伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年5月18日: 我が身を誰に委ねるか GP生

 韓国の海難事故が発生してから1ヶ月が過ぎた。未だ20名の乗客は行方不明 のままだ。時の経過とともに事故の原因が明らかになりつつある。詳細を知るに つれ、唖然、愕然、慄然として言葉も出ない。乗船していた高校生達は、自らの 運命を杜撰な運航を常態としていた船会社に託した。更に、救助システムが機能 しない国家に命を託してしまった事になる。この国に生まれた宿命を恨むしかな いとすれば、国民にとって不幸な事だ。

 先日、TG君と話していた時、「何故、高校生達は自らの意思で逃げなかった のだろうか?」が話題となった。船が傾き始めた状態で、録音された高校生達の 会話を聞くと「その場に待機するように」との船内放送に素直に従っていること が分かる。死亡した高校生の9割が救命胴衣を着けていたと言う。例え、待機せ よとの船内放送が有ったとしても、船が傾いてから沈没するまで2時以上の時間 が有ったのだから、若い彼等なら、傾いた部屋から脱出は不可能ではないだろう。 沈没の可能性を考え、自ら行動出来なかったのだろうか。上級者の指示、命令を 素直に従う教育の成果なのだろうか。日常、自ら考え判断し行動する習慣が無かっ たのだろうか。

 東日本大震災の際、釜石市内の小中学生ら約3000人が即座に避難し、生存 率99.8%と言う素晴らしい結果を残した。「釜石の奇跡」として世に知られ ている。過去、何回も津波の被害に遭ってきた同地区では、「津波てんでんこ」 の教えが伝えられていた。津波が来たら、親兄弟にかまわず、各自てんでんばら ばらに、一刻も早く逃げろとの教えだ。これを体系化し、小中学校での避難訓練 を通じて、生徒の体に叩き込んだのが片山敏孝・群馬大学教授だ。 小学校1年生の男子生徒は自宅で一人でいたが、教えられたとおり自力で避難し た。また、小学校6年生と2年生の男の兄弟は、「逃げよう」言う弟を兄がなだ め、自宅の3階に避難して難を逃れた。すでに、自宅周辺は大人でも歩行困難に 状態になっていた。共に、受けた教育から、的確な状況判断と行動が身を守った。

 震災や大事故の場合、その渦中に置かれた者は、客観的に状況を判断する情報 に欠けるのが通常だ。情報を発信する側としても、混乱の中で、正しい情報を把 握出来るわけではない。それでも、情報発信者が有能であれば、限られた状況の 中でも、有益な情報を発信できる。東日本大震災の菅直人内閣の周章狼狽ぶりは、 福島第一の被害を拡大させた。平成7年の阪神・淡路大震災時の村山内閣の無能 は、自衛隊の出動を遅らせ、多くの死者を出した。無能な政権による被害を被る のは、何時も国民だ。国別を問わない。

 社会が成熟し、文明が進化した生活に慣れてしまうと、人が持つ本能的危機対 処能力は衰えてくる。電話一本で救急車が到着し、警察、消防組織が国民生活の 安全が維持されている社会に暮らせば当然のことだ。自らの安全を社会に委ねる 事が出来る我が国は、素晴らしい文明国だ。先進国の中でも、我が国ほどのきめ の細かいシステムを有する国は少ないだろう。文明は本能を鈍麻させる。

 世の中が幾ら進歩しても、想定外の事態には幾らでも遭遇する。大きな事故や 震災ともなれば、入手できる情報は限られるし、流言飛語も多い。頼りの携帯電 話やスマホは機能しないと覚悟しなけばならない。テレビ情報すら途切れるかも しれない。そんな中で、我が身や家族を守るのは、限られた情報を基にした想像 力と直感による行動だ。得られた情報は吟味し、瞬時に取捨選択しなければなら ない。生死を分けるのは、自らの判断であることを肝に銘じる必要がある。

 日常生活での危機管理は、病の管理である事が多い。特に高齢者にとっては、 喫緊の問題でもある。便利な世の中ゆえ、身体の不調を感じれば、直ちに病院に 走る事になる。病を治すのは医者であり、薬であると考えるからだ。医療費の増 大が、それを物語っている。病の理解は専門知識を有する医師にしかできず、患 者は、医師の処方に従うのが正しいとの思いが有るのだろう。それで良いのだろ うか。医者に出来るのは対処療法で、健康を維持するには如何すべきかとの発想 はない。対処療法の基本は投薬と手術だ。病が重なれば、投薬量は飛躍的に増加 する。極論すれば、薬に自らの命を委ねる結果となる。

