伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2011年12月30日: 数十年ぶりのインフルエンザ T.G.

 四日前からインフルエンザに罹っている。数十年ぶりだが、実にきつい風邪だ。普通の風邪なら三日目には晩酌をやっているところだが、今回はそう言う気にならない。食欲もなく、酒どころではない。成人で39度以上の高熱を出す風邪はほとんどインフルエンザである。働き盛りの頃何度か経験があるが、風邪で二日以上会社を休んだ記憶がないから、一晩寝て治ったのだろうが、老化が進んだ今回はそうはいかない。今日で発症4日目で、すでに熱は下がっているが、まだ身体がきつい。これでは仕事には出て行けない。老化で回復力が低下しているのだろう。風邪が老人の命取り病であることを実感する。快食快飲快眠快便の日々に戻るのは、しばらく先になりそうだ。今年は最後まで良くない年だった。

 熱は下がったが、医者で処方されたタミフルのせいか胸気持ちが悪く、食欲がない。タミフルは数年前の新インフルエンザ流行で一躍有名になった、インフルエンザの特効薬である。念のためインターネットで調べてみたら、タミフルはいろいろ問題のありそうな薬である。どの説明書きにも副作用が数十項目びっしり書いてある。こんな危うげな薬は聞いたことがない。この副作用リストは一般の患者の目には触れないが、一度読んだらあまりに恐ろしげで、服用する気が起こらなくなる。一般的なものは下痢、吐き気、食欲不振だが、それ以外にも呼吸困難とか、出血性大腸炎とか、腎機能障害とか、やばそうなのが沢山ある。最も悪名高いのは、意識障害と異常行動である。何年か前の新インフルエンザ流行の時、ベットから抜け出して二階から飛び降りる患者があちこちで出て騒ぎになった。慌てた厚労省が一時処方を中止した。いまは高熱による発作との区別がつかないと言う理由で、「服用した患者を一人で放置しないこと」という注意書きだけで済まされている。

 タミフルは薬価が高いこともあって、欧米ではほとんど用いられていないと言う。1クール5日分で1万円近くする。世界の生産量の8割が日本で消費されている。異常と言うほかない。日本は皆保険制度があり、自己負担分が安いので、医者は見境無しに処方する。元来が高価な薬なので、健康保険圧迫の原因になっているだろう。タミフルが使われ出したのはおよそ10年前からだ。それまではインフルエンザは誰でも寝て治した。インフルエンザはあくまで風邪の一種である。寝ていれば自然治癒する病気なのだ。だから合併症のリスクがある老人や幼児以外、特段の理由がなければ処方すべきものとは思えない。

 インフルエンザウイルス自体を殺したり無害化する薬はない。タミフルは細菌を殺す抗生物質と違ってウイルスを殺す薬ではない。ウイルスを殺すのはあくまで身体に備わった免疫機能である。タミフルはウイルスを細胞内に閉じこめて、その他の部位への拡大を阻害し、それによって症状を緩和する。それだけの薬効である。「二日の発熱を1日に短縮する」と言うのが売りである。1日早く楽になるだけの話である。劇症が長く続く新型インフルエンザ以外は特効薬と言うほどのものではない。1日で熱を下げて仕事に出て、ウイルスをばらまいていれば世話はない。

 それやこれやあって、1日分飲んだだけで昨夜から飲むのをやめている。そのせいか今朝は少し食欲が戻った。タミフルの処方は決まっていて、病状にかかわらず必ず5日分出され、すべて飲みきるように言われる。細菌を殺す目的の抗生物質と違って、途中でやめることの問題がいまいち分からない。発症後48時間以内の服用開始が原則で、「これ以降の有効性については裏付けがなく、既に増殖したウィルスへの効果は報告されていない。 」とある。熱が下がってから飲んでも意味がないと言うことだろう。小生の場合、発症三日目ですでに熱は下がっていたが、身体かきついので念のため医者へ行った。検査したらA型インフルとわかり、タミフルを処方された。すでに丸60時間経過しているし、熱も下がっているのだから、意味がないことになる。それでも右から左に5日分処方され、必ず全部飲みきるように言われた。なぜ飲みきらなければならないか、飲みきらないとどうなるか、理由の説明はない。ご神託である。

 飲みきる理由の一つとして、耐性ウイルスの問題があるようだ。残存ウイルスにタミフル耐性が出来て、それに感染するとタミフルが効かないと言う問題である。しかし、調査によれば5日服用者の1割から耐性ウイルスが発見されているそうで、飲みきる根拠としては薄弱である。その上、耐性ウイルスはMRSAのような恐ろしいものではなく、普通のウイルスが弱毒化したもので、タミフルが効かなくても寝ていれば治るのだ。

 タミフル処方が少ない欧米では、何故か60〜90%の患者がタミフル耐性ウイルスだそうで、これもタミフルを多用しない理由の一つになっているようだ。日本の医者は例外なく「副作用がきつくても我慢して5日分前部飲め」と要求するようだが、症状を緩和する目的の薬が、病気のきつさより副作用の方がきついのでは意味がない。インフルは高齢者以外特段の難病ではなく、寝ていれば治る病気なのだ。タミフル処方に関する日本医学会の常識を疑いたくなる。

 抗インフル薬はタミフル以外にもリレンザなど数種類あるが、何故か日本の医者は西も東もタミフル一辺倒。ほかの薬は滅多に処方しないようだ。もう一つの有名な抗ウイルス剤リレンザは、耐性ウイルスの問題がないという。それなのにとにかくタミフルである。リレンザは飲み薬でなく吸飲するタイプなので使い勝手が悪いのだとも言われる。タミフルはスイスのロシュ社が開発し、日本では中外製薬が発売元になっている。多分数年前の新型インフルエンザ騒ぎの時に仕入れた膨大な備蓄が沢山残っているのだろう。それの棚卸しをしているのに違いない。でもこれは新インフルエンザ流行時のパンデミッックに備えた非常用ストックであって、あるから使えばいいと言うものではないはずだ。どうも製薬会社と厚労省と医学会の、いつもながらの癒着の臭いがする。

 インフルエンザに感染したのは、発症の三日前に孫娘の幼稚園の音楽会を見に行ったことが原因だろう。公会堂のホールには子供達と大勢のパパママ、ジジババが詰めかけていた。近頃こんな人混みの中に入ったことがない。家人も一緒だったが、幸いにもなぜか彼女だけはぴんぴんしている。一向に発症しそうもない。今は寝室を別にしているが、最初の二晩は高熱を出して咳き込む小生と一緒の部屋に寝ていた。それでも移らない。日頃いろいろなサプリで免疫力を付けているからだと威張っている。馬鹿にしないで小生も見倣おうかなと思い始めている。

  

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