伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年12月2日: 癌の食事療法 GP生

 先日、自分が伝蔵荘日誌に投稿した前立腺ガン関連の文章を読んだ読者から、伝蔵荘主人宛てにメールが届いた。前段で色々書いてあって、最後に「70も過ぎれば、がん細胞は普通に見つかるものなのだ。こんなものは、治療が必要なものではない。悪いことは言わない、今すぐ一切のがん治療を中止して様子を見るべきである。そうでないと大切にしてきた体が治療でだめになってしまうよ。」と忠告してくれた。

 投稿氏の意見は、一面の真実は含んでいる。抗癌剤は血液系の癌以外、固形癌への薬効は、限定的であっても副作用は確定的で、免疫系に致命傷を与える。手術も局所病巣は切除できても、転移の有無は神のみぞ知るだ。手術により低下した免疫力は、転移した微小癌巣を増殖させる。放射線治療の副作用も大きく、正常細胞を癌化させる恐れすらある。だからと言って、投稿氏の言の如く、何もせずに様子を見るとしても、何時まで見るのか、癌が進行したり転移した時は、如何判断するのか、患者にとっては深刻な問題が残る。これ等に対するアドバイスは無い。人は、自分が癌患者となった時にしか、真剣に思考しないのだろう。投稿氏の真意は分からないが、「癌治療=病院」の発想である様に感じた。癌患者には、思考の柔軟性が求められる。

 先日の勉強会で「代替、統合療法--日本癌コンベンション」の講演を記録した2枚のDVDを、講師の先生から借りた。一枚は済陽高穂医師の「癌は食事で防げる」であり、もう一枚は渡邉勇一郎医師の「あなたのガンを消すのは あなたです」で、共に一時間以上の講演記録であった。両医師の主張に共通するのは、癌は生活習慣病であり、発癌は局所の臓器であっても、全身の栄養・代謝障害であるとの認識だ。三大療法は癌に対する対処療法に過ぎず、現代医学だけでは、癌の完治が困難であると考えている。

 オックスフォード大学のリチャード・ドール名誉教授は、2004年6月に、50年に亘る研究結果を「癌の外的発生要因は、食事35パーセント、喫煙30%、アルコール・添加物20%、薬品・その他15%。」であると発表した。生活習慣に由来する発癌は85パセントとなる。正に癌は生活習慣病と言える。

 1977年のアメリカのマクガバン・レポートでは、「心臓・癌・脳梗塞等の現代病の主因は食事であり、胚芽、野菜などを沢山摂取する必要がある。精製加工食品だけでは、ビタミン・ミネラル不足する。医学会は栄養学を無視してきた。」と報告している。これは現在の日本にも、そのまま当てはまる。

 友人のKo君は、降圧剤、高コレステロール剤、尿酸抑制剤、化膿止め、鎮痛剤を内科医、整形外科医、歯科医夫々の処方に従って、同時に飲んでいた。最近、ジムに来なくなったので、心配して、彼の自宅に行ってみると、「下腹部が不調で、全身に力が入らない、俺はもうジムを止める」と言い出した。間違いなく、薬の副作用による薬害だ。普段から、「お前と違って、俺は医者の指示に100%従う」と言っていた彼だから、痛みが取れても、処方された期間、鎮痛剤を飲んでいた。高齢者にとって、生活習慣病を薬に頼って対処しようとすれば、生活の質を落とすだけでなく、寿命を縮める事は間違いない。まして、癌に置いておやだ。

 済陽医師は「食物の癌危険因子」として、「塩分 動物性(四足)タンパク・脂肪過多 ビタミンB不足 活性酸素障害」の四点を指摘している。秋田県はかつて脳卒中での死亡率が全国一であった。県は汚名挽回の為、県立脳血管研究センターを設立し、県民への減塩運動を展開し、食塩の摂取量が半減した結果、脳卒中の死亡率が減少した。同時に、胃癌の発症が1/3に激減するおまけが得られた。減塩で胃粘膜の爛れが無くなり、潰瘍が出来なくなった。ピロリ菌の増殖環境が消滅したことで、胃癌発症の防止につながったのだろう。肉食過多が発癌に繋がることは、米国コーネル大学の研究でも知られている。ビタミンB不足は、ミトコンドリア内での糖代謝の働きを妨げられ、腫瘍発生、増殖を促進させる。活性酸素によるDNA損傷は良く知られている。

 講演では、癌患者への食事に多くの時間が充てられていた。所謂、初期癌で局所にと留まる固形癌の場合、各種検査で転移が認められない時は、手術か放射線治療が選択される。全身に転移していたり、局所癌でも臓器全体にガン細胞が広がり、隔膜にまで浸潤しているときには、抗癌剤しか対抗手段がない。晩期癌や進行癌に対して、現代医学は無力だ。癌が食事により35パーセントも発症するなら、食事により、癌の生存環境を変える事で、癌の増殖を抑制し、消滅させることが可能なのではないかとの発想から、食事療法が生まれた。

 元祖はゲルソン療法で、日本ではこれを基にして、日本の食習慣を考慮した各種食事療法が誕生した。星野式ゲルソン療法、甲田療法、栗山式食事療法、二木式健康法等だ。いずれも、肉食は控えて、野菜ジュース・果物ジュースの大量摂取と玄米、全粒麦等の摂取及び減塩は共通項で、後はそれぞれの工夫の違いて流儀が異なる。

