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2012年2月7日: 孫娘がもう小学1年生 T.G.

 表を通る豆腐屋のラッパの音で目が覚めた。30年来、毎日昼頃に自転車で売り歩く、近くの豆腐屋のラッパである。慌てて枕元の時計を見ると11時近い。昨夜は12時前にベッドに入ったから、夜中に一度小用で起きた以外、11時間爆睡したことになる。前日久しぶりに二人の孫を預かったので、疲れ果てたのだろう。いっときもじっとしていない孫達と終日過ごすと、幼い生命力が発するエネルギーに老人の精気が吸い取られるような感じがする。

 早いもので上の孫娘はもう6歳。この4月に小学校に上がる。ついこの前までおしめをして指しゃぶりをしていたというのに。こちらも歳を取るわけだ。ナチュラルウエーブの髪をポニーテールに結っていると、もうすっかり美少女である。ランドセルはすでに向こうのジジババに買ってもらったらしい。それならこちらは勉強机にしようかというと、要らないという。低学年のうちは、リビングで勉強させるのだという。我々の子供の頃もそうだった。自分一人の部屋などなかったから、居間のちゃぶ台で宿題をやった。統計によると、子供部屋で一人で勉強させるより成績が上がるらしい。さて入学祝いは何にしたものか。

 孫の小学校は今年4月に開校予定の真っさら、新品の小学校である。先日近くを通ったら、まだ建設中だった。ちゃんと間に合うのだろうかと、ジジババは余計な心配をする。でもこの学校が出来る前は、近くの小学生達は高速道路や鉄道や県道を陸橋で渡り、はるか遠くの学校まで歩いて行かなければならなかった。それがすぐ近く、子供の足で10分程度の距離に新しい小学校が出来る。大いに安心する。そうでなかったら、ジジババの心配がまた一つ増えたことだろう。あの小さな身体で、大きなランドセルを背負って、交通量の激しい道を小一時間も歩かされるなんて、考えただけで身がすくむ。

 息子夫婦が今の場所にマンションを買ったのは5年前、孫娘がまだ1歳の頃である。都心から延びる地下鉄のターミナル駅から歩いて5分のところである。通勤には便利だが、周辺にはろくな施設や建物もなく、駅前には更地が広がっていた。息子達が調べたら、5年後に近くに新しい小学校が出来る予定だと言う。電車一本で都心まで40分で通えるという条件に加え、このことがマンション購入の決め手になったようだ。 でも今の世の中、5年先のことは分からない。どうにか間に合ったと聞いて安堵する。いい歳をして、ジジババはいつになっても心配事が絶えない。

 5年経ったのに、駅前にはいまだあの頃と同じ更地が広がっている。新しくできたのは目抜き通りの四つ角のパチンコ屋ぐらいだ。このあたりは以前埼玉のチベットと呼ばれていて、畑と田んぼしかなかったのだが、無理やり地下鉄を引っ張ってきた。建設費の半分は地元自治体負担だが、予想ほど旅客が増えず、経営は真っ赤っかだという。5年経ってもパチンコ屋以外ろくな建物もない駅前砂漠を見ていると、さもありなん。さらに奥地まで延伸する計画だが、日本経済がこれほど衰退したらもう無理だろう。人口減で今以上に乗客が増えることもないし。息子達は始発駅から座っていけると喜んでいるが。

 我々夫婦が今住んでいるところへ引っ越してきたのは、同じく息子がまだ1歳の時だった。荒川下流域の農村地帯で、チベットとまではいかないが、畑と田んぼの中の新興住宅団地だった。周囲に同じような団地や建て売り住宅がが次々に出来て、教室が足りなくなった。だから息子の小学校も孫娘と同じような新設校だった。近所の4、5年生の上級生達は、それまで通っていた別の学校から集団で転校してきた。そのお兄ちゃん達と一緒に、小さな背中に大きなランドセルで集団登校をしていたのが懐かしく思い出される。少子化でいまこのあたりの幼稚園や小学校は生徒が足りなくなっているという。幼稚園は新入生の奪い合いだという。

 その息子が通った新設小学校も、もう30年経つ。今では良くない噂をたびたび聞かされる。学級崩壊で教室が荒れて授業にならないのだという。いっとき前、近くに住む何とか組の子弟が生徒だった時は、怖くて先生達も手が出せなかったらしい。中学高校ではなく小学校の話である。たかが小学生相手にだらしない先生方だ。三市合併で学校区域が広がったら、古くからある別の小学校への転校生が続出したという。それほど今の教育現場は荒れている。教えの庭も我が師の恩もへったくれもあったものではない。卒業生の息子も、母校への懐かしさが感じられないようである。

 先生方の学校行事における日の丸掲揚、国歌斉唱の際のマナーが問われているが、そんなこと以前の問題だ。親のしつけもあろうが、昔もしつけの悪い子供はいくらもいた。教育現場をこうまでひどくしたのは大方が日教組の先生方の責任だろう。時代遅れのイデオロギーや権利ばかり主張し、教える技術や教師としての情熱、使命感、責任感が欠如しているのだろう。結果を見ればそうとしか思えない。

 寮の後輩のTa君がボランティアで自宅近くの小学校で碁を教えている。彼の話では今の小学校は学級崩壊でどうしようもないと言う。4、5年生はまだ落ち着いている方だが、ひどいのは1、2年生だと言う。教えている最中も大声を上げて教室中をかけずり回り、じっと椅子に座っていられない。あれでは授業にならない。先生方はどうしているのだろうと言う。かって学級崩壊は高校の話だった。それが中学校に下がり、今では小学校低学年まで下がった。勉強しない無気力大学生と荒れる小学1年生。日本衰退の根本原因は間違いなくこのあたりにある。どうか孫の新しい小学校がそうなりませんように。ジジババの心配の種は尽きない。

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