苦しい呼吸等の症状が改善され安眠することが出来た。薬害により、どの臓器が ダメージを受けたかは分からない。いずれにしても、障害回復のための酵素産生 には、アミノ酸と不足ビタミンの供給は必須だ。

 身体の緊急時に、これ等の栄養素が有効であるなら、日々の食事で、人体が必 要とする栄養素を必要十分摂取すれば、身体機能の低下を未然に防ぐことが出来 る筈だ。一般的にタンパク質の必要量は、必須アミノ酸全てを含む100点満点 のタンパク質を体重の千分の一だ。ビタミンは個人差が大きいからメガビタミン となる。日本で分子栄養学を創設した三石巌先生は「高タンパク+メガビタミン」 +「抗酸化物質」の摂取を提唱した。大量に摂取すれば個人差や個人の状況の変 化に対応できるとの考えだと思う。事実、先生はビタミンCの必要量は100倍、 ビタミンEは10倍の個人差があるあると言われている。

 家人が摂取した量は、日頃の状態から想定した。一種の感に近いが、奏功した。 分子栄養学は個人差の栄養学だ。テレビのサプリメントのコマーシャルではない が、特殊な単品のみで、健康を維持できるほど人体の機能は単純ではない。個々 のタンパク質やビタミンの必要量は、自分の体を実験対象として試行錯誤しなが ら求めるしかない。日々の身体状態の観察が必須になる。しかし、タンパク質と ビタミンの摂取は、健康維持のための必要条件に過ぎない。

 高齢者にとって、健康は栄養だけでは保てない。喫煙、飲酒、運動、睡眠時間、 精神状態等は直接、間接的に健康に影響する。生活習慣は、高齢者の生き方の問 題だし、人生観の問題だ。「人は何故生きるのか」に回答を出さなければ、生き る意欲を持てないのが高齢者だ。高齢者は、「心」の有り方が切実に問われるこ とになる。

 自分が、故高橋信次先生の教えを知ったのは、今から27年前になる。当時父 は、昔から付き合いのあった建築設計士にマンションの設計を依頼した。自分が 父の頼みで打ち合わせをしている内に、設計士が高橋先生の一番弟子である園頭 広周先生の講演会に出席していることを知る事になった。講演会は、高橋先生が 提唱した「正法」を広めるために行われていた。正法は、釈尊の教えそのもので、 人の心の在り方が詳細に説かれていた。設計士の話しに心を惹かれた自分は、高 橋先生や園頭先生の著書を探し求めては読み漁った。

 正法の教えに共感したのは偶然ではない。昔、中高6年間通った私立校で、週 2回の凝念と呼ばれ全校集会があった。集会では、瞑想して念を凝らした後、園 長先生に合わせて「心力歌」を全員で唱和した。今でも、全八章からなる「心力 歌」の主要部を暗唱できる。当時は、唱和はしても、深い意味を考えなかった。 卒業してからは、現実の生活に追われ、これ等の記憶は薄れていった。

 正法を学ぶにつれ、若い頃、心に深く刻まれた「心力歌」が釈尊の教えを換骨 奪胎し、中高生に理解できるよう書かれいてたと分かって来た。「得るに喜び失 うに泣き 勝ちて驕りやぶれて怨む 喜ぶも煩いを生み 泣くもまた煩いを生む  驕れば人と難を構へ 怨むも世と難を成す」とは、生きていく上での金や物の 多寡、毀誉褒貶は人生の目的ではないと教えている。此の後に「心の力と心の霊 と 我に備わるものとぞ知らば これを養い磨くべき 道おのずからここに開け む」や「自ら養い自ら磨けば わがこの心我がために 良く新たなる境を作り  良く新たなる生を開く」、「我を苦しめるも我が心 我を救うも我が心 これあ るが為にわれ悩めど これあるがゆえにわれ独り尊し」等、心の在り方を考え、 心を磨くことこそ、この世で生きていく大事であるとの教えだと知れた。

 正法を学べば学ほど、自分の生きて来た過去を振り返ると、反省材料が多いこ とに気が付いた。人が生きる過程での悩みや錯誤が如何に多い事か。では、正法 を知れば、正法に則った生き方が出来るかと問われれば、自信は無い。肉体の健 康を維持するために行った努力と同等の努力を、心の成長のために行うしかない と思っている。日常生活は多岐に亘るし、人間関係も同様だ。70歳の半ばを迎 えても、仕事でも、家庭生活でも、心を砕き、悩まなければならない現実が続い ている。生きている限り、悠々自適はあり得ないのが実感だ。

 伝蔵荘日誌に投稿する以前と今との大きな違いは、文章を書くことで、自分の 考えや気持の整理が出来る事だ。更に、新たな現実に直面した時、思考を発展す る事が容易であった。以前の日誌を読み返すことで、当時の誤りを正す事も出来 た。特に、「生老病死」に関するテーマが多い自分にとって、それまでの人生観 が変わることも有った。人に対する理解も深まった様にも思える。頭の中で幾ら 考えても、思考が空回りすることは多い。文章に現わすことで、足が地についた 思考が出来るのだろう。

 4年前、TG君は「文章を書くことは老化防止になる」と日誌投稿を勧めてく れた。これからも、日誌投稿は生活の必須事項であると確信している。人は「心 と身体」、すなわち般若心経の教えにある「色心不二」で、現世を生きている。 身体を慈しみ、心を豊かにする努力は、高齢者にとって極めて大切な事である。 更に、文章を書く事は、生きる意欲を奮い立たせる基となる。

 分子栄養学、心力歌、正法、多くの友や近親者との出会いは、自分の人生の節 々で大きな影響を及ぼしてきた。これ等の出会いは、偶然事ではない。人知の及 ばない大きな力に導かれた結果であると信じている。守護霊の導きか、指導霊の 力かは分からない。高齢期の入口で、心と身体の問題を深く考える機会が無かっ たとしたら、現在の心身状態と生活は、違ったものになっていただろう。人は生 き方や心の持ち方の違いで、高齢期の運命が分かれる事を実感した4年間でもあっ た。

 人は幾つになっても、独りでは生きられない。生存しているだけでは生きる意 味はない。肉体が難破しない限り、現世で縁のあった多くの仲間と一緒に生きて いきたいと思う。今は、伝蔵荘日誌の原稿を書ける幸せを実感している。

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