【伝蔵荘日誌】

2012年4月25日: 医者とタマゴとコレステロール GP生

 福島県の山中に住むSa君から、最近の健康診断結果がメールで送られてきた。中性脂肪は極めて低く、HDLコレステロールは極めて高い、素晴らしい値であった。 肝機能の各数値も、異常なしで、酒好きのSa君には何よりの朗報だ。 但し、LDLコレステロール値が、所謂基準値140と比較して、少々高値であった。 医者からはタマゴを食べるなと指示されたとあった。 この手の医者は何処にでもいる。 ナントカの一つ覚えで、「コレステロール=タマゴ」の短絡思考で患者に接する。 これが正解であれば問題ないのだが、全くの見当外れとなると、患者にとっては、大事な栄養源の摂取を妨げられる事になる。ところが、当の医者は大真面目で、この方程式を信じきっているから始末が悪い。

 自分も「体に悪いからタマゴは食べない」と言う何人かの友人を知っている。多分、世の中には多くのタマゴ拒絶人がいる事だろう。 自分はここ10数年間、一日二個はタマゴを食している。 家人も似たような量である。自分は健診を受けていないので、数値は判らない。 家人のコレステロール値は基準値の前後にある。

 コレステロールが何故ここまで毛嫌いされるかは、動脈硬化や狭窄の原因の一つであるアテロームからコレステロールが見つかるからだ。 これは、コレステロールの罪ではない。 血管中の活性酸素の攻撃でコレステロールが攻撃され、過酸化脂質に替ると、これを排除するためマクロファージが登場する。 その結果、マクロファージの死骸と過酸化脂質が血管壁に堆積し、アテロームを造る。問題は活性酸素の発生及び存在であって、人体の抗酸化機構がこれを無力化すればコレステロールの多寡は大きな問題にはならないはずだが。 加齢と生活不規則習慣が活性酸素を跋扈させる。

 コレステロールは体内に100~150g存在する。 脳神経細胞、筋肉、結合組織や皮膚等に多く存在している。 人は一日に1~1.5gのコレステロールが必要とされ、体内、特に肝臓で70〜80%が産生され、残りは食事から摂っている。必要量のほとんどが体内で作られることは、コレステロールが人体にとっていかに重要な物質であるかを示している。 細胞膜安定の重要な構成物質であり、身体機能をコントロールするプロスタグランジン、副腎脂質ホルモン、男性・女性ホルモン等の産生原料だ。 免疫力もコレステロールなしには機能しないし、ストレスにも対抗できない。

 タマゴ中のコレステロールは比較的多く、全卵100g中に400〜500mg含まれているという。 タマゴを毎日3個づつ2週間食した人体負荷実験の結果でも、実験前後の検体のコレステロールは大きく変化していない。 タマゴを食しても、コレステロールは増加しないのだ。何故かには、幾つかの回答がある。 その一つは、タマゴにはミリスチン酸と言う名の脂肪酸が少ないことがある。 この酸は必要以上にコレステロールを合成させ、血流中に送り出し、且つ、余剰コレステロールが肝臓に戻るのを妨げる働きをする。 タマゴのように含有が少なければ、コレステロールのバランスが取りやすいことになる。しかし、この酸は牛乳や牛肉等に大量に含まれているから、同時に食すれば、タマゴの優位性は損なわれる。

 もう一つの大きな要因は人体のホメオスタシスだ。 コレステロールは多すぎても、少なすぎても人体にとって問題となるので、常に一定範囲にコントロールする恒常性だ。 食品からのコレステロール量が増加すれば、人体は肝臓での産生量を低減させる。 その結果、コレステロール全体量は増減しない事になる。

 タマゴにはコレステロールの動脈壁への沈着を妨げるリノール酸等の不飽和脂肪酸が多量に含まれている。更に、タマゴにはレシチンの含有が多い。 レシチンにはコリンが含まれており、コリンの乳化作用により動脈内壁にへばりついた酸化脂質をエマルジョン化して排出をする。 このコリンは脳内伝達物質「アセチルコリン」の原料にもなる。タマゴは動脈硬化を防ぐ、機能食品とも言える。

 タマゴは言うまでもなく、全ての必須アミノ酸を万遍なく含有する100点満点のタンパク質だ。 不足がちな、含硫アミノ酸を全て含む。 ビタミンB1、B2、リン、カルシュウムなどもバランスよく含む。何しろ、タマゴからヒヨコの個体が誕生した後には、殻しか残らないのだから。白身と黄身は全てヒヨコの個体に変身している。 タマゴが人にとって完全食品と言われる所以だ。

 但し、タマゴの食べ方には注意を要する。 卵黄には「ビオチン」と呼ばれるビタミンHがある。 このビタミンは脂質の代謝に働くもので、欠乏すると口や瞼に炎症を起こしたり、フケが多くなったりする。 一方卵白には「アビジン」というタンパク質がある。 生卵を食べると腸管で「ビオチン」と「アビジン」が結合して、不溶性の物質となってしまう。 腸内細菌も「ビオチン」を作っている。多量の生卵白は、根こそぎ「アビジン」と結合し、不溶性となって、トイレ直行となる。 生卵を大量に食すると気持ちが悪くなるのは「ビオチン」欠乏のためだ。

