伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2013年7月30日: なぜ前立腺ガンなのかを考える。  GP生

 7月16日の日誌の続きである。 前立腺ガンの存在が明確となり治療が始まった。治療の目的はガン細胞の根絶にある。ガン細胞は人体にとって余計なものだし、人体活動の合目的性からも外れた存在だ。しかし、人体の一部には間違いない。人体にガン細胞が増殖するにはそれなりの環境条件があるはずだ。例え、局所に留まるガン巣を完全に除去できたとしても、このガンが増殖する身体条件が変わらなければ、再発の可能性を完全に否定はできない。これからの前立腺ガンとの永い付き合いを思うと、何故自分の体に発症したのかを知ることは大事と考える。

 先日も家人に言われた。「あなたは分子栄養学を勉強して、高タンパク、メガビタミンの食生活を10年以上実行してきたのに、何でガンなの?」と。自分が食生活に最大の関心を払い、実践してきた目的は、所謂、生活習慣病の発症防止にある。曰く、心筋梗塞、糖尿病、高血圧、脳卒中、動脈硬化、それにガンだ。

 細胞に異常を起こす要因の一つに放射線がある。自然界に存在する放射線や体内の放射性カリウムによる被曝等、平均で人は2.4msv/年の被曝をしていると言う。時間当たりにすれば0.27μsvに過ぎない。所が、X線やCT検査による絶対線量は小さいものの、ごく短時間での線量であることが問題だ。これが嫌で、日常の身体状況の観察のみを行い、老人健診を避けてきた。歳を取れば身体の些細な異常は避けられない。検査技術の進歩で、放っておける程度の疾患が見つけ出され、病人にされるのが嫌だったこともある。健康診断、人間ドック、ガンの早期発見が死亡率低下に必ずしも貢献していないとのデーターもある。

 今回の血尿に端を発した泌尿器の検査の過程で、前立腺以外の臓器が健全であることか判った。自分としては当然の事と思っている。では、何故前立腺にガンが発症したのか。これが問題だ。自分なりに回答を見つけないと、今回の治療で、今のガン細胞を消滅させたとしても、また同じ状態にならない保証がないからだ。その時は、年齢は更に加算されているから、寿命云々の問題ではないにしても、同じことを繰り返す愚は避けたい。

 人体を構成する臓器の機能は、DNAのコントロール下で、それぞれの合目的性に従って活動している。病気で長期入院すれば足の筋肉は衰えるし、歳を取れば髪の毛が抜けたり、メラニン色素減少で白髪になったりする。寝たっきりで、使用しない足の筋肉に栄養は不要だし、代謝機能の衰えた高齢者の生命維持に不要な髪毛の代謝には手を抜くからだ。脳細胞は刺激が無くなれば、ボケが始まる。女性の乳房だって、授乳に必要な若い時は張り切っていても、役目を終えた高齢者のそれは、しなびて垂れ下がる。

 所が、前立腺は高齢になって、その役割を終えても萎むのではなく肥大が続く。先日、医者に何故かと聞いたら、男性ホルモン-テストステロンが分泌され続ける事が関係しているとの答えだった。確かに、前立腺は男性ホルモンの影響下にある。理由は不明にしても、前立腺ガンは肥大に遠因がある様に思える。前立腺を構成する個々の細胞が大きくなる事と、細胞分裂により数が増加することで肥大するからだ。自分の場合2倍近くの大きさだ。

 発ガンはDNAの損傷で発症すると言われている。このほとんどの原因が活性酸素だ。放射線によるDNAの損傷には直接的なものもあるが、細胞内の水が放射線によりラジカルな酸素に変わり二次的に損傷することも多い。いずれにしても、損傷したDNAは目的物質を産生できないし、ガン抑制遺伝子が傷つけば発ガンを止められない。現役臓器は代謝による細胞の働きが激しいから、確率的にガン細胞の発症は数が多くなるはずだ。人体では1日に数千のガン細胞が発症している。これをNK細胞を中心とした免疫が片っ端から処理しているし、DNAには傷ついた部位を修復する機能も備わっている。これらガン防止機構が最大限機能しているのが、現役臓器だ。人体で最重要の臓器たる心臓にはガンがないのがその証拠だ。

