伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年8月5日: 麻生発言と朝日の報道 T.G.

 今朝の産経新聞の「美しき勁き国へ」というコラムで、櫻井よしこ氏が朝日新聞の報道姿勢を強く非難している。彼女が司会した研究会で自民党の麻生氏が憲法改正について語った内容について、ワイマール憲法とナチスに触れた文言を意図的に歪曲し、あたかも自民党がナチスまがいの憲法改正をしようとしているように報道していることである。事実8月2日の朝日の社説を見ると、「「ある日気づいたら、ワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね」 普通に聞けば、ナチスの手法に学ぶべきだと言っているとしか受け止められない。」とさもヒトラー賛美のような曲解ぶりである。

 麻生氏この発言はすでにYouTubeなどにも全内容が報道されている。 それを聞けば、普通の日本語力のある人なら、朝日の言うようには聞こえない。誰でも「健全で冷静な憲法議論をすべき」と理解する。朝日の記事は発言全体を示さず、都合の良い部分だけの抜き書きなのだ。従軍慰安婦や靖国参拝もそうだが、この新聞はしばしばこの種の意図的ねつ造報道をする。いったいこの新聞は何をしたいのか。日本をどうしたいのか。憲法改正反対なら、真正面からそう言えばいい。政治家の揚げ足を取って何になるというのか。とは言いながら、この新聞のねつ造報道に騙される国民は多い。従軍慰安婦など、今やれっきとした国際問題になっている。今回もあちこちで波風が立っている。嘆かわしいことだ。

 麻生氏発言の全文はいろいろ書き起こされている。webにもたくさん載っている。それを最初から逐一読めば次のようである。

【第一段】
 「僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。」
 「そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。」

 要約すれば、「ワイマール憲法という世界で最も民主的な憲法の下でも、ヒトラーは生まれる。それが民主主義の危うさだ。政治を動かすのは憲法ではなく、国民の行動、見識、矜恃にかかっている」という意味である。矜恃という言葉に麻生氏の心情が伺える。

【第二段】
 「私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。」
 「この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。」

 要約すれば、「今の日本のおかれた状況は厳しい。政府もそれなりに頑張っている。戦前、戦後を知ってる世代や、生まれた時から不況にいる若者は、意識が高い。しかしバブル期にのうのうと暮らしてきた50代、60代は意識が低く頼りない。」と言っている。

【第三段】
 「しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。」
 「そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。」
 「ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。」

 要約すれば、「自民党の改憲草案は長い時間をかけて自由な議論の中から作り上げた。国民も憲法改正については感情的にならず、冷静な議論をして欲しい」と言うことだが、この中で“狂乱”と言う表現を使ったのは、護憲派の間の、現実を無視した熱狂的反対を指しているのだろう。

【第四段】
 「靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。」
 「僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。」

 ここでいきなり話が靖国の飛んだのは、憲法改正にしろ靖国参拝にしろ、静かに冷静にやるべきものなのに、マスコミが騒々しい報道をして問題を大きくしている。もう少し客観冷静な報道をしてくれと、マスコミに注文を付けたのだ。おそらく朝日はこれにカチンと来たのだろう。

【物議を醸した、発言の最終段】
 「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」
「わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪のなかで決めてほしくない。」

 要するに朝日新聞はこの最後の部分だけを取り上げて揚げ足を取っているのだ。確かに比喩としてはあまり出来が良くないが、「ヒトラーがやったあの手口は決して真似るな、国民が冷静にならないとああいうことが起きるぞ」という警告であることは紛れもない。話の全体の流れの中ではそうとしか聞こえない。どういう悪意を持ったらあのような欺瞞に満ちた報道が出来るのだろう。

 この比喩の拙いところは、マスコミの記者を含めて、ほとんどの日本人が、ワイマール憲法や、その下でヒットラーが政権を取った経緯を知らないことだ。知っていれば意味するところはたちどころに理解できるが、知らないと誤魔化される。今回も朝日やNHKの意図的ねつ造報道で多くの国民が騙されたことだろう。

 世界一民主主義的と言われたワイマール憲法下で、ヒトラーは選挙で選ばれ、権力を握り、憲法を無力化して戦争に突入した。そうなった原因は憲法ではなく国民の熱狂である。第一次大戦敗戦の屈辱を味わったドイツ国民は、ドイツ再建をヒトラーに期待し、熱狂のうちに全権を預けた。ヒトラーはワイマール憲法を無効化したが、憲法自体は戦後まで残っていた。国民の熱狂を煽ったのはマスコミである。選挙でヒトラーは100%近い得票率だったという。今の改憲派と護憲派の間に冷静な議論はない。あるのは朝日のようなリベラルマスコミに煽られた熱狂的で排他的で非現実的な護憲論である。今のままでは冷静な憲法議論は起こりえないだろう。麻生氏はそのことに苦言を呈したのだ。

 終戦の前日、昭和20年8月14日の朝日新聞朝刊の社説は「本土決戦」である。政府はすでにポツダム宣言受諾を伝えていたにもかかわらず、こういう風に国民を煽った。懲りない新聞である。

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