 さらに、卵白にある糖タンパクが、タンパク消化酵素「トリプシン」を阻害してタンパク質の吸収を妨げる。 折角、タマゴを食べてもタンパク質が消化されなければ何にもならない。俗に、生タマゴで精をつけると称して何個も同時に、飲む人かいる。 体内では精が付くどころではない、反対の事が起きていることになる。卵白は加熱によりタンパク質が変質し、前記の障害は解除されるし、原虫「トリコプラズマ」の不安も解消されることになる。半熟であれ、温泉タマゴであれ、タマゴを食するのは、加熱してからが大原則だ。

 タマゴを食べるとコレステロールが上昇すると言い出した張本人は、ロシアの病理学者アニチコワだ。 1913年、彼はウサギにタマゴを与える実験を行い、大動脈にコレステロールが沈積して動脈硬化を起こしたことを発表した。これを発端として、タマゴ= コレステロール神話が現在に至っているという。草食動物のウサギに動物性食品を与える実験結果を当時は誰も疑問を持たなかったのだろうか。 雑食性のネズミの実験では、当然コレステロールは上がらない。

 現在の医者は多忙を極めているから、専門外の事は敢て勉強しない。家人も、コレステロールが少々高かった時、複数の医者から「タマゴは控えて」と何回も忠告された。 全てマニュアル通りだ。 マニュアルからは新たな発想は生じないし、医者は古色蒼然たる教条を墨守して恥じるところがない。Sa君の検査をした医者も、「LDLが高いから、タマゴを食べないでください」と真顔で忠告する。心からの親切心だから始末が悪い。

 肝臓に戻されたコレステロールは胆汁酸になる。 胆汁酸は胆嚢に貯められ、十二指腸に送られて、脂質の消化分解に供される。 ビタミンE、Cの助けがなければ、コレステロールは胆汁酸に分解されない。 供給過剰なコレステロールも人体の恒常性故、分解される。 もし、ビタミンE、Cが不足すれば、血液中のLDLは上がることになる。 タバコ一本の喫煙はビタミンC50mgを消費するという。 スモーカーは心すべきだ。

 タマゴにコレステロールが多量に含まれているから、「タマゴを控えよう」との医者の短絡的発想は、日常の医療行為の多くに見られるものだ。 発熱には「解熱剤」、下痢をしたら「下痢止め」、便秘には「便秘薬」、血圧には「降圧剤」等々、全て対処療法だ。 人体にとって対処療法も必要なことも在る。  しかし、腕立て伏せのやり過ぎで、圧迫骨折と診断された70代知人男性の腰痛に対して、40日も鎮痛剤を処方し続けた整形外科医もいる。 胃薬を処方した上でだ。 整形外科的根本治療法がないためだ。この間、知人の体はどんどん悪化した。 家に来た時、状況を聞きその場で、日頃お世話なになっている整体師に電話をした。2週間の整体治療により痛みは半減し、日常生活が出来るようになった。もしあの時、彼が我が家に来なかったとしたら、医者の指示に従って鎮痛剤を飲み続けていただろう。 身体はボロボロになっていたはずだ。 寒気を覚える。

 人体の複雑な各種代謝を考えるとき、人体に現れる異常をどう理解すれば良いかは難しいことだ。 だから人は人体の専門家たる医者を頼り相談をすることになる。 確か、医者は臓器の専門家ではある。 「脳神経科」、「心臓外科」、「消化器系科」等々、臓器別に暇がない。 腹痛や下痢が止まらない時、内科の診断を受ければ、医者は内科的発想で薬を処方する。 これで一件落着になれば問題は無いのだが。 ストレスによる交感神経の継続的緊張は、消化器系を直撃する。 心療内科診療で初めて、根本治療が始まることになる。 症状としての臓器のトラブルは残るから、二つの診療科の掛け持ちだ。こんな例は、日常幾らでも経験することだ。 医者は人体部品の専門家であっても、人全体の専門家ではないと心得て接するに限る。

 鍼灸や整体術の優れた技量を発揮する療術師達に長年お世話になっている。 東洋医学を基本として、人体全体を捉え様とする視点は、現代医学の臓器専門医者とは異なるものだ。 人体全体を見据えた施術で、医者に見放された高齢者が何人も救われるのを見てきた。

 長寿者の食生活の調査では、必ずタマゴ常食が報告されている。 今後とも、自分は一日二個以上のタマゴを食していくつもりだ。 これは疫学調査の結果ではなく、10年以上続けてきた食生活によって、健康維持及びレベルアップに役立っていることを実感しているからだ。 三石先生の分子栄養学に啓発されて始めた食習慣は、間違ってはいなかったと思っている。 長寿はともかく、幾つになっても、自力で日常生活を続けたいからだ。
 

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