【伝蔵荘日誌】

2013年4月8日: 「高齢者の血圧」談義 GP生

 先日、福島の山中に独り住むSa君からメールを貰った。
「昨日、村での健康診断がありました。血圧異常値、上が102・・・。 心臓に異常があるかどうか、血液検査の結果によっては精密検査が必要と脅されました。 異常に高いのも低いのも心配になるとは!。 常日頃血圧など測ってないのでびっくりです。」との内容で、年齢に対して、収縮期の血圧が低すぎるため医者が心配したようだ。 常日頃、健康で春夏秋冬、季節を問わず野山を駆け回っているSa君には青天の霹靂であった様だ。 これまで、血圧に関心が無かった彼の自覚を少し促す意味で、下記の返信をした。

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 血圧は一日の中で極端に変化します。 自分もリラックスした状態では120台ですが、ハードワークをした後では140近くになります。 血圧は交感神経と密接な関係にあります。午後からは最大になり、午前中は低位を示します。 一日の中で20ぐらいの差は幾らでもあります。 Sa君はマイウェイの生活ですから、心因性のストレスに無縁に近いと推察します。 ならば、リラックス状態では70歳台で100台は有りえます。 心配であれば電器店で血圧計を購入、起床から就寝までの2時間ごとの血圧を測定し、継時変化を把握してみて下さい。 健康管理の第一歩です。

 血圧計で測定した時、最初の血圧が一番高くなる傾向があります。 三回計ったとしたら、三回目が正解です。 何故か。 血圧は秒単位で変化すると言われています。 今まで立って動き回っていて、血圧を測るために座ったとします 。立っているときは人体の高いところまで血流を保つために、血圧は上がっています。 それが、座れば高さが低くなるので、立っているときの血圧を保つ必要が無くなり、必然的に低下します。

 但し、直ぐに安定するわけではなく、徐々に下がります。 従って、一回目の測定が一番高くなり、二回、三回と計るうちに、座った状態での安定血圧に落ちいてきます。 血圧は体の状態のみならず、精神状態、心の在り方でも、20,30は簡単に上下します。 深呼吸は心を安定させる行為ですが、10〜20回の深呼吸で交感神経優位から副交感神経優位に変わるため、血圧は低下します。 心的要因の血圧変化は個人差が極めて大きいのが特徴です。

 病院で血圧を測る時、真面な医者であれば最低2回は測定するはずです。 一回しか測定せず、基準値より高い値が出たら、高血圧と判断され、降圧剤を処方されることはよくあります。 ましてや、緊張していれば尚更です。 所謂「白衣高血圧」です。 また、春夏秋冬でも血圧は変わります。 自分は冬は夏より、上の血圧が平均的に10〜15高くなります。 年間を通して、色々な態での血圧を把握しておくことは、年寄りにとって大事な事と思っています。

 また、風呂上がりの状態は心身ともリラックスし、副交感神経優位で血管は緩み広がり、穏やかな血流になりますから、血圧は低下します。 冬場、脱衣所の暖房に手を抜くと、風呂から出た途端、裸の体全体が冷気に曝されます。 人体は放熱を防ぐため交感神経優位に瞬間的に反応し、血管を収縮させ、血圧は瞬時に上ります。 日頃、血管の栄養剤である、タンパク質、不飽和脂肪酸、ビタミンC等を十分接取していれば、血管の弾力性は保たれ、大事には至りません。 歳を取って、栄養に手抜かりがあれば、血管の弾力性は低下し、強度も低下していますから、突然の高圧に耐えられず、破れる事になります。 年寄りが脱衣所で、脳溢血で倒れるのはこのためです。 日頃、栄養を十分確保していたとしても、年寄りが極端な寒暖の変化に身体をさらすのは、命取りになる恐れがあります。 寒冷地に居住するSa君には、特に留意してください。

 自分も、10年以上前から午前中の定時と継時変化を定期的に測定し、健康管理に利用しています。 Sa君は独り身の生活故、健康管理に怠りなきよう願っています。
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 Sa君は直ぐに血圧計を購入した様だ。その後、「貴兄に言われて定期的に測定してます、風呂上がりなどは低く、又朝起きた時(寝たまま計ったりしてます)も低い。 一日に大きな変異があるのが分かりました。 深呼吸しただけで20〜30も下がるには驚いた。 1〜2月中で、−10℃以下の時には自宅で風呂に入るのを止めてます。 車で10分の所の温泉に行きます。 400円です。 東京の銭湯より安いでしょう。」との返信を貰った。

