【伝蔵荘日誌】

2012年5月20日: コレステロール考 再び GP生

 先日、家人が左肩周辺に痺れを感じ、数日間断続的にこの状態が続いた。 素人目では原因は判らず、近くにある循環器内科の医院で検査を受けた。 最初は血液検査。 一週間後に頸動脈の超音波検査となった。手足の痺れは脳関連のトラブルにより発症することも有るし、神経系統の異常によっても引き起こされる。 逐次、可能性を絞り込むために、まず、循環器の検査を受けたのだが、これが厄介な結果をもたらした。

 血液検査の結果は中性脂肪が基準値の2倍以上の高値で、LDLは基準の140以下であった。 今までにない中性脂肪の値に驚き、数日後にかかりつけの病院で、再度血液検査を受けた。 その結果、中性脂肪は基準値内に収まっていたが、LDLが今度は基準値を30以上オーバーとなった。 超音波検査の結果は頸動脈にプラークがあり、全身の動脈も同じような状態と推測され、診断は動脈硬化症となった。 家人は医者から「タマゴは食べない。油は控えめに」と指示され、脂質異常治療薬のクレストールを処方された。  この薬は一生飲み続ける必要があるとまで言われた。

 コレステロールは肝臓を中心にして、色々な臓器で作られている。 クレストールは肝臓のみを標的にして、コレステロールの産生をコントロールする。 通常、コレステロールはブドウ糖や油脂類を原料として、10段階の酵素反応を経て作られている。 クレストールに限らず、この手の薬はコレステロール産生過程の初期段階で、酵素「HMG-CoA」の働きを阻害することで、それ以下の酵素反応をストップさせる。結果、コレステロールは産生されない。食べ物からのコレステロール摂取を制限し、肝臓での産生にストップをかければ、血中LDLは間違いなく劇的に低下する。

 これで、動脈硬化が解消し、健康レベルが上がれば目出度しなのだが、そうは問屋が卸さない。 肝臓でのコレステロール産生の過程で、コエンザイムQ10が作られる。 このビタミン様物質はミトコンドリア内でのエネルギー産生に不可欠だ。 抗酸化物質としての役割も大きい。 このCoQ10産生の手前で酵素反応が止まるから、CoQ10は作られない事になる。唯でさえ、加齢によりCoQ10の産生は低下している。老人が活力を失う要因の一つに数えられている程だ。 血中LDLを低下させるだけの為に、クレストールを飲めば、エネルギーレベルが低い老人の生活の質は間違いなく悪化する。

 家人の話を聞いて、どうしても納得できなかった自分は「医療相談」の名目で医者に会い、話を聞いた。医者は血液検査の結果と頸動脈超音波測定結果をディスプレーに映しながら「血中コレステロールの値だけで処方したのではない。 血管縦断面と横断面にある如くプラークが形成されている。 プラークの厚み1.9〜2.3mmの部位がある。1.1mm厚以上は動脈硬化と定義されている。」とのことで、血管内に薄っすらと異物がへばりついているのが目視された。 医者との遣り取りは、以下の通りだ。

質問---「家人の血圧はここ数年、最高圧で120台を維持している。動脈硬化であれば、血管内
     径減少と弾力性阻害から、血圧が高値になってもおかしくはないと思うが」
医者---「血圧は他の要因もあるから、血管の状態だけでは決まらない」
質問---「クレストールを飲み続ければ、プラークは減少するのか」
医者---「クレストールは血中のコレステロールを減らすことで、プラークの更なる形成を防ぐこと
     を目的としている。プラークが減少するか否かは成り行きを見ないと何とも言えない。」
質問---「プラークを減少させる手段、処方はあるのか」
医者---「それは無い、自然に減少するのを待つしかない。プラークを減らす薬はない」
質問---「家人の体力、体質を考えると、食は細く、現在でも日常生活はいっぱいいっぱいだ。ク
     レストールの副作用で、日常生活が出来なくなる可能性がある。その点を医者としてどう
     考えるか」
医者---「クレストールの処方を取り消す。コレステロール対策は食生活を含めた生活習慣の改
     善で対処してもらいたい」
質問---「ビタミンEやコリンリン脂質のレシチンがプラークやアロームを減少させる知見がある
     が、医者としての認識は?」
医者---「認識していない」

 医者が家人を動脈硬化症と判断したのは、頸動脈超音波診断の結果であるのは確かだ。 そして、家人に「血管年齢78歳、このままだと脳梗塞を起こす恐れがある。」として先の処方が示された。 本来の診断目的である「痺れ」に対しては一言の言及もなかった。家人にすれば、痺れどころではない。 青天の霹靂たる「動脈硬化症」で、医者の物言いもあって、最高のストレスにさらされる事となった。 しかも、処方された薬を飲めばどうなるかは認識している。 先の医者との遣り取りにある通り、LDLの産生抑制は動脈硬化に対する根本治療ではなく、間接治療に過ぎないにもかかわらず、自分との遣り取りにあった様な説明は家人にはしていない。この薬を飲まなかったら、脳梗塞まっしぐらの如き、物言いであったようだ。患者は普通これで震え上がり、医者の言に素直に従うだろう。

