【伝蔵荘日誌】

2013年2月13日: 岩盤浴と昼寝の効用 GP生

  現役を引退して時間が過ぎ、それなりに歳を取ってくると、毎日、意欲を持ってメリハリのある生活をすることは困難になる。 マンションの空部屋の改修やリホームをする時は、それなりに計画性と緊張感を以て望むことになるが、始終あっては欲しくない事だ。 住人からの苦情処理には、理屈抜きの迅速性が求められる。 これとて日常茶飯事の事ではない。 もし、毎日緊張感を以て望まざるを得ない事態の連続であれば、以前に比べ衰え気味の心身が保たない。 老化が進行するにつれ、日常生活にリズムを付け、活性化する努力は欠かせないことになる。

 何年か前から昼食後に横になり、所謂昼寝をする習慣がついた。 午前中、スポーツジムで一時間程度の水中歩行をして帰宅し、昼飯を終えた頃に、何となく疲れを感じたために始めた習慣である。 この時には、伊藤超短波製の高周波発生マットを使用していた。 幅40センチ、長さ70センチのマットを肩甲骨から腰の下に敷いて、30分程横になる。 高周波は皮膚直下の細胞を振動させて発熱させる。 いわば電気マッサージと考えればよい。 背中が暖かくなるのを感じ、疲労回復はするももの、睡眠を誘われる安息感迄には至らなかった。

 昨年の3月、スポーツジムの物品販売フロアーで岩盤浴マットの実演販売していた。 家人は、肩甲骨周辺の血流の悪さから、肩こりと首の付け根の痛みに悩まされることが多かった。 酷い場合には、痛みが顔面まで伝搬することがある。 岩盤マットに興味を覚え、水中歩行を終えた帰りに体験してみた。 このマットは50センチ×120センチの大きさで、小さい平らな石状の物質が一面に敷き詰められている。有機物を焼結し炭化させた特殊な石は、通電すると遠赤外線を発すると言う。 岩盤マットに横になると、プールで冷えた身体がみるみる暖かくなってきた。 遠赤外線は体の内部まで浸透する。暖かさだけでなく、気持ちまでリラックスして来た。

 この効能は家人にピッタリだと感じた。 価格は特別セールで安くなっていたものの、それでもかなりの高額であった。 如何するか悩んだ。 家人の為と思いその場で思い切って購入を決めた。 現物が届き、家人に効能と使用法を説明したが、黙って購入したのが悪かった様だ。 使わないと言う。 自分の為に購入したので無いので、岩盤マットが宙に浮いてしまった。 自分は身体の不調で治療を要する状態ではない。 リホーム等で多少無理をした時に、肩や腰に張りを感じる事は多い。 こんな時にはプールで歩く際に、患部をほぐす感覚で手足腰肩を動かし続けると、二、三日で不快感は解消した。 殆んどが、筋肉の凝りが原因だから、対処は容易だ。 従って、岩盤浴マットを日常的に使用する必要は無かったが、大枚を支払っての購入品だ。 如何に活用するかを考えた結果、昼寝の際に使用してみる事にした。

 結果は上々。 タイマー設定の最小時間が60分なので、此の時間にセットして仰向けに横たわる。 2,3分で暖かさを感じ始め、時間の経過と共に全身がポカポカして来る。 全身の血行が良くなっているのだろう。 プールで冷えた身体は、短時間の入浴だけでは十分に温まらない。 昼食後の安息時間に身体を横たえ温める事は、消化機能を高めることになる。 代謝に関わる各酵素の働きは、体温と比例関係にある。疲労物質の排出は進行を早めているだろう。 高周波マットは体の表面しか加温出来ないが、遠赤外線は深部まで浸透していく。 少し時間が経過するとウトウトし始まり、30分程度は睡眠状態となる。 疲労が回復すると、岩盤の熱さで目が覚める。 鏡を見ると、顔色が赤くなっているのがのが分かる。

 身体と心がすっきりし、身を横たえていると、色々な想念が頭を過ぎる。 マンション管理の仕事、やり残した帳簿記載の事、孫達の事、伝蔵荘日誌に投稿する原稿のテーマを如何するかも対象となる。 午後の時間を如何に過ごすかを考えるのもこの時間だ。 60分が過ぎ体を起こすと、リフレッシュしている自分が感じられる。水中歩行の疲労感は既に消滅している。 自分が横になっている時に、側で寝ていた三匹の犬達も、ボスの目覚めで一斉に部屋の中を走り回る。午後の新たな時間の始まりだ。 岩盤浴を昼寝に取り入れたのは成功したようだ。 一日の生活にメリハリが付き、リズム感が生じた。 昨年後半、貸室が次々と解約となり、改修やリホームが相次いだ。 業者工事を終えた後、細部に亘る細かい仕事が自分の担当となる。 エレベーターのない建物では、建築材料を担ぎ上げるのが最大の仕事だ。 6尺物の板材40枚を五階の部屋まで担ぎ上げた時は、流石に息が上がった。 ベランダに敷き詰める簀子の材料である。 こんな時でも、岩盤浴と昼寝は効力を発揮した。

