【伝蔵荘日誌】

2011年11月6日: ギリシャの喜劇 T.G.

 ギリシャが大騒ぎになっている。 一国が破綻の瀬戸際に追い込まれているのだから、普通ならまさしく悲劇だろうが、これはどう見ても喜劇だ。

 ギリシャは巨額の財政赤字で、積もり積もった国の借金、国債償還が難しくなった。 このままでは1年以内にデフォルