伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年3月22日: 前立腺癌の放射線治療を終えて GP生

  前回、3月10日の前立腺癌闘病記の続きである。

 放射線外部照射が始まってから「放射線による障害の伸展と治療終了後の障 害改善の経緯」を把握する手段を考えた。副作用のほとんどが、排尿障害である ことから、一日の排尿回数と就寝中の排尿回数を記録し、その他の症状と改善対 策を付記することで、解析出来るのではと考えた。治療4日目から開始して、現 在も継続中だ。

 外部照射終了から1ヶ月が経ち、慈恵医大の放射線治療部と泌尿器科、夫々の 主治医の診察を受けた。診察と言っても、その後の身体状態や排尿障害を把握す ることにあるようだ。良い機会なので、この一ヶ月の間に感じた事、疑問点を両 主治医に質問した。両医師とも、患者の面倒な問いにも、誠実に返答してくれた。 分からない事は、分からないと答える事も好印象だ。

 放射線治療部の主治医に「癌細胞は死滅したと考えて良いか」と問うと、「放 射線により癌細胞のDNAが破壊、損傷しても、それは直ちに癌細胞の死にはつ ながらない。DNAが損傷しても、癌細胞は生存している。癌細胞が分裂をする 時、DNAに破損により正常の細胞分裂が出来ず、そこで初めてアトポーシスを 起こす。全てがアトポーシスを起こすのに9ヶ月近くを要する。」と説明してく れた。更に、「癌再発の可能性は」と問うと、「経験上、30〜40%の患者が 再発している」との返事だった。

 次いで、泌尿器科の主治医に同様な質問をすると、「内部照射と外部照射によ る最新の治療によっても、30〜40%が再発している」と同じ答えが返ってき た。更に、「放射線治療により癌細胞が消滅したか否かを確認する手段がない。 従来法の外部照射や摘出手術による治療では、再発率は50%近くになる。あな たが、今回受けた治療は、従来より再発率かより低い方法だと考えてもらいたい。 放射線治療後、2年に亘るホルモン療法は再発防止の手段だ。今後、PSA値の 検査を定期的に継続するが、5年間、値が安定すれば、癌細胞は消滅したと考え られる。」との説明を受けた。 自分は、正常細胞のDNAが放射線により損傷を受ければ、直ちに修復にかかる ことから、修復能力のない癌細胞は直ちにアトポーシスを起こすと、勝手に推測 していたが、勉強不足による早とちりであった様だ。

 問題は、最新の放射線治療を以てしても、再発率が30〜40%もあると言う 現実だ。現代医学には、治療後の患者が再発するか否かを見極める手段はない。 唯、PSA検査で様子を見るだけだ。自分の場合2年間のホルモン療法を継続す るから、この間にPSA値が上昇することはない。その後、もしPSAが上昇し ても、年齢は70代の後半から80代になっている筈だ。勿論、それまで生きて いることが前提だが。その時の医療手段は、ホルモン療法の再開しかない。ホル モン療法の効果がなくなる迄、さらに数年を要するから、あまり深刻になる事は 無いのかもしれない。現代医学による癌治療の全てが対処療法であり、癌の根本 治療でない事は明らかだ。治療法が確立されているとされる前立腺癌ですら、こ の通りだ。癌患者は、癌の三大療法の限界を意識しておくことは大切だと思う。

 両主治医の回答は、自分が質問を続けた結果、出されたものだ。考えてみれば、 苦しい放射線治療に耐え、治療後1ヶ月を経過しても、排尿障害に苦しむ患者に 対して、医者が自ら「放射線治療は終わりましたが、一般論として、再発の可能 性が30〜40%あります」などと、患者に対して積極的に言える筈がない。もっ と婉曲表現をするだろう。患者にすれば、治療主意書の目的欄に「根治」とあり、 治療の具体的説明を受け、放射線強度を身体で実感すれば、癌細胞は消滅し完治 したと錯覚してもおかしくない。

 泌尿器科の主治医は、更に説明を補足した。「癌が前立腺の局所に留まってい れば、根治の可能性は高いが、癌細胞の幾つかが、生き残る可能性は否定できな い。骨シンチグラフィーによる検査で骨に転移が無いことを確認出来たたとして も、身体の他の部位に転移している可能性は排除できない。再発の可能性はこれ 等要因を全て含んでのことだ。」と。

 前立腺癌は前立腺の周辺部に発生するので、転移の可能性は常に存在する。前 立腺癌は骨に転移すると説明を受けたが、何故、骨なのか、他の臓器への転移は ないのか等質問したが、現在の医学では判明していないと言われた。理由が解明 されていない以上、骨以外への転移の可能性は排除できない。 骨以外の臓器に転移し、そこで癌巣が発見可能な状態になるには時間がかかる。 放射線治療にしろ、摘出手術にしろ、治療行為による免疫へのダメージは極めて 大きい。免疫力の低下は癌細胞の増殖を促進させる。人体防衛力が低下している のだから、若し、転移していれば、内部の敵と戦う術がない。

