伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年5月1日: 前立腺癌の再発を考える GP生

 放射線外部照射による前立腺癌の治療が終わり2ヶ月が過ぎ、先日、放射線治 療部と泌尿器科の診察を受けてきた。今後2年間、3ヶ月に一度のホルモン療法 は継続されるので、これからもPSA値は低位で推移する筈だ。現段階で前立腺 癌の再発を心配するのは早計だ。しかし、前回の診察時に、最新の放射線治療で も「30〜40%の患者が再発している」と、両医師から説明を受けた。現代の 検査技術を以てしても、残存する前立腺癌細胞の有無を確認できない。再発の可 能性がゼロでない以上、悩ましい状態は続くことになる。

 放射線治療部の主治医に「再発率は、この病院での実績ですか」と聞くと、 「当院での(HDR+IMRT)法による放射線治療の実績だ。例えば、グリソ ンスコアー10の患者は、同じ放射線治療をしても完治は難しく、再発しやすい。 骨への転移はなくとも、周囲に侵潤したり、リンパに転移しても、癌巣が小さけ れば発見は難しい。高リスク癌の治療結果を含んでいると考えてもらいたい。」 との回答であった。更に、「正常細胞の一部は、強い放射線の照射により癌化す る筈です。再発の要因として考えられますか」と尋ねた。主治医は「一般論とし ては要因になる。あなたの癌は、30年近く前に発癌している筈だ。今回の放射 線治療により発癌しても、早くて、90歳以上にならないと分からないから、心 配無用」との返事であった。

 泌尿器科の主治医に、再発率について同じような質問をすると、主治医は「再 発率30〜40%は、あなたにも当てはまる。何故なら、治療前のPSA値が4 8と高値で、グリソンスコア7、生検で12本中6本がヒットしているリスクの 高い癌だからだ。」との説明であった。昨年、検査の結果、前立腺癌が確定した 時、同じ主治医から、「あなたの場合は、手術によっても完全に癌を摘出するの は困難で、残存する可能性が高い。骨に転移はしていないので、放射線治療を薦 める」と言われたことを思い出した。

 放射線治療部の主治医は、前立腺癌患者の全てを視野に入れての再発率の説明 であり、泌尿器科の主治医は、自分の前立腺癌に対する見解であると理解した。 放射線治療部の主治医の見解を信じれば、気持ちは楽になるが、泌尿器科の主治 医の見解は、自分の可能性を問題にしている。再発要因は、前立腺内外の癌細胞 が完全に死滅していない可能性と、リンパに転移している可能性が否定できない 事に有るようだ。前立腺内の癌細胞の有無については、再度、生検を行う方法は あるとの事だが、これとて、微小癌細胞を逃がす可能性がある。生検陰性の結果 が出ても、安心できない。ならば、再度、前立腺を傷付ける意味がない。

 前立腺癌再発の有無は、定期的に測定するPSA値で確認するしかない。20 12年版「前立腺癌診療ガイド」によれば、再発の定義は「4週間以上あけて測 定したPSA値が、最低25%以上昇し、上昇の幅が2.0ng/ml以上となっ た時」としている。とは言え、患者にとっては、0.5の上昇でも、心臓に響く ものだ。

 PSAとは「前立腺特異抗原」と呼ばれる物質で、精子が体外に放出される時 に、精子の運動性を高める働きをする。健康であれば血液に入ることは希だ。疾 患があれば分泌腺が壊され、血液中に漏出してくる。PSA値が10以下であれ ば、前立腺肥大が原因であることもある。20を超えれば殆んど癌と言われてい る。自分の場合も、48と計測された段階で、癌を覚悟した。

 再発は放射線治療だけでなく、全摘除術においても問題になる。手術で前立腺 を全て除去すれば、理論上PSA値は0になるはずだ。先月の泌尿器科での診察 の時に、摘出手術による再発率は50%との説明を受けた。肉眼で判定できない 微細な癌細胞が周辺臓器に残存したり、既にリンパに転移したりしているのが原 因のようだ。手術後の排尿障害は、放射線治療後のそれとは比較にならない程、 大変の様だ。それだけの思いをして、再発ともなれば心身へのダメージは計り知 れない。

 自分の場合、ホルモン療法が2年間継続する為、PSA値の変化に神経を使う のは先の事になる。これからの2年間は、自分にとってのチャンスと考えている。 細かい数値の変化に一喜一憂する必要は無い。もし、癌細胞が残存しているとし ても、ホルモン療法の結果、活動は出来ず休眠状態だ。放射線によるDNA損傷 による発癌があっても初期段階だ。対策を考え実施する時間は十分ある。

 放射線治療部の主治医よれば、自分の前立腺に癌細胞が芽生えたのは、40代 の半ば頃だ。仕事に全力投球をしていた超多忙の時期だ。責任も重かった。体力 も充実していた。しかし、分子栄養学に出会うのは10年後の事で、栄養には全 く無頓着な食事をしていた。ストレス解消にはもっぱらアルコールに頼る生活で もあった。偏った栄養とストレス増が癌細胞の増殖を促したことに間違いはない。 幸い、現在は、当時の様なストレスは無いが、生きていく上での大小のストレス は存在する。かっての自分と違うのは、加齢によりストレス耐性が低下した事と、 ストレスによる発癌メカニズムを知り、対処する手段を有していることだ。

