【伝蔵荘日誌】

2012年5月14日: トヨタ86とスバルBRZ T.G.

 トヨタとスバルが久しぶりに本格的スポーツカーを発売した。 両社の共同開発だという。 人気が高く、注文しても納車まで1年かかると言われている。 主にデザインをトヨタが担当し、エンジン、シャーシーなど車の基本性能にかかわる部品と製造をスバルが担当したという。 どちらかと言えば技術よりデザイン、販売力重視のトヨタと、マニア向けの凝りに凝ったメカが売り物のスバルの組み合わせは、スポーツカーにとっていいとこ取りではある。  通称ハチロク(86)は昔のトヨタの高性能車カローラレビンの型式番号で、その復活という意味合いがある。 かってのトヨタオタクにはたまらないネーミングだろう。 発表時の試乗会で、豊田社長自らレーシングスーツを着て、果敢なドリフト走行を見せたと言うから気合いが入っている。 豊田氏は大トヨタのオーナー社長なのに、国際C級ライセンスをお持ちだという。

 ここしばらく若者の車離れが続いている。 今の若者は我々の頃に比べてそれほど車に魅力を感じていないらしい。 買うにしてもスタイルや乗り心地、操縦性は二の次で、家族や荷物を沢山積んで移動できる実用性に重きを置く。 うちの息子などもそうだが、彼らが選ぶ車は、室内空間を広くとったミニバンと言われるタイプがほとんどである。 何が悲しくてそんな車に乗るんだと思うような、デザイン無視のずんぐりむっくり車のオンパレードだ。 そんなわけで街中や販売店のショールームでスマートなセダンタイプの車をほとんど見かけなくなった。 ましてや実用性度外視の、ブイブイ走るだけが取り柄のスポーツカーなんてまず見向きもされない。 だから日本のメーカーはスポーツカーを作らなくなった。 日本製スポーツカーは、トヨタのMR−S、ホンダのS2000、NSX、日産フェアレディ、マツダのロードスター、RX−8あたりが最後である。 スバルはラリー向けにガチガチにチューンアップした超高性能のインプレッサWRXを出していたが、数年前にラリーから撤退し、販売をやめている。 今ではマツダのロードスターを除いて、日本製スポーツカーは新車では買えない。 中古車しか手に入らない。

 そう言う淋しい状況にあって、トヨタとスバルが本格的スポーツカーを売り出したのはめでたい限りである。 50年前の学生時代に車の免許を取った。 その頃の日本は至極貧乏で、一介のサラリーマンが車を持てるなんて夢にも思わなかった。 就職して2年目、日産が日本のカーブームの先駆けとなった初代サニーを売り出した。 安月給をはたいて買ったのが最初だが、夢にも思わなかったカーオーナーになれたわけだ。 その頃の若者がおおむねそうだったように、車が大好きで、いつかは2シーターのスポーツカーに乗り換えたいと思っていた。 死ぬまでに一度ポルシェに乗るのが夢だった。 そうは言ってもポルシェは安月給取りには手が届かない値段だし、家族が出来たらツードアスポーツカーと言うわけにも行かず、いまだに夢のままで終わっている。 定年に近づいた頃、仕事も子育ても終わって解放されたら、マツダの真っ赤なロードスターを買って、家人と二人であちこち旅行したいと思っていたが、それも夢で終わりそうだ。 もう2シーターで駆け回る元気はない。

   かっての車好きの一人として、さっそくなじみのスバルのショールームへ冷やかしに出かけてみた。 買わずとも、見るだけならただである。 暇はいくらもある。

 BRZとハチロクは、サスペンションの味付けと、インテリア、エクステリアの多少の違いを除いて、ほとんど同じスペックだそうである。 乗り心地と操縦性は微妙に異なるらしいが、大きさもスタイルも機能性能もほぼ同じなのだと言う。 車重1250キロと言う軽量ボディに、スバルお得意の2リットル200馬力の水平対向エンジンをフロントミッドシップに載せ、アイシンの6段変速マニュアルミッションを組み合わせ、フロントエンジン、リアドライブの絵に描いたようなFRスポーツカーである。 フロントパネル中央にレッドゾーン7300回転のタコメータ、その左に最高速度260キロ表示の速度計を配し、スポーツカーの雰囲気満々である。 実際は日本の速度規制で180キロ以上出せない作りになっているのだが、リミッターをはずせば260キロは出せるポテンシャルがあると言うことだろう。 事実車種のバリエーションには、エアコンやオーディオなど不要なものをすべて取り外して軽量化した、200万円の格安レーシング仕様車が設けてある。 ちょっといじくればそのままレースに使えると言うことだ。 本屋で立ち読みしたカー雑誌のテスト走行では、ゼロヨン加速(0−400m)15.2秒を出したと言う。 過給器を付けない排気量たかだか2リットルの自然吸気エンジンとしてはなかなかの数字である。 居住性に関してはポルシェなどと同じく2+2シーターで、狭い後部座席が設けてあるが、長距離ドライブには耐えられない。 あくまで基本は2ドア二人乗りスポーツカーなのだ。 だから子供がいる家族には向かない。

 久しぶりにスポーツカーを間近で見ていささか気分が高揚した。 もう少し若かったらと思わぬでもないが、もう歳だからこれを買う金も気力もない。 我が家の車はいまだに後部座席にチャイルドシートを二つ並べた、孫のお守り用の実用車である。 トヨタとスバルの狙いは小生のような車好きの中高年向けだそうで、若者はターゲットにしていないのだという。 若者はスポーツカーなどに見向きもしないからだ。 スマホで一人シコシコゲームやってる方がいいからだ。 それも淋しい話ではある。 今頃の若者がハチロクやBRZを好んで買って、意気揚々と助手席に彼女を乗せ、ドライブ帰りにラブホテルへしけ込むような、昔の元気な肉食系男子に立ち戻ったら、日本の少子化も少しは改善されるのではと思わぬでもない。

 オーイそこの若いの、もうちょっと頑張ってくれよ!  

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