 自分の父親は、60代後半から身体を酷使する無理が祟って、弱点たる腎臓を患い人工透析する羽目になった。 これを反面教師にして、自分は連続作業は2時間を限度としている。 最長でも午前中2時間、午後2時間にしている。 これ以上の作業は行わない。 午前中の作業が終わり、昼食後ベットに岩盤浴マットを敷き、何も考えず横になる。 昼に食した高タンパク食とビタミン、エネルギー源としての炭水化物、副食、牛乳等の消化吸収が効率良く始まるだろう。 目覚めた後も横になったまま、午後の仕事の段取りや工事方法を考える。 この一時は気持が最も前向きになる時間帯でもある。 午後の肉体労働開始でも、体力が復活していることを感じる。

 夏場の使用には少し工夫が必要だ。 部屋のエアコンを弱にし、身体にはタオルケットをかける。 岩盤マットの温度は「弱」に設定する。 冬場に設定する「強」はさすがにきつ過ぎる。 夏場は発汗やエアコンの影響で、身体が冷えている時が多い。 冷たい飲み物も、身体の内部から冷やすことになる。 夏場でも、腹部を冷やすことは病の基だ。 岩盤浴マットの遠赤外線は、自覚することのない夏場の疲労を回復してくれる。 マットから体を起こした時の爽快感から、その効果が推察された。

 岩盤浴マットが届いてから暫く後、突然タイマーランプが時間設定ポジション間を行ったり来たりし始めた。 正常に作動する時もあり、突然変化することもある。 メーカーに問い合わせたが、原因は判らず、現品を着払いで送ってくれと言う。 メーカーで調べたが異常無として戻って来た。 自宅で使用すると同じ現象が再発した。 メーカーに連絡すると、試供品を送ってきた。 同じ使用環境で、同じ現象が生じるかを確認してほしいとの事であった。 試供品は正常に作動した。 自分が購入した品は何処かに不具合があると思われ、最終的には新品交換で解決した。 この間の2ヶ月、精神衛生上好ましからざる時間を過ごした。 最終的には、タイマーコードと本体の接続部の異常と判明した。

 サラリーマンを54歳で引退し、一年中、毎日が日曜日の生活が始まった当初は、長年の習慣を体が覚えていて、現実生活に対応できなかった。 マンション管理の仕事はあるものの、仕事のペースはサラリーマンのリズムとは全く異なる。 仕方なく、地下の空き部屋を仕事場に改装し、電話やパソコンを設置した。 朝食が終わると、昼まで事務所と称する地下室に籠って過ごした。 毎日、事務仕事があるわけでない。 本を読んでいる時の方が多かった。 スポーツジムに通い始める10年以上前の事だ。 それでも、午前中の事務所通いは、日常感覚をサラリーマン時代から転換するのには役に立った。 現在この地下室は、自分の雑物置場と化している。 自分の死後、この雑物を息子が処分するのが大変だから、整理したほうが良いと家人から言われているが、何時になるのか分からない。

 退職して20年近くが経過すると、サラリーマン時代は遥か彼方の記憶となってしまった。 今度は、加齢の進行とともに、意欲、気力、体力の衰えが現実のものとなり、放置すれば、流れに任せたままの生活になってしまう。 しなければならない仕事も明日へと先送りすることも多くなる。 そんな折、長年の友人Ko君から、彼が通うスポーツジムを勧められ、7年前に入会した。 午前中のジム通いは間違いなく生活にリズムをもたらした。 無理のない水中歩行は、高齢者にとって筋力低下防止に最適な運動だ。 時間が経てば、ジム内で顔見知りも増え、気心の知れた友人も出来て会話を楽しむ事となる。今後、加齢の進行により、身体に対する水中歩行の負荷は増すことになろう。 岩盤浴マットの効力に期待する思いは大だ。

 岩盤浴マットは、10カ月の使用で心身の疲労回復に有効なことが証明された。 午前と午後の行動にメリハリが付く嬉しい副産物も生じた。 現在では、必要不可欠なアイテムとなっている。 今年の冬は、例年になく寒さが厳しい。 こんな中でも、岩盤浴を伴う昼寝により、体力の劣化は防げているように思える。 岩盤浴マットの耐用年数がどの位かは分からない。岩盤浴マットと自分との耐用年数比べになるかもしれない。
 

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