 Waさんは脳梗塞と肺癌を患い、それぞれ異なる病院で治療を受けている。脳 梗塞にはワーファリンを処方され、肺ガンにはTS-1が処方された。ワーファリ ンは血液の凝固を妨げる作用を持つ。一方、TS-1も血液の凝固を妨げる副作用 を有する。此の相乗効果で歯茎から出血し始めた。もし、大怪我でもしたら、止 血不能となり命にかかわる。脳梗塞の担当医が、TS-1の抗凝結作用を知らなかっ た事が原因だ。薬剤師に聞いて、あわてて薬を換えたそうだ。お粗末医師に命を 託するわけにはいかない。

 Waさんは現在TS-1の副作用に苦しんでいる。4週間の服用、2週間の休止 のサイクルを一年以上続けている。身体のだるさ、かゆみ、激しい下痢で夜も眠 れない日が続いている。担当医に話しても、特段反応はないようだ。医師が出来 るのは薬物の選択のみで、副作用は視野の内だ。他に処置の方法がないから、何 を言っても無駄の様だ。75歳の老体には、副作用による免疫力低下はこたえる 筈だ。抗癌剤で癌を叩き、低下した免疫力は癌を勢いづかせる。其の他の正常細 胞は抗癌剤の影響により、活性が衰える。抗癌剤とはなんだろう。これで、癌縮 小効果が著しいのであれば別だが、TS-1の奏功率は胃癌で46.5%、非小細胞肺 癌18.2%に過ぎない。副作用は100%だ。Waさんには、セカンドオピニオンを求 めたほうが良いと話した。

 年始の老人健診で、家人の中性脂肪が250を超えた。LDLも高いと指摘さ れ、高脂血症予防のため、医者から薬物が処方されそうになった。家人は、中性 脂肪対策は自分で考えるからと医者に話し、処方を辞退した。スタチン剤を処方 されれば、加齢により活力が低下している家人には致命傷になる恐れがあるから だ。以前の経験から、ヒジキの微細粉を購入し、毎食毎に飲み始めた。そして3 ヶ月が過ぎた血液検査で、中性脂肪が110、LDLが10低下した。全て基準値 に収まったのだ。医者は驚いていた様だ。ヒジキにはミネラルが豊富なのは分か るが、どの様なメカニズムで中性脂肪が低下するかは知らない。年齢に応じた必 要栄養素が不足すれば、血液検査で過不足が生じるのは当然だ。医者は栄養指導 はしないし、出来ない。薬害から身を守るのは自分だ。

 自分の前立腺癌の実態が検査で明らかになるにつれ、治療法については主治医 と十分話し合った。疑問点があれば何回でも問い質した。主治医は自分の多くの 質問に対して、丁寧に説明してくれた。分からない事は、現在の医学では分から ないと明快であった。治療はかなりハードであったが、自らの決断であるがゆえ に、希望を以って耐えることが出来た。治療は患者と医者との二人三脚であると 思っている。

 自分の上の孫は自らの意思で志望校を決め、高倍率の推薦選抜を乗り越え都立 高校に合格した。下の孫は、小学校卒業前に硬式野球クラブの体験入部を数多く 経験し、父親と相談の上、最強チームに入部した。激しいレギュラー取りの競争 は覚悟の上でだ。孫達が、自らの意思で進むべき道を考え、決断し、頑張ってい る姿を見ることは、祖父として望外の喜びだ。自らの道を切り開いている姿を陰 ながら応援している。子供の頃からの自主性の発露は、将来の宝となろう。

 船と共に沈んだ高校生達の姿は他人事ではない。自らの運命を定めるのは自分 であることを、実行出来なかった悲劇がそこにある。船内放送の如何にかかわら ず、何故逃げなかったかの疑問に、心がかきむしられる。船長以下、船員たちの 不作為は強烈な反面教師でもある。自ら考え、自らの責任で行動することは、こ の世に生きる人々にとっての摂理だ。人は他力本願では、真っ当な人生を送れな いからだ。「みのもんた」の息子ではないが、人生の大事を親に委ねた男に将来 は無い。

 高齢者にとって、何時まで自力で生きられるかは大きな問題だ。例え、要介護 の状態になっても、自力で生きる意欲は必要だ。人は幾つになっても、自分の運 命を他者に委ねてはいけないのだ。

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