 人体防衛機能を発揮させる武器弾薬は各種栄養源だ。DNAの修復にしろ、免疫の活性化にしろ、代謝に必要な物資が不足すれば機能を発揮できない。兵站を無視すれば勝てる戦も勝てなくなる。大東亜戦争の我が国が良い例だ。日常生活での栄養の質と量を如何すれば良いかは、分子栄養学が答えてくれる。栄養補給に不足があるか否かは、人体に問題が起こって初めて分かることになる。今回の各種検査で前立腺以外の臓器は問題無く正常であったことは、これ等への栄養補給に不足がなかった事を証明している。

 では何故、前立腺で問題が起きたのか。人体にとっては、前立腺はすでに不要と化した臓器だ。此の不要な臓器が、何故か細胞分裂を始め肥大化した。医者によれば、前立腺は20代から少しずつ肥大し始めるそうだ。肥大もガンも男性ホルモンによる刺激が関係していると言う。どの様なメカニズムにより肥大が生じるかは分からないし、何故ガン化するかも分からないそうだ。「前立腺が細胞分裂により肥大化するなら、DNAの損傷やエラーにより、正常ならざる細胞数も増えるであろう。現役臓器であれば免疫を始めとする防衛組織は動員されるが、前立腺は役目を終えた臓器だ。人体の合目的性から言って、防衛を手抜きされたのではないだろうか。」と勝手に推測した。通常臓器であれば除去されるガンの芽も前立腺では取り残され、少しずつ増殖を始める。

 前立腺ガンの増殖は、他の臓器のガンに比べて遅いのが特徴だ。不要な臓器だから、栄養供給自体が乏しいのかもしれない。人体の機能は現役優先だ。高齢になるに従い、代謝能力が衰えてくるら、ガンの増殖もさらに衰えることになる。前立腺ガンは自覚症状もないままに、転移性もなく前立腺内に留まり、たまたまPSA検査で発見される。だから、近藤誠先生の言う「がんもどき」のケースが多いのだろう。

 前立腺ガンも最初の芽が出てから、発見されるまで10年、20年を要するようだ。前立腺肥大が自覚されたり、PSA検査でガンが見つかるケースは初老期に多い。ならば、遡って発ガンは子造りから解放されて以降に、始まるのかもしれない。若い時旺盛だった性欲も次第に低下していく。勿論個人差は大きいけれど。前立腺の肥大を防止し、前立腺ガンを防ぐには、年齢に関係なく生涯現役を実行するのが最上の予防策かもしれない。生涯現役の亡き上原謙は、前立腺ガンとは縁が無かった筈だ。

 高齢者でも前立腺がそれほど肥大しなかったり、PSA値が正常内で一生を全うする人も多い。彼等と自分の違いは何かと言われれば、DNAと男性ホルモン産生の違いかもしれない。自分の場合、肥大は防げないとしても、抗酸化物質の摂取量が多かったら、ガンを防げたかも知れない。しかし、中年時代は分子栄養学に接していなかったし、現在の様な知見も無かった。抗酸化物質の何たるかも知らなかった。

 父親が歳を取って無理をし過ぎ、腎不全で人工透析を始めたのが、ちょうど今の自分の歳だ。父親の轍は踏むまいと考え行動したが、蛙の子は蛙だったようだ。歳を取ると、たとえベストの栄養条件を保てたとしても、心身に、かかりすぎた負荷をカバーできるものではない。過去10年を思い起こすと、心身への負担は大き過ぎたのかもしれない。過労とストレスが、前立腺の肥大とガン化を促進させた可能性はある。今回の前立腺ガンの発覚は、暴走気味の自分に対する天の配剤と受け止めている。あの世で父親は「俺の二の舞をしやがって、バカな息子だ」とあきれている事だろう。

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