 昨年の発癌以来、幾つかの書籍と勉強会でのディスカッションを参考にして、 癌の食事療法を実施してきた。実施3か月後のPSA値が0.05にまで低下したの は、ホルモン療法と食事療法の相乗効果であると考えている。放射線治療が終わっ て、ひと段落の気分になり、食事療法も少し緩めた生活となった。此の頃は、放 射線治療の後遺症たる、切迫尿意と極端な頻尿に悩まされ、食事療法どころでは なかったこともある。

 治療1ヶ月が過ぎ、排尿障害はあっても、少し落ち着いてきた時期に、再発の 可能性の説明を受けた。これを機会に、放射線障害改善と残存しているかもしれ ない癌に対するための食事療法を再考した。厳密なゲルソン療法は出来ないので、 済陽高穂医師の著書「がんが消える 食事の8原則」を参考にした。 以前の日誌に書いた通り、減塩と高カリウム食、ヨーグルトの大量摂取が癌対策 の基本になる。更に、分子栄養学の観点から、配合タンパクと各種ビタミンによ る栄養補完だ。一日のナトリウム、カリウム、タンパク質、ビタミンの摂取量を 計算しバランスを取った。

 朝食、昼食のエネルギー源はバナナ、全粒パン、シリアルを中心に置き、不足 しがちなω―3系の脂質はオリーブオイル、クレープシールドオイルをパン食に 用いた。カリウム源は市販の野菜ジュース、黄粉、無調整豆乳だ。微小ミネラル の補給にはエビオス錠とクロレラを摂取した。夕食は通常食だが、ベースは減塩 食。牛豚肉は食してもごく少量だ。ブロッコリー、トマト、キャベツ等の野菜は 必ず付く。家人の協力の賜物だ。アルコールは昨年の5月以来禁酒を続けている。 2年間の予定を5年に延長した。

 損傷した臓器の修復は就寝中に行われる。現在も、排尿時に尿道の一部に、痛 みが走ることがある。泌尿器科の医者の言では、放射線障害が残っているとの事 だ。尿意は膀胱で感じるそうだ。膀胱がマンタン時の排尿感の爽快さは、今は望 むべくもない。尿意が有っても、排尿量は極めて少ない。膀胱内に少量溜まって も尿意を感じるからだ。しかも、全量が排出されず、残尿感もない。これが頻尿 だ。膀胱の機能が修復されないことが原因だ。時々生じる排尿時の痛みも辛いも のだ。

 泌尿器修復の為に、遠赤外線を発する岩盤マットを就寝時に巻いたり、鍼治療 を行ってきた。修復材料は夕食だけでは不足だ。タンパク質とビタミンの絶対量 が足りない。そこで、就寝2時間前に、天然アミノ酸液とビタミンB、Cを摂取 している。いずれも短時間で吸収される。脂溶性ビタミンは残留性が高いので、 定時摂取に留めている。

 これ等の処方を今後5年継続するつもりだ。新しい知見を得、有効だと思えれ ばメニューの変更をすることはやぶさかではない。今後の診察で身体のデーター も、定期的に入手できるだろう。加齢による老化も視野に入れなければならない。 試行錯誤は今後も続くことになる。

 「あなたのがんを消すのはあなたです」の著者・渡邉勇四郎医師は67歳の時 に、PSA742.1の高値で前立腺癌と診断された。既に骨に転移し、ホルモン療 法の効果も限定的であった。現代医学で完治不能の末期前立腺癌を、渡邉医師は 徹底したゲルソン療法により完治させた。この体験記は前立腺癌患者にとって福 音だ。前立腺癌に悩む、全ての患者にとって必読の書である。

 自分の場合、ホルモン療法が終了した後、PSA値が如何なる値を示すかは分 からない。その結果、再発と言われれば、その時点で新たな対処法を考えればよ いと覚悟している。自分が為すべきことを怠った結果なら、悔いは残るが、やる ことをやつた結果であれば、それは天命だ。

 先日の泌尿器科での診察の時、自分の前に、70代後半の患者が前立腺癌再発 の診察に来て、CT、MRIの検査の指示を受けていた。体調も良くないようだ。 肩を落として診察室を後にする姿を見ながら、他人事ではない思いに駆られた。 前立腺癌の治療を終えた患者全ての共通の思いだろう。

 放射線なり手術なりの治療を終えた患者に対して、医者に出来る事は殆んどな い。癌治療にしても、現代医学は万全ではないし、医者に出来る事は限られてい る。しかし、患者に出来る事は多い。座して、成り行きに任せることは出来ない。 如何なる病でも、治療の基本は自力であることは論を待たないからだ。

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