伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年10月3日:本当に癌を消せるのか GP生

 永らく中断していた分子栄養学の勉強会が先日再会された。12年前に始まった時、30人以上居た会員も、現在、女性一人、男性2人に減少した。以前は、講師のId先生がホワイトボードに書きながら講義していたが、今は、ルノアールの4人がけのテーブルでの雑談形式だ。距離が縮まったお蔭で、ディスカッションが臨機応変に出来る事が最大のメリットだ。この日、来月のテーマとも関係がある、「あなたのがんを消すのはあなたです--渡邉勇四郎著」を読む課題を出された。さっそく取り寄せ、読み始めたが止められない。一気に読み終えた。このような経験は、平成9年に三石先生の「医学常識は嘘だらけ」以来だ。現在、自分が前立腺ガンの治療中であることも、間違いなく関係しているだろう。

 著者は自分と同い年の内科医だ。平成19年に前立腺ガンが発覚した。PSA値は900、腰椎とリンパに転移し、手術も放射線治療も不可で、残されたのはホルモン療法のみだ。ガンが転移し、三大療法での治療手段を失ったとき、人は代外療法として、免疫療法や超高濃度ビタミンC点滴療法を選択する。渡辺医師はゲルソン療法を選択し、ホルモン療法と同時にスタートした。

 自分の前立腺ガンは前立腺内部に留まり骨転移は無かった。それでも、PSA値は48だ。義弟は10でガンが発覚している。48は高値と思っていたが、900とは。もし、自分が渡辺医師と同じ状態で、前立腺ガンが発覚したとしたら、目の前は真っ白、暫く、思考力を失ったと思う。点滴された超高濃度ビタミンCは骨には届かない。免疫療法も効果が期待できない。ホルモン療法で延命を図るしか、対処法が考えられないからだ。しかも、効果は限定的だ。

 本では最初の症例として、渡辺医師は自身の前立腺ガン治療の経緯を数値で示し、詳細な分析を行っている。同病の身として、食い入るように読み入った。医師の900あったPSA値は、半年で12.5まで降下したが、翌月から上昇に転じた。此の時点で、ホルモン療法に対してガンが耐性を獲得し、効力を失ったことを示している。慈恵医大の医師は最大7年程度、効果があると言っていたが、前立腺に留まっているガンと、転移ガンとでは耐性を得る期間が異なるのだろうか。医師はゲルソン療法をさらに継続した。上昇し続けたPSA値は、半年後に降下に転じ、治療開始一年半後に正常値内で安定した。

 自分の場合、ホルモン療法開始後2ヶ月で、PSA値は48から0.26に急減した。医師には「ガン細胞は消滅し、縮小している」と言われた。その時は、深く考えなかったが、毎月の診察時に行う詳細な血液検査の結果を見ると、肝機能の良否を示すGPTが、ホルモン療法を始める前は19、1ヶ月後28、2ヶ月後37と上昇し、基準値の35を超えた。上昇理由は、ホルモン療法の薬物が肝臓に負荷をかけていると考えた。しかし、毎朝服用するカソデックスは80mgだし、月に一回皮下注射するゾラデックスは3.6mg、これは約一ヶ月かけて薬効を現わす。服用する薬はこれだけだ。GPT値をあれほど押し上げる事に、疑問を感じていた。

 渡辺医師はこの疑問を解消してくれた。「ホルモン療法でガン細胞が死滅することで、ガン細胞内の毒素が全身に回る。毒物の解毒は肝臓にしかできない。従って、急激な毒物負荷により、肝細胞が破壊されGPT 値が上昇する。」との解説だ。渡辺医師の場合2ヶ月で29から76に急上昇している。自分のガン細胞の絶対量が少ないことが、あの程度の上昇で留まっていたのだろう。自分の場合、前回のPSAが0.26だから、ガン細胞は激減している筈だ。次回のGPT値を見ればはっきり回答が出る。急激なガン細胞の消滅は、大量の毒素を全身にばらまき、間質肺炎、糖尿病、肝機能障害等を起こすそうだ。もし、薬物に依らず、食事療法でガンが消滅していくのであれば、ガンの死滅は穏やかな減衰曲線になり、分解産物の毒素産生量も限定的になろう。ゲルソン療法を始めとする食事療法は人体に優しい療法と言える。

