伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年11月14日: 癌患者にとっての一病息災 GP生

 自分の若い時代を振り返った時、寿命に限りがある事は分かっていても、この若さが、何時までも続くが如き感覚が勝っていた。だから、無茶が出来た。かっての自分のみならず、巷の若者達も同じ思いであろう。仙台での学生時代を考えても、身体不調や病の記憶がない。健康であった。生命力あふれる若さの賜物だ。「栄養管理」は辞書にはなかった。 50代、60代と加齢が進んでも、病気知らずの生活が続いた。寝る前の飲酒による肥満傾向は、節酒と散歩でコントロールが可能であったし、ハードな肉体労働も軽々とこなした。50代末に出合った分子栄養学は、食生活の改善を促し、健康に自信を持てる日常を約束した。肥満傾向はあるものの、無病であり、息災であることを信じて疑わなかった。 遥か以前から、重大な病が、静かに進行していた事など知る由もなかった。

 今年の5月、血尿が続いたことで泌尿器科の門をくぐった。血液検査〜生検までの様々な検査の結果、前立腺ガンであることが確定したのが、2カ月後であった。検査での結果を聞くたびに、覚悟を定め、最悪の結果に対する心構えはしていた。PSAの高値は前立腺肥大によるものであればと、微かに期待していたことも事実だ。生来、大病を経験したことのない自分にとって、前立腺ガンである現実を受け入れることに努力が必要であった。

 近藤誠医師の言う「ガンもどき」であれば、要観察で時を過ごせばよい。PSA値48、生検針12本の内、6本ヒットであれば、冷静に、要観察する自信は持てない。「ガンもどき」か否かは、時が立たなけれは結論が出ない。もし、「ガンもどき」で無かったら、時すでに遅しだ。医師との話し合いの結果、治療がスタートした。自分が一病を得たことに間違いはない。完治するか否かの保証はない。医者は一般論を話しても、個人の治療予想についての確定的な話はしない。同じ治療でも、個人差により結果が異なる事が多いからだ。

 「息災」とは、本来の意「仏の力で災害、病気を防ぎとめる事」から転じて、「健康で元気な事」の意味の方に使われるのが通例だ。人が病を得れば、治療の為に健康に留意し、身体に良いと思われる生活を送るから、一病は息災に通じるのだろう。70歳を過ぎた友人達の中で、無病息災はTa君唯一人だ。その他の友人達は、何らかの病を抱え、薬を飲んだり、通院したりしている。自分も、その仲間に加わった。 問題は、その一病の内容だ。如何なる治療によっても、完治はおろか、病の進行すら止められない病であれば、息災は遠くなる。ガンは、現代で最も厄介な病気の一つだ。検査の結果、医者から、「早期発見です」と言われても、その時点で腫瘍は10億のガン細胞の塊になっている。

 どの臓器での発ガンかは、運命の分かれ道となる。転移の有無は通常分からない。数個のガン細胞が他の臓器で増殖を始めても、現在の検査技術を以てして発見は不可能だ。手術によりガン細胞の切除に成功しても、手術の負荷による免疫力の急激な低下は、転移したガンの増殖を勢いづける。 中年以前の発ガンであれば、進行は早いし、先の長い人生を考えれば、極めて深刻な問題となろう。70歳を過ぎれば、ガンに限らず色々な病気が容赦なく襲ってくる。加齢による免疫力や体力全般の衰えは、病気や怪我に対する備えを低下させるからだ。ガンも一つの厄災に過ぎない。ガンによる寿命終焉が、他の要因に取って替る可能性が高いのが高齢者だ。ガンが完治できなくとも、上手に共存し、寿命を全う出来る可能性を有するのも、高齢者の特権だ。

 高齢者が一病を得た後、ダメージコントロールを上手に行う事は、他の病を遠ざける事にも繋がる。前立腺ガンを、新たな健康管理を考え直す契機にすれば、残された人生の息災に通じる筈だ。今回の、発ガン要因を深く考察することで、如何なる対処が可能かを考える多くの示唆を得られた。ガン確定以来、具体的な対処法の試行錯誤を続けている。 今までの食生活を見直すことから始めた。高タンパク、メガビタミンをベースにして、免疫力のアップを考えた。手始めに免疫ミルクを飲み始め、ビタミンCの増量を行った。合せて、定期的な鍼治療により泌尿器の活性化と疲労部位の回復を行った。直接、ガン細胞をアタック出来る、超高濃度ビタミンC点滴療法は、ホルモン療法中は対象外とした。PSA値の低下が要因が、どちらに因るものなのか判断できないからだ。

