伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2014年3月10日: 体験 放射線外部照射による前立腺癌の治療 GP生

 1月28日の日誌の続きである。前立腺癌に対する放射線治療が全て終り、 20日近くが経過した。放射線外部照射の体験を振り返り、日誌に綴ってみた。
  ----------------------

 高線量率組織内照射による治療が終わった後、10日間の休養期間を経て、外部照射による治療が始まった。その間、血尿が落ち着いても、膀胱内や尿道に残存する異物や血腫に悩まされた。会陰部から前立腺に刺した20本の中空針の傷は完治せず疼いている。椅子に座れば、ズーンとした圧迫感と共に痛みが増してくる。排尿障害は継続中だ。

 治療に先立ち、放射線治療部の主治医から、外部照射の説明を受けた。「治療は前立腺と精嚢を対象とする。目的は癌の根治にある。前回の内部照射で癌細胞の70%は死滅と推定できるので、残存する癌細胞を対象にする。照射回数は16回。土日を除き、連日行う。照射は対象部位の外周から内部に向け, 6方向から照射する。治療による副作用は、頻尿、尿の勢いの低下、排尿時の痛み、下痢、軟便、だるさ、希に、血尿と血便。これ等の副作用は1〜2ヶ月で回復するはずだ。」頻尿と切迫尿意は現在も続いているから、これら障害が更に増強されることを覚悟せざるを得ない。主治医曰く、「副作用は、癌を根治する代償と覚悟してもらいたい」。

 いよいよ治療が始まった。治療機はアメリカのバリアント社の最新鋭機ClinaciXだ。右の写真に示す様に、本体とロボット治療台で構成されている。本体上部が治療用放射線の照射器で、向かって左側が画像用X線照射器、右側の機器は受像装置だ。これにより、X線像、透視像、CT像を得ることで、患部を確定し、放射線照射の精密コントロールが可能になる。これ等3種の装置は一体構造で、360度回転する。従って人体の全ての方向から画像が撮れ、全ての方向から放射線を照射することが出来る。更に、照射方向ごとに照射強度を変更し、他臓器に対する障害を最小に抑える強度変調放射線治療(IGRT)が可能だ。

 治療の2日前に事前検査があった。これにより、治療計画を立てるのだと言う。検査の為、ロボット治療台上に仰向けになった。治療台の可動部はガラス製で、下部からの照射が可能な構造だ。これが、固定台から治療器に向けてせり出し、定位置に来ると、壁に取り付けられた赤色ビームが身体に照射される。これに合わせて、下腹部と両太もも外側に、特殊ペンで十字のマーカーが書き込まれた。その後、色々な方向から画像撮影された。

 照射第1日目は興味津々であった。治療台に仰向けに横たわると、下半身に大きな布が被せられた。ズボン、下着を下ろし、下腹部を露出させる。両足を固定具に載せ、下半身はベルトで固定された。ロボット治療台は所定の位置にせり出した。下腹部を露出し、治療台を前後左右に微調整して、赤色ビームを三か所の十字マーカーに合せて、照射部位が固定された。露出した下半身には、再び布が掛けられ、両手を胸元で組み準備完了だ。照射が完了するまで微動だに出来ない。

 照射は真下から上部に向けて始まった。照射部が左回転でロボット寝台の真下に止まり、ガラス製の台座を通しての照射だ。照射時間は3秒。次いで、時計回りで真横に止まり、照射は8秒。更に、斜め左上から5秒、真上から3秒、斜め右上から5秒、最後に右横から8秒だった。これ等照射時間は、合計16回の照射ごとに、頭でカウントした平均値だ。一回の総照射時間は32秒に過ぎない。ベットに横になってから、全てが終わり、衣服を直す時間を入れても10分にも満たない。担当医に放射線の種類と強度を聞くと、線種はX線で、強度はCTの 100〜1000倍との答えが返ってきた。

 最初の2,3回は、治療後の疲労感はなかった。回を重ねるごとに、何とも言えない倦怠を感じ始めた。たかが、32秒の照射であっても、放射線の強さの影響が出てきているのだろう。真下からの照射は直腸を通過するのて、3秒と短時間の照射だ。左右真横からは骨盤を通過するので、臓器への障害が少ないため、8秒と最長照射の様だ。他臓器への影響は最小の新鋭機と言えども、前立腺のど真ん中を走る尿道と前立腺や精嚢が密着する膀胱部への照射は避けられない。尿道や膀胱粘膜への強い放射線の照射は、重大な障害を及ぼすことになる。前立腺の正常細胞や尿道は内部照射以来、強度の放射線に曝されている。前立腺周辺で異常が生じないほうがおかしい。例え、正常細胞のDNA回復力が、癌細胞のそれよりも、遥かに高いとしてもだ。これが、排尿障害へと繋がっている。他臓器への障害が無いことは救いだ。

