伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年4月26日: オバマ、この資質なきアメリカ大統領 T.G.

 2009年の伝蔵荘日誌にオバマ大統領就任式のことを書いた。まだ未知数だった新大統領のあまりの弁舌の巧みさに、それに見合う資質があるのか疑念を感じたのだ。この口だけはうまい男に、はたしてアメリカ経済を建て直す力があるのか、超大国の指導者に必須の、確固とした歴史観、国家観があるのか、疑ったのだ。あれから5年、今回の日米首脳会談の体たらくを見ていると、まさに心配した通りである。彼に比べれば、あの蒙昧なブッシュやカーターでさえ、彼より優っているのではないか。もしかするとアメリカ史上、最低の大統領ではないかとさえ思えてきた。

 今回の日米首脳会談と、つづく米韓首脳会談で、彼は大国の冷徹な指導者なら決して口にしないような、思慮を欠いた発言を幾つかしている。その代表が、尖閣が日米安保第5条の適用対象と明言したことだ。過去のいかなる米大統領も、遠回しに尖閣が適用範囲と思わせてはいたが、尖閣という固有名詞は決して口にしなかった。アメリカにとって一種の禁句で、言って何の得にもならない。日本は喜ぶかも知れないが、経済依存している中国の不信、反発を買うだけで、アメリカの国益にはならない。中国好きのオバマだってこの5年間言わなかった。今回それをあえて口にしたのは、おそらく成果を問われているTPP交渉で、日本の完全譲歩を引き出すための交換条件に使ったのだ。尖閣を言えば、中国に悩まされている日本が牛肉の関税撤廃に応じると多寡をくくったのだ。日本を甘く見たのだ。思いつきというか、アメリカらしい戦略性がまったく感じられない。当然ながら安部は見事にそれを突っぱねた。尖閣と牛肉は別の話だと。

 古来大国が軍事力を背景に経済的利益を奪うのは良くある話だ。「尖閣を守ってやるから、牛肉関税をゼロにしろ」はまさしくその典型である。百年前の帝国主義時代ならいざ知らず、21世紀の先進国間ではあり得ぬ話である。レームダック状態のオバマは国内での指導力がまるでない。議会の反対にあって危うくデフォルトになりかけた哀れな大統領である。自動車業界や食肉業界からは、日本への譲歩は一切するなと尻を叩かれている。だから条件闘争が出来ない。そもそもTPP交渉は、物の値段を値切るのと同じで条件闘争である。それを封じられているのだ。オバマの代貸しフロマン通商代表は、交渉材料を何も持たされていない。馬鹿の一つ覚えの牛肉関税ゼロ一点張りである。交渉相手の甘利大臣もげんなりしている。21世紀の今、軍事力で経済利益を得ようと言う発想は時代錯誤である。オバマもフロマンも、国家指導者に必須の歴史観が欠けている証拠である。

 この歴史観の無さが国際外交でも裏目に出て、世界中から侮られている。イラク、エジプト、アフガンに始まって、シリアでもウクライナでも大国アメリカの指導力が失せている。プーチンや習近平はもとより、同盟国のメルケルやキャメロンにも舐められている。いざというとき何も出来ない口先男だと言うことが知れ渡っている。誰もまともに相手にしなくなっている。日本の安部ぐらいは何とかなるだろうと多寡をくくって乗り込んできたが、尖閣の言質を取られただけで何も得られなかった。その腹いせか、鬱憤晴らしか、日本の次の韓国で、なぜかお気に入りの女性大統領に「慰安婦は甚だしい人権侵害で衝撃的なものだ。安倍総理大臣も日本国民も、過去は誠実、公正に認識されなければならない」とリップサービスをした。前日には日本の首相と鮨をつまみながら歓談しておいて、翌日韓国とこれでは話しにならない。トラストミーのルーピー鳩山といい勝負だ。背信行為というか、一昔前なら戦争になっている。いったいこの男は何を考えているのか。これではアメリカの大統領は務まらない。

 そもそも従軍慰安婦は朝日の作り話である。少し調べれば分かることだ。それを逆手にとった韓国と、真に受けた日本の左派マスコミが世界中に喧伝した。火元の一つ河野談話を再検証すると言ったら、韓国や左派マスコミが慌てだした。朴大統領がオバマにあれこれ工作して、安部首相から再検証はしないという言質を取り付けた。それでも足りぬと、今回の米韓首脳会談でオバマに念を押させたのだ。日本人にとっては、TPPで牛肉関税ゼロを飲まされるより、この方がはるかに屈辱的である。国民気持ちを冷えさせ、離米感情を醸成させる。せっかくの日米首脳会談がぶちこわしである。彼は何のために訪日、訪韓をしたのか。やっていることが戦略の一貫性を欠き、大国アメリカらしさがまるで感じられない。70年も前の従軍慰安婦をを今頃持ち出して、アメリカに何の得があるというのか。歴史観なき口先男の面目躍如である。

 もっともこの話には裏がある。首脳会談の後の記者会見における従軍慰安婦のやり取りは、韓国マスコミしか取材報道していない。それを日本のマスコミは鵜呑みにしているが、確かにオバマの発言かどうかは判然としない。
あるサイトによると、「記者会見の質疑応答で、朴大統領が延々と日本非難と従軍慰安婦問題を話し続けます。欧米の記者はウクライナ問題を質問しオバマも国際情勢を語りますが、朴はオバマの話しているのをさえぎってまで従軍慰安婦の話をします。記者団は韓国政府が選んだ人で構成されていて、政府の指示通りの質問しかしません。こうして朴の発言に答えたり、韓国人記者の質問に答えているうちに断片的な「文章」が出来上がりました。これらをつなぎ合わせて文章にし、映像を編集すると、オバマが従軍慰安婦で日本を強く非難して対応を求めたニュースが捏造されました。」とある。本当ならオバマが罠に嵌められたわけだが、誘導尋問は引っかかる方が悪い。いずれにしろ大統領の資質はない。

 前の日誌にも書いたが、アメリカが衰退した後、世界を混迷に陥れる二大要因は、ドイツの一人勝ちで破綻したEUと、近日中に起きる巨大中国の破綻である。今のウクライナ問題と、中国の軍事膨張はその端緒である。打つ手のないオバマは、勝手に世界の警察官を下りた。核廃絶と同じで、彼一流のきれい事ではあるが、もうアメリカは浮かび上がれない。ますます沈下していくだろう。方や極東の日本は、この地球規模の大変動にどう立ち向かうのか。覚悟を決めて打って出るか、なすすべもなく傍観するのか。どうやら安部は前者に臍を固めたようだが、国家観を欠いた国内左派の妨害が待ち受けている。さっそく朝日やNHKが盛んに集団的自衛権に言いがかりをつけている。蒙昧な国民はそれに煽られている。どこの国も当たり前に持っている権利を、なぜ日本だけが持てないというのか。

 オバマのアメリカも安部の日本も前途多難である。

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