伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年9月10日: Youtubeとジャズの名盤 T.G.

 暇爺とホームページのデザインについてやり取りしていたら、Youtubeでジャズを聴いていると言う話が出た。彼はしばらく前からジャズに目覚め、いろいろ聴き始めているらしい。歳を取って趣味が広がるのはいいことだ。さっそく当方もYoutubeを検索してみた。驚いたことに大抵のものが出てくる。無いものは無いと言うくらいに。それも映像付きで音質も悪くない。便利な世の中になったものだ。

 彼がキース・ジャレットを聴いているというので探してみた。小生もCDを持っているスタンダードライブの中のThe Old Countryが見つかった。さっそく聴いてみる。
この拙文をお読みになってる向きは、下線を引いたタイトルをクリックしてみて下され。素敵な曲が流れますから。

 この曲は有名なサックス奏者キャノンボール・アダレイのお兄さん、トランペット奏者のナット・アダレイの作品である。作曲者自身の演奏はこうだ。K.ジャレットの哀愁を帯びたアレンジと違いハイテンポである。この曲の演奏で一番好きなのはレイ・ブライアントのピアノトリオである。これは探したが見つからなかったが、大森という日本のトランペッターと共演したものが見つかった。テンポも曲想もそっくりである。

 これに味を占めて、My Favorite(お気に入りですな)を探してみた。まずはDear Old Stockholm(懐かしのストックホルム)。スタンダードの定番です。それも名演中の名演、バド・パウエルのものが見つかった。モダンジャズピアノの元祖、神様である。晩年のパウエルは麻薬中毒とアル中に苦しんだ。このパリ時代の演奏も、酔っぱらっているのかロリっているのか、指がもつれている。それでも演奏は神技の域にある。

 続いてエディ・ヒギンストリオの演奏。パウエルのものとは違って録音もいいし、洒落た演奏である。でもパウエルのような切れ味、凄みはない。スタン・ゲッツとチェットベーカーの演奏は1983年にご当地ストックホルムのライブ演奏である。こんなものが聴けるのもToutubeならではだ。ポール・チェンバーズカルテットの演奏は共演のケニー・バレルのギターが心地よい。いずれも名演である。

 さらに続いて、Softly as, in a morning sunshine(朝日のようにさわやかに)。ジャズのスタンダードナンバーの三本指に入る曲だ。極めつけは何と言ってもMJQの演奏。この演奏は末期のMJQのライブ演奏である。「コンコルド」に収録されている超有名な初期の演奏に較べてあっさりしているが、何と言ってもミルト・ジャクソンやジョン・ルイスのライブ映像が見られる。ビブラフォンの神様ミルト・ジャクソンのタッチを斜め上から見るなんて初めての経験だ。ジョン・ルイスは大好きなピアニストの一人である。二人とももう亡くなってしまった。
 同じくウイントン・ケリーのトリオ演奏。いかにもスインギーなケリーらしいピアノタッチである。この曲はもともとミュージカル用に作られたタンゴだったそうだが、今はジャズ演奏の方が有名である。

 さらにさらに続いて、ジャック・ルーシェトリオのバッハ演奏。これはBMW850番のフーガだが、見事にジャズになっている。ルーシェはフランスのピアニストで、ほとんどバッハを弾いている。バッハはジャズとのマッチングが良く、いろいろなジャズメンが演奏するが、ルーシェが第一人者だ。最も好きなのは「恋人達」というアルバムの中のチェンバロ協奏曲第3番のアンダンテである。軽妙なピノのタッチが痺れる。探したがYputubeには見つからなかった。バッハものでは、MJQのジョンルイスがソロで弾いたプレリュードとフーガもいい。

 そもそもジャズにのめり込んだのはレイ・ブライアントのGolden Earrings(黄金の耳飾り)を聴いたのが手始めである。それまでに買ったのはオスカー・ピーターソンのLP1枚だけだが、それほど感興が湧かなかった。クラシック、それもモーツアルトとバッハ一点張りだった。レイブライアントはオスカー・ピーターソンに較べたら二流ピアニストだが、何かがフィットしたのだろう。ハンガリーの民謡で、彼以外誰も演奏しないマイナー曲である。この演奏は初期の若い頃もので録音も良くないが、なぜか耳に残る。30年後の新しい演奏はこうである。演奏も録音もより洗練されているが、やはりオリジナルには敵わない。そのレイブライアントも死んでしまった。

 こう書いてくると、我ながらセンチメンタルな選曲ばかりである。ジャズ愛好家なら必ず挙げるマイルス・デビスやコルトレーンやビルエバンスやハービー・ハンコッックが一枚も入っていない。本格派のジャズマニアには少女趣味と笑われそうだ。

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