2012年8月26日: 企業と国家の盛衰 T.G. ![]() 昔のことを振り返って、思いつくことが幾つかある。 一つは管理職試験、いわゆる課長試験のことである。 売上が急激に伸び始めた昭和50年代初めに人事部が始めた。 大卒社員の急増で、すべての大学出を課長に出来なくなったのだ。 その試験を生意気盛りの係長だった頃に受けさせられた。 結果は見事に不合格。 課長なんてなって当たり前と自信満々、舐めてかかった若造社員は茫然自失。 後で上司が人事部に当たったところ、企業経理、労働法など筆記試験は満点に近かったが、論文試験が目も当てられない点数だったという。 お前はいったい何を書いているんだ、何様のつもりだと、推薦してくれれた上司にこっぴどく叱られた。 仕事に一家言持つようになった野心満々の若手社員は、経営改善提案のつもりだった。 若手の抜擢試験なのだから当然と、意気込んで書いた。 しかし読み方を変えれば一種の経営批判である。 いろいろ文章は取り繕っているが、早い話、俺にやらせてくれたらもっと上手くやると言う文意である。 ほとんど零点だったらしい。 採点には各部署から選ばれた部長クラスが当たったようだが、採点者がよほどカチンと来たのだろう。 小生意気な若造がなに言っているんだと。 こういうアホは課長にするなと。 ![]() 可愛がってくれた上司の努力で、例外的に2年後にもう一度受験資格が与えられた。 論文原稿は事前に上司が目を通し、何度も書き直しをさせられた。 少しでも経営批判につながる文言、修飾語、言い回しは徹底的にダメ出しされた。 意識して書いたつもりでも、つい悪い癖が出るらしい。 端から見ると経営批判を連想させるらしい。 文章を書くのは難しい。 頭を空っぽにして、思っていることと真反対の作り話を書くのは至難の業である。 上司には、添削した文章を丸暗記して、一字一句違えずそのまま書き写せと厳命された。 そうしないと、お前の悪い癖でつい筆が滑ると。 書いた論文は、将軍様を崇める北朝鮮国民のような、自分でも気恥ずかしいような社長礼賛文になった。 そのお陰でなんとか課長になれた。 この課長試験が与えた影響は大きい。 伸び盛りの若い社員に、出る杭は打たれると言う見せしめになった。 自分もいっぺんで懲りたが、同じように痛い目にあった社員も少なからずいただろう。 そう言うことにサラリーマンは敏感である。 以後若手、中堅社員の中で、表だっての提言や経営批判は影を潜めた。 世渡りが上手い、いわゆるゴマスリ上手が出世するようになった。 歴代社長がそうである。 仕事は出来ても角が立つ社員は、大方駆逐された。 課長試験で洗脳された社員の方からそれに迎合した。 自分の部下もそういう風に指導した。 それを何十年も続けたら、それが会社の体質になってしまった。 だからこの会社からスティーブジョブズもビルゲイツも生まれない。 新しい商品も事業も生まれない。 戦後日教組教育が日本の体質を決めたように、この管理職試験が会社の体質を決めた。 教育はつくづく恐ろしいものだ。 ![]() 新聞記事は言う。 「この10年あまり、業績悪化のたびに不採算事業や非中核事業を矢継ぎ早に切り離し、業績回復を目指してきた。 だが、その歩みは国内電機メーカーの凋落とも重なり、終わりの見えない縮小均衡を繰り返してきた。 その連鎖から抜け出すには、成長シナリオを描ける事業基盤を確立するほかない。」と。 資産の切り売りで何とか余命を保っているが、新しい事業には何も手を着けていないと言うことだ。 あのご自慢の本社ビルも、今では他人の手に渡っている。 「売り家と唐様で書く三代目」を地で行っている。 この我が社の状況は今の日本に酷似している。 経済も安全保障も、教育も社会保障も何もかも、ひたすら事を荒立てず、抜本対策を講じず、過去の遺産でその日暮らしをしている。 少しでも勇気があることを言う政治家は寄ってたかって潰される。 その縛りになっている根本原因は今の日本国憲法だろう。 我が社の社長書簡集と同じである。 憲法が国民の意識を固定化し、停滞させ、意欲を阻害し、すべての改革の障害になっている。 このご神託に少しでも触れると、物事は先に進まない。 安全保障はもちろんのこと、経済も教育も社会保障も何もかも。 神が与えた3分の1条項のために改正すら出来ない。 憲法が保障する権利の前にすべてが金縛り、社会保障も経済対策も動かない。 国民は併記された義務には目を向けない。 ただひたすら要求だけする。 そのため社会保障や国家債務は増え続けるばかり、一向に減る気配はない。 志を失った財務官僚は、異常な円高デフレをほったらかしにして何も手を打たない。 消費税を取ることしか考えない。 だから経済が衰退する。 外交はひたすら温順、“大人の態度”を貫き、他国に日本の意志を示さない。 領土を他国の大統領に侵害されたのに、総理大臣は「遺憾に思う」と、バカの一つ覚え。 肝心の国家安全保障そのものがアメリカの言いなり。 誰も自力防衛に意を向けない。 我が社と同じで、伸び盛りの頃はそれでも良かったが、縮小均衡に陥った今はもう通用しない。 政治世界のスティーブジョブズ、ビルゲイツの、一刻も早い出現が待たれる。 そうしないと、我が社より前に日本国が潰れる。 |