 血中コレステロールの値の大小とプラーク、ないしアテロームの因果関係は必ずしも明確ではない。細胞膜にあるコレステロールの受容体の活性度や、それ以前に血管細胞壁でLDLの構成物であるアポタンパクとコレステロールへの分解活性は血中LDLの濃度に影響する。また、コレステロールと脂肪酸の結合産物たるコレステロールエステルの存在はプラークやアテローム発生の要因になる。これ等は、血中IDLの濃度とは無関係だ。 更に、プラークにカルシュウムが付着すれば、血管の弾力性は更に低下する。 これ等に対応しての医学的アプローチは無い。

 ストレス耐性が極めて弱い家人は、血管の収縮により血圧は高くなりがちだ。所が、このような状況でも最高血圧は130を少し超える程度に収まっている。医者の言にある様に、確か血圧は色々な要因により変わるのは事実だが、プラークやアテロームにより血管内径が減少すれば、血流に対すり抵抗が大きくなり、血圧は上昇する。 通常、プラーク等が形成されれば、血管の弾力性は失われ、更に血圧は上昇するはずだ。これは物理学の法則だ。血圧と血管の状態は極めて密接な関係にあるのは紛れもない事実だ。 それにも拘らず、医者の説明は極めて歯切れが悪い。 家人の血圧を考えた時、プラークが形成されていても、血管の弾力性は極めて高いと言える。

 医者の判断はプラークが1.1mmをオーバーしていることが全てだ。マニュアルでそうなっている。 しかし、プラークを除去するマニュアルは無く、血中コレステロールを下げる以外に処方は無い。現代医学のお寒い現状だ。

 タマゴはさて置き、油を控えろという医者のアドバイスは無責任極まる。  油=コレステロールの発想だろう。 人間の細胞膜の重要な構成物質がリン脂質だ。 これが膜の流動性を維持している。リン脂質は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の双方で構成され、不飽和脂肪酸の存在は細胞膜流動性の要だ。細胞膜の流動性は細胞活性の命と言える。確か、動物油に多い飽和脂肪酸は過剰気味に存在するから、控えることは必要だ。けれど、不飽和脂肪酸で、且つ必須脂肪酸たるガマリノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸は人体のコントロールに必要なプロスタグランディンの原料だ。それぞれ、月見草油、卵黄、魚油に豊富だ。 これ等の摂取を怠れば、生体に異常を来す。細胞膜の不飽和脂肪酸は活性酸素により過酸化脂質を作りやすい。生体はこの不良品を正規の脂質と即座に入れ替える。従って、細胞膜近辺には必要十分な不飽和脂肪酸の存在が必要になる。何でもかんでも、油を控えればよいわけではない。しかし、医者は油を控えろとしか言わない。恐らく、マニュアルに従っての話で、十分な知見があるとは思えない。 医者との会話では「油とタマゴの是非」については、話さなかった。下手に議論すれば、家人が次回受診時に不愉快な思いをするだけだから。

 医者は食生活と生活習慣でと言うが、これでは通常は如何したら良いか判らない。家人と相談の上、以下の対策を実行することにした。
 先ずビタミンEの摂取を増やす。 今まで、一日300mmgのビタミンEの摂取を800mgとし、一日4回に分ける。血管壁へのスカベンジャーとしてのビタミンEの多量摂取効果はアメリカで多くの知見がある。ビタミンは少量摂取では、通常の効果しかないが、ある量を超えると治療効果が発揮されることは良く知られている。但し、個人差が大きいため、試行錯誤で効果発揮の閾値を見極める必要がある。 更に、ビタミンEはカルシュウム剥離も期待できる。
ただし、最初から大量摂取をするとプラークの大量剥離により、血管梗塞の恐れがあるから、1ヶ月を懸けて目的量に達するよう、計画的に実施する。ビタミンEの血中量増加は、活性酸素ヒドロキシラジカルに対して強力な抗酸化力となり、LDLや不飽和脂肪酸の酸化防止に貢献できる。更に、活性酸素スーパーオキサイドに対する抗酸化作用が期待できるビタミンCの摂取量増加だ。ビタミンEとの相乗効果での、血管内での抗酸化力を強化出来る。

 過剰コレステロールを肝臓で胆汁酸に換える際に、必要不可欠なビタミンはEとCだ。EとCの摂取増で胆汁酸への転換が進めば、過剰のLDLは減少することになる。 次いで、レシチン摂取の増量。レシチンは血液中のLDLを乳濁化して肝臓へ戻すことが期待できる。更に基本として、高タンパク食継続の必要性がある。 プラークの存在により動脈硬化症と診断されたにもかかわらず、安定した血圧を維持出来るのは、長年の高タンパク、メガビタミンを意識した食生活の賜物と理解している。これ等の対策により半年から、最大一年でプラークの減少を図る事が目標だ。

 医者との話では、3か月に一回の血液検査、年一度の頸動脈エコー検査が必要との事なので、検査結果を見ながら、上記物質の増減を考えるつもりだ。医者の真意を問いただした事、家庭での対策を検討したことで、家人の動脈硬化に対する恐怖感は幾分和らいた感じがする。 医者の無責任な言動は、患者に対して必要以上のストレスを与える。 生活習慣に由来する身体上のトラブルは、医者の対処療法での効果は限定的だし、場合によっては副作用で、別の病を発症する可能性すらある。 特に個人差の大きい高齢者の場合は、医者の平均的な処方に、全てを委ねる訳にはいかない。相談しても、加齢によるものだから仕方がない的にあしらわれる事すらある。 今回の家庭での対策の結果が出るのは一年先だ。 その間、手に入る知見を活用しつつ健康状態を見守ってゆきたい。  

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