 ゲルソン療法とは、ドイツの医師マックス・ゲルソンが1930年代に確立したガンの食事療法だ。世界中で多くの患者を救ってきた実績がある。ゲルソン医師は「ガンは全身の栄養障害、代謝障害により起こる病気で、これを正せばガンは消滅する」と考えた。ゲルソン療法での食生活の基本は、肉、魚,卵、牛乳は摂取せず、塩、砂糖、油脂は厳格に制限し、大量の野菜・果実ジュースを摂取することだ。アルコール、タバコ、コーヒー等の嗜好品は摂らない。ゲルソン療法の事は以前から承知はしていたが、何故、この療法によりガンが消滅するのかは、自分の勉強不足で分からなかった。

 渡辺医師は、細胞内のK-Naのバランスが崩れる事により、ガン発症の環境が整うと言う。細胞内ではKが多く、細胞外の血液、細胞間液はNaが多いことは良く知られている。細胞内外のK-Naにより、電位差が生じ、細胞膜を通して、物質の遣り取りがスムースに行われている。心筋ではこれらにCaが加わり、電位差により心臓の動きをコントロールしている。心電図に現れる電位差はこれ等電解質の細胞内外の出入りにより生じている。

 細胞内外で、これ等K-Naのバランスを保たれているのは、細胞膜に存在するNa−Kポンプの働きによる。高濃度のイオンは、低濃度部に移動するのが自然の摂理だ。細胞膜内外で自然に逆らったイオン移動には、エネルギーが必要になる。このポンプの動力源として、ミトコンドリア産生のATPが少なからず消費されている。

 日常の食生活で、塩分の摂取が多く、カリウムを多量に含む野菜、果物の摂取量が減少してくると、慢性的に細胞内のNa+が増加し、K+が減少する。Na過剰、K減少状態ではポンプは十分機能できないため、細胞内のK-Naバランスはさらに崩れる事になる。細胞内でK+が減少すると、酵素機能の低下を招き、細胞内の代謝活性が阻害される。放射線や活性酸素で傷ついたDNAの修復機能も衰えて、発生したガン細胞の増殖環境が整うことになる。

 ゲルソン療法に基ずく、厳格な減塩と野菜ジュースによる大量のK摂取は、60兆と言われる全細胞の電解質バランスをあるべき状態に戻すことになる。全身の細胞が正常なK-Naバランスを取り戻すと、ガン細胞が生存できる環境を失う。活性化した各種酵素がガン細胞をアトポーシスに追い込み、ガンが消滅する。これが、ゲルソン療法によるガン細胞消滅の理論だ。

 細胞内のK−Naバランスを回復させるためには、食品中のNa、Kの含有量を知る必要がある。渡辺医師は食品中のK/Na比を重視している。この値の高い食品が好ましいことになる。因みに、牛ロース6.50、牛乳3.0、サンマ2.5、卵0.92で小松菜13.1、カボチャ330、トマト115だ。牛豚魚には血管中の血漿に多量のNaが含有されている事が、K/Naが高い原因だ。ゲルソン療法では初期の数か月間は、肉、魚、卵、牛乳の摂取を厳禁している。

 渡辺医師自らが厳格なゲルソン療法を行うことで、転移した前立腺ガンを2年もかからず完全消滅させたことは、K-Naバランス説に説得力を持たせている。生活習慣病と呼ばれる病の多くは、体内のK-Naバランスを回復することで防止出来、患者の治癒が可能かもしれない。人体の有する自然治癒力を活性化させる基礎的な条件を付与することになるからだ。