 中年を過ぎると誰しも自分の血圧に関心を持つようだ。 ましてや、70歳を過ぎた高齢者にとって無関心ではいられない。 先日も、家人が鍼治療の後、治療院の暖房のないトイレに入り、急激な温度変化により体調不良に陥った。 自分はたまたま所要の為、車で郊外を走っていた。 携帯へのSOSで直ちにUターンしたが、帰宅まで一時間近くを要した。 家人は自ら119番通報をし、掛かりつけの病院へ運ばれた。 家人の通常血圧は120〜130であるが、救急車の中での測定は190を超えていた。

 体調不良は、鍼で温まった体が急激な低温にさらされ、血管が収縮し血圧急上昇。 普段より不整脈が起きがちな心臓に、多大な負担がかかったためだ。 場合によっては、一発で命を失う危険すらあった。 自分の不在が後悔の種にならなかったのは、不幸中の幸いだった。 家人が日頃から、自身の体に合った栄養摂取に手抜かりがなかったことが、心臓が過負荷に耐え、血管構造が血圧急上昇に耐えられた結果と思っている。

 現在、正常血圧は上が100〜130、下が60〜80程度と言われている。 この範囲の人が最も病気にかかりにくく、長寿であったからだ。 何もせず、自然の状態でこの範囲を保てれば問題ないが、何処まで上がった時に降圧剤処方が必要になるかが問題となる。

 現在の基準130/90は2000年に変更された値だ。 それまでの基準は160/95で、これを超える場合には降圧剤を処方することになっていた。 この基準は人体の状況にかなった値に思える。 基準を変えたことで、新たに3000万人の高血圧患者が発生したと言う。 これによる薬剤費は当時で年間5000億円の増加となったそうだ。 策謀の臭いを感じる。降圧剤により血圧を下げる事で寿命が延びれば万々歳だが、実際はそうではないようだ。 脳卒中や心筋梗塞による死亡は減っても、其の他の死が増加しているからだ。

 特に、70歳以上の高齢者への降圧剤使用者と不使用者との間で、死亡率も合併症率も統計学的有意差がないのみならず、循環器以外の病気は、降圧剤使用者の方が重大病の発症が高い傾向にあるとのデーターもある。 医者は年齢に関係なく、現在の基準を機械的にあてはめ、オーバーすれば高血圧症と診断しがちだ。 自分の周辺でも、この手のマニュアル医師の手合いは多い。患者は処方された薬を自己判断で呑先ず捨てている例もある。 薬代の無駄だけで済めばともかく、高齢者が降圧剤を真面目に飲んだ結果、寿命が縮まるとしたら医学の役割から逸脱していることになる。 しかも、降圧剤を一生飲み続ける必要があると宣託する医者は多い。 生活習慣の指導では、薬屋も医者も金にはならないからかも知れない。 識者は「70歳以上の老人は、180/100以下なら降圧剤を飲む必要は無い」と喝破しているが、傾聴に値する。

 70歳近い家人の血圧は現在安定しているが、それでも上の血圧は変動が大きく、家庭内血圧は130〜150の間にある。 循環器病院に行けば間違いなく降圧剤を処方される値だ。 病院で血圧を測定すれば更に上昇する。しかも、一回だけの測定だ。 2000年の改正直後に医師は、患者の血圧が130を少々オーバーしても、直ちに降圧剤の処方はしなかったが、時の経過とともに130/90基準が絶対値と化している感がある。

 降圧剤もかつての利尿剤程度なら害も限られているが、現在日本で主流の「カルシュウム拮抗剤」となると、血管細胞のみならず全細胞のカルシュウムチャンネルに影響する。 免疫細胞の働きにも悪影響を与えるために、ガンを発症し易くなると推測されている。 安易に薬に頼らず、血管の弾力性と強靭性を衰えさせぬ食材の摂取と適度の運動が、血圧を安定させ、変動する血圧に対処する近道と思っている。

 午前中のスポーツジムは年寄りの天国だ。 自分はプールに入る前に血圧を三回測定し記録している。 プールでの水中歩行後に風呂に入り、暫くして血圧を測ることがある。 後の方の血圧は、上も下も10〜15低下している。 プール仲間の年寄りの血圧はほとんどの人が、上は120〜130の間にある。 全員70歳台だ。 推測だが、運動による足の筋肉量の低下防止が下半身の血流アップに貢献しているのかもしれない。 第二の心臓と言われる足の筋肉の老化は、血流の低下を招き、心臓の負担を増すことで血圧上昇を招くであろうからだ。

 我々高齢者は、医者の処置を鵜呑みにするのではなく、あくまで参考オピニオンとして考える必要があるだろう。 「自分の主治医は自分」であることを自覚することが、不用意な医療過誤を防止する手段の一つであると思っている。
 

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