 自分は放射線治療後、癌に対する食事療法の基本は継続していても、夕食は正 常食に少し戻しつつあった。先の再発率は、あくまで一般論だ。昨年、半年にわ たるホルモン療法と並行して、癌の食事療法を実施した。厳密なゲルソン療法は 出来なかったが、K/Na値を高める工夫やヨーグルトの大量摂取による免疫力 向上策を実施した。これ等の対策と強力な放射線治療により、癌は根治したと信 じていた。しかし、確かめる術はない。

 一般論とは言え、再発率の高さには、正直驚いた。両主治医が率直に現実を語っ てくれたことには感謝している。現実が分かれば、患者には、対応方法はあるか らだ。対応策がないのは、むしろ医者の方だ。治療後、定期的に様子を見ましょ う的な説明だけであったら、食生活を含めた生活習慣が元に戻り、再発のアクセ ルを踏みかねない。自分の周辺でも、放射線治療3年目にPSA値が上昇し、再 発の可能性を指摘された知人もいる。彼は完治したと信じていた。再発のショッ クは大きい。自分の場合も再発の可能性がある以上、今後5年間は、昨年の食事 療法を再開、継続する必要がある。

 日誌の冒頭に記したように、排尿回数等の記録から興味深い事が分かった。外 部照射治療中は、一日の排尿回数は20回を超え、夜間も5〜6回を数えた。毎 回が切迫尿意で、排尿時の痛みも半端ではなかった。治療終了後、ビタミンEと Aの注入で、排尿痛は緩和したものの、排尿回数の低減は少なかった。夜間も4 回程度に落ち着いても、尿の排出が困難な事が多かった。これが、劇的に改善さ れ始めたのが、治療終了20日過ぎた頃だ。この頃始めたのが、就寝中、岩盤治 療器を下腹部に巻いて、朝まで温めた事だ。これを腹巻岩盤と称した。それまで は、昼食後1時間、岩盤を敷いて昼寝をするのを常としたが、腰からの遠赤外線 では、患部に届きにくい。少し寝にくいが、試した腹巻岩盤が奏功した。

 遠赤外線岩盤マット「式部」は幅535mm、長さ1250mmの大きさで、 465枚の岩盤光窯石が埋め込まれている。窯石内部の植物性炭素繊維と合せて、 遠赤ダブル温熱を発する。温度は30〜50度Cの無段階調節が可能だ。タイマー は60分、90分、120分の三段階で、就寝中はトイレのたびに120分のセッ トをし直した。設定温度は40度前後だ。 マットを横敷きにして、電源の反対側を下腹部に掛ける。謂わば、柏餅状態だ。 これを始めて3日後から、就寝中のトイレ回数が2〜3回に、一日の総回数が  15前後に安定してきた。苦しかった夜間の排尿がスムースになり、切迫尿意が 減少した。泌尿器全体が遠赤外線により、温められた結果だと思う。

 岩盤により排尿障害の改善が為されたことには、幾つかの理由が考えられる。 長時間の内部加温により、毛細血管の血流が活性化したこと。従って、細胞修復 材料の供給がスムースになり、加温による代謝の活性化で、放射線で傷んだ細胞 や粘膜の修復が促進された事だ。更に、自覚は無いが、腸が温められることで、 腸管免疫が活性化している事は間違いない。消化器も活性化しているだろう。腹 部内を温める事で得られるメリットは多い。 風邪やインフルエンザによる発熱は、免疫物質の産生を高めるための人体の防御 反応の一つだ。体温が上がりすぎれば脳に問題が起きるから、頭を冷やし其の他 は保温に勉めるの事になる。腹巻岩盤は下腹部を熱するけれど、活性化した血流 は全身に及ぶ。起床時に、顔が赤みを増していることで判る。

 もし、癌細胞が身体の何処かに転移していたとしても、大きな癌巣になってい ないと推測される今なら、活性化したNK細胞の餌食になる確率は高くなる。食 事療法により、癌細胞の生存環境が悪化すれば、癌細胞が消滅する可能性は、更 に高まる。癌細胞が発生するのも、癌細胞が消滅するのも人の生き方に依ってい る。癌が生活習慣病たる所以だ。

 暖かい季節になると、設定温度を下げたとしても腹巻岩盤は辛くなる。これか ら3ヶ月が勝負だ。癌の食事療法の徹底と岩盤治療の継続で、再発率が限りなく ゼロに近づく事を期待しよう。3年間の禁酒は5年に延長した。がんを消す努力 は、その他の生活習慣病の防止にもつながる。排尿障害は、目に見える形で効果 が出ていることは大きな励みでもある。患者に出来る事は、継続の努力だけだ。

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