 渡辺医師のDVDでは、自身の末期前立腺ガンを厳格なゲルソン療法により克服し、全ての癌細胞が消えた経験を中心に講演していた。食事は主食を有機玄米ご飯、副食を有機野菜のサラダ、野菜の煮物と焼き物とした。タンパク質は大豆、納豆、豆腐を毎日食している。塩、砂糖、油脂は使用しない。大量の人参ジュースと野菜ジュースを飲み、肉、魚、卵、牛乳は飲食しない。油は加熱しないときは亜麻仁油を使い、加熱時はオリーブ油を使う。アルコール、コーヒー、お茶、ケーキ、甘い菓子は厳禁。此の食事を1年継続した結果、体内の癌細胞は消滅したと話している。

 自分も、現在食事療法を行っているが、ここまで厳格な療法は出来ない。癌細胞が前立腺内に留まっていて、ホルモン療法で癌の縮小と休眠が確定し、次のステージの高線量率組織内照射を中心とする、放射線療法で完治の可能性が残っていることも一因であろう。もし、渡辺医師と同じ状況の前立腺癌であれば、厳格なゲルソン療法に取り組むと思う。その時は、学んできた分子栄養学の知見により、配合タンパクによる、必須アミノ酸の質・量の向上とメガビタミンを取り入れるだろう。

 野菜・果物ジュースの大量摂取は減塩と裏腹の関係にある。癌患者の細胞内液中のミネラルバランスが大幅に崩れていることは知られている。カリウムが減少し、ナトリウムが増える事で、癌細胞を自殺に追い込む、酵素の産生や働きが妨げられるからだ。ミネラルは濃度勾配により高きから低きに流れる。これを調整するNa-Kポンプはエネルギーが無ければ働かない。ビタミンBが必要とされる理由だ。講演では、細胞内のミネラルバランスが改善されることで、癌細胞は自殺に追い込まれ、消滅する事をデーターに基づいて詳細に説明していた。どの方式の食事療法でも、野菜・果物ジュースの大量摂取と徹底した減塩が基本である事は良く理解できる。

 済陽式では、ミネラルバランスの改善に次いで、腸内環境の改善の重要性が語られている。人体の免疫の働きは、腸に70%が集中していると言う。癌消滅の最前線で働くのは、NK細胞だ。腸内菌がウェルシュ菌や大腸菌が優位になると、免疫力が低下するだけでなく、各種病の遠因となる。従って、腸内善玉菌であるビフィズス菌の増殖を図る必要があり、大量のヨーグルトと食物繊維やオリゴ糖の摂取を提唱している。最近の研究でビフィズス菌は生菌でも、死菌でも腸内で免疫活性をもたらすことが分かってきた。如何に大量の菌を腸内に送り込むかが大事で、ヨーグルト単位量当たりの菌数が、圧倒的に多いカスピ海ヨーグルトが推奨されている。済陽医師は、更に胚芽を含む穀物、豆類、芋の摂取を勧めている。ビタミンBやC、それに、癌を抑制する大豆イソフラボンが摂取出来るからだ。また、海藻類、茸、ハチミツの定常的摂取を勧めている。

 済陽先生の癌患者に対する、2010年の食事療法の実績は、総計211人に対して、完治30人、改善106人で、患者の64.5%に効果が出ている。済陽式では、三大療法との併用を拒絶しない。末期、晩期の癌患者が藁をもすがる思いで訪れていることから、63人の死亡者を出しているのは、仕方のないことだろう。発ガンの初期から、食事療法を始めていれば、治癒、改善の割合はさらに高まることが予想できる。

 マクガバンレポートに有る様に、日本の医療機関での栄養に対する関心は極めて低い。家人が血圧上昇や動脈硬化の治療時に担当医師と栄養条件の話をしたが、全く無視か反発が返ってきた。急性A型肝炎で入院した時は、病院に隠れて配合タンパクとビタミンのドリンクを毎食運んだ。結果、肝機能を現わすマーカーが医師の予想以上に低下した。医者は驚いて首をかしげていた。癌の食事療法は一部の医師が関心を示すのみだ。食事療法は厚労省ら認知されていないし、医者の収入増に貢献するものではない。現在経験的に進められている食事療法が、医学会と栄養学会の連携のもとに勧められるとしたら、癌患者にとって、どれだけの福音になるか知れない。

 自分の主治医に細胞内のミネラルバランスによる、癌細胞の縮小について、意見を聞いたことがある。全く関心は無く、ホルモン療法と放射線治療の話をされて終わった。癌専門医が発癌したとしたら、彼らは抗癌剤を自らに、使用するのだろうか。代替療法を無視するのだろうか。世間一般に、癌治療の現状が少しずつ人口に膾炙して来ていることで、医学会がガン治療を見直す方向に進めば良いが、まず無理だろう。

 癌患者が出来る事は、自分の病気を客観的に見つめることだ。医者の意見は専門家のオピニオンとして尊重しても、治療の主体は自分自身にあるとの姿勢が、自らを救うと信じている。例え相手が医者であっても、自分の命を全て第三者に委ねる事は、この世に生を受けた自分自身に対する冒涜に思える。「広く学び、柔軟に思考し、実行することで、道は開ける」とは、2枚のDVDを見た結論である。

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