 これ等の機能を発揮させるには、K-Naのバランスのみならず、タンパク質、ビタミン、ミネラル、不飽和脂肪酸等の摂取に手抜かりがあってはならない事は論を待たない。不飽和脂肪酸は細胞膜の柔軟性に決定的な意味を持つ。細胞膜が柔軟性を失えば、膜を通しての物質の出入りが阻害され、細胞内での代謝が妨げせれるからだ。ガン患者が飽和脂肪酸を含有する四足動物肉を忌避するのは当然だ。不飽和脂肪酸の欠如は、代謝を陰で支えている微小ホルモンの産生にも影響する。

 ゲルソン療法をさらに発展させたのが、済陽高穂医師の「がんが消える、食事の8原則」だ。ゲルソン療法は、始められたのが1930年代と言うことも有り、免疫に対する思考は全くない。ガンに限らず感染症全般に対しての免疫は極めて大事だ。人体には一日2000とも、5000とも言われるガン細胞が発生している。人体が呼吸する酸素の2%が活性酸素に替り、紫外線や自然界の放射線の影響もある。これ等のガン細胞はNK細胞を中心にした免疫システムにより消滅され、残されたガン細胞はアトポーシスにより消滅する。これ等のシステムが完璧に機能していれば、人体はガンから無縁でいられる。

 晩期ガンの場合、渡辺医師が行った様な厳格なゲルソン療法は第一の選択肢となろう。此のゲルソン療法を厳格に継続するには、相当の覚悟が必要だ。自分の前立腺ガンの治療を考えた時、そこまでの覚悟を持てない。済陽医師の食事療法はゲルソン療法に免疫力強化療法を加えている。ゲルソン医師が禁じているタマゴ、魚介類、ヨーグルト、玄米、大豆等を必須の食品に加えているのが特徴だ。

 バイオジェニックスと言う腸管免疫を高める説が、腸内細菌の世界的権威、光岡知足東大名誉教授によつて、提唱されている。摂取した乳酸菌は、死菌であっても生菌と同等の「整腸効果、感染防御、免疫賦活、抗腫瘍効果、高血圧抑制効果」があると言うものだ。生菌でも、死菌でも、菌体成分が小腸のバイエル板を刺激し、腸管免疫系に直接働く事で得られる効果だ。これは光岡先生の著書「人の健康は腸内細菌で決まる」に詳しい。

 自分は、光岡説を信じ、毎日ヨーグルトを400〜450g食べている。四足の肉はウェルッシュ菌を増殖させ、腸内細菌フローラを悪化させることもあり、出来るだけ避けている。牛豚肉の摂取は激減したが、Naが多いとはいえ、魚とタマゴを避けるわけにいかない。厳密なナトリウムカットが無理なら、総体的にK/Na比率を増加させようと考えた。人体に必要なタンパク質量は体重の1/1000だ。牛豚肉カットによるタンパク質摂取量の低下は、配合タンパクで補完している。

 毎食時に、野菜ジュースの大量摂取を試みている。渡辺医師は新鮮な野菜・果物をミキサーにかけた、自家製ジュースを飲んでいる。新鮮さがポイントだが、一日1リットル以上を自ら製造し、継続することは自信がない。市販の野菜ジュースでカリウム含有の高いものを選択し、不足するビタミンはサプリメントで補っている。イージーだが、継続が大事だと思っている。最近、スーパーでの買い物時に、包装に記載されたNa、Kの含有量に目が行く。

 今年いっぱいホルモン療法は継続する。ホルモン療法でガン全てを消すことは出来ない。毎日の食事を、済陽式をベースにして試行錯誤で改善していくつもりだ。現在の食事療法がどれ程の効果を発揮するかは分からない。この程度の療法でガンが消えるかどうかも分からない。Na摂取量の低下とK量の増加により、実施以前より体内のK-Naバランスが改善されるであろうことは信じたい。ヨーグルトの大量摂取の効果は、毎月の血液検査の白血球値の推移で確認できるはずだ。

 来年1月には、放射線治療が待っている。それまでは、ホルモン療法と食事療法の併用効果に期待したい。ホルモン療法への耐性が見られず、PSA値が安定的に低下してる事は、心強い思いでいる。

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