 最近の勉強会で二つの知見を得た。ヨーグルトの大量摂取による腸内免疫の活性化と、多量の野菜・果実ジュース摂取による細胞内のカリウム量の正常化だ。ヨーグルト中の乳酸菌は生菌でも死菌でも、腸管免疫を刺激し、NK細胞を始めとする免疫機能を活性化させることは、ガン患者にとっては朗報だ。早速、毎日400g以上を3回に分けて食べ始めた。 生野菜ジュースの大量製造は無理なので、市販の物を吟味して選択した。バナナ、豆乳、黄粉等、低ナトリウム、高カリウム食品も積極的に食べ始めた。同時に、免疫ミルクは止めにした。食品分析表により、常食のカロリー、タンパク質、カルシウム、ナトリウム、カリウム等の一日摂取量を計算し、K/Na比率を高める組み合わせを検討し実施している。 食塩、醤油、ソース、味噌等、Na含有の高い調味料の摂取減少に努力し、牛、豚肉は出来るだけ食べないようにしている。それでも、Naを完全にシャットすることは出来ない。野菜・果実を除き、自然食品にはNaが含まれている。加工調味食品のNa量は特に高い。乾燥果実・野菜を買う時、裏の成分表を良く読むようにしている。味付けに、少量の食塩が使われることが多いからだ。野菜を除いて、高カリウム食にカロリーが高いものが多いから、全体のバランスは要注意だ。

 食生活の転換を図ってから2ヶ月になる。体調は極めて良好だ。自分の前立腺ガンはホルモン療法により死滅し、縮小しつつある。当初、48あったPSA値は3ヶ月で0.11にまで低下した。医者は「順調に推移しているが、ホルモン療法だけで、ガンを完全に消滅させることは出来ない」と言っている。血尿も止まっている。尿切れも以前と変わらないレベルに戻っている。薬の副作用で顔が少し丸みを帯びたけれど。 ホルモン療法により、ガン細胞は死滅しつつあっても、肝機能を現わすGPTは上昇している。ガン治療が、他の臓器に負担をかけ、強いては免疫力の低下に繋がっていることを示している。抗ガン剤の連用で、ガン細胞は縮小したが、命を失った例に暇がない。抗ガン剤の服用は避けられないとの前提に立てば、抗ガン剤の副作用を低減させる食生活の改善に、積極的に取り組まなければならない。

 考えてみれば、前立腺ガン対策で始めた食事の改善が、糖尿病、高血圧、心筋梗塞等の成人病対策にもなっている。現在の方策がベストとは思ってはいない。新たな知見を得れば、熟慮して実行していくつもりだ。月一回の血液検査は、食生活の検討に役立っている。来年一月の放射線治療までが一区切りだ。その後は、放射線による副作用対策も考えなければならない。 ガン細胞増殖をコントロールする要因は、物理・化学の範疇に入る。ラットに対する実験ならいざ知らず、対象は自分の身体だ。人は心を有するが故、良かれと思うことを継続する時、理論や理屈だけで、律することが出来なくなることは多い。ガンの縮小と共存を考えた時でも、心の在り方は決定的意味を持つ。

 ガン患者は心のどこかに不安と恐怖を抱いているものだ。医者の一言一句に耳を傾けるのはその現れだ。医者は投薬を決めても、食生活に細かいアドバイスはしない。自分の場合、生活面の話は一切ない。末期ガン患者が、医者から見放された場合には、更に悲惨だ。だからこそ、自分の中心である、心の在り方が大切になる。自分が生きて来た集大成が、一病であるガンと対峙していく覚悟として問われている。 一病に真摯に対処することにより、間違いなく実存する守護霊、指導霊の助けが得られれば、息災が「仏の力で災害、病気を防ぎとめる」事に繋がると思う。この世に生を受けた自分が、責任を持たなければならないのは、唯一無二の肉体だ。心を磨く努力と肉体を慈しむ思いは、色心不二の通り、相互に作用を及ぼす。此の努力を続ける限り、自分を見守る諸霊が見えぬ力を及ぼし、期待する方向に進めるよう、後押ししてくれると信じている。

 自分がこの世に生を受けた目的は、未だ分からない。一生分からないかもしれない。しかし、自分の身体の健康を保ち、寿命を全うできるよう、努力だけは惜しんでならないと思っている。魂の乗り船が難破すれば、この世で出来る事が限られてしまうからだ。

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