 主治医からの事前説明により、起こりうる事態の想像はついた。現在進行形の排尿障害は、内部照射の後遺症だが、これがさらに強い形で継続するとすれば、自然回復を早める対策を考えなければならない。抗酸化物質とビタミンA、Eと配合タンパク質の摂取回数を増やした。治療が午後二時からの為、昼食時と帰宅後に増量分を摂取することにした。鍼治療は週3回に増やした。病院から鍼灸院に直行し、治療後、自宅で岩盤による遠赤外線治療を行った。気怠い身体は、これ等の処置によって回復するのを感じるが、体調が元に戻るには、翌朝まで要した。元気になって慈恵医大に行き、疲れて帰宅し、一晩寝て回復する。これの繰り返しであった。

 通院は、片道1時間を要する。問題は電車内での切迫尿意だ。尿意を感じてから1,2分でトイレに駆け込まないと、漏れてしまう。対策は、尿意のあるなしにかかわらず、乗車駅、乗換駅でトイレに行くことだ。これを怠った時、何回か悲劇に見舞われた。車の運転は近距離以外は厳禁だ。外出時は常にトイレの場所を意識しなければならない。一日のトイレ回数は25回を越え、就寝してからは6回から8回のトイレ行では、おちおち寝ていられない。睡眠不足は、昼間に補うしかない。

 16回の外部照射が終わって、排尿障害以外の副作用の自覚は無い。精密にコントロールされた放射線照射は、患部と想定された泌尿器周辺以外への影響を及ぼさなかった。しかし、前立腺の真ん中を通過する尿道は、コンガリと焼かれている筈だ。その証拠に、排尿時、尿の通過により強烈な痛みを感じた。陰茎と前立腺の腫れの為、尿道は常時圧迫され、尿の出は極めて悪い。

 尿道の炎症を早急に何とかしなければならない。三っの対策を追加した。一つは、夜間排尿時に何回かビタミンEとビタミンAを含有したオイルを、スポイトで尿道の先端から圧入することだ。ベース材料はメグビー社のビタミン含有オイル・リキッド。これにビタミンEとAのカプセルから中身を取りだして混合した特性オイルだ。尿道の奥まで注入するのには一寸したコツがある。治療が終了した当日から始めた。油性ビタミンは粘膜や皮膚から吸収される。

 二つ目は置鍼だ。足首の内側に炎症を抑えるツボがある。全身の鍼治療終了後、ツボに極小の鍼を埋め込むと、小さな刺激が継続する。小さなテープだけで、3,4日は維持できる。

 三つ目は就寝2時間前に、吸収の早い特製アミノ酸ドリンクを摂取することだ。身体内に生じた各種トラブルは、夜間、就寝中に修復される。炎症、免疫の回復もその一つだ。修復には材料が必要だ。アミノ酸源には、天然由来の必須アミノ酸をすべて含有する伊丹製薬のミネドリンを選択した。これに、メグビー社のビタミンC、Bのパウダーを加えた。希釈剤にはカルピスの乳酸飲料アミールSを用い、水で希釈し飲みやすくした。いける味だ。

 夜間、3回程度のビタミン注入を続けて、3日目から排尿時のヒリヒリ感が少し緩和され、5日目には8割方解消された。それと共に、夜間の排尿回数が減少し始め、同時に、昼間の排尿に勢いが出てきた。ビタミンE、Aと置鍼との相乗効果で、尿道炎症部の改善がなされつつあるようだ。後は、回復材料の摂取による、自然治癒の促進に期待するだけだ。

     ---------------------------------------------

 外部照射が終わって20日近くが経過し、夜間のトイレ回数は2,3回になった。一日の回数は減少傾向にあるものの、排尿障害は継続中だ。問題の癌細胞は消えたと信している。自ら体験した放射線治療を振り返った時、泌尿器科と放射線治療部の夫々の主治医から言われた、「癌を根治する」との言が、偽りでないと感じるからだ。昨年から続けてきた食事療法に、かなりの手ごたえを感じていた事も後押しする。

 これから2年間、3ヶ月毎の通院により、血液検査とホルモン療法は継続する。念のための治療だそうだ。昨年、半年に亘るホルモン療法で、副作用の自覚が無かったことも有り、治療を受ける事にした。排尿障害が続いている現在、ビタミン注入以外の対策は、暫く継続するつもりだ。主治医の言の通り、1,2ヶ月で元に戻るかどうか?。人体実験は続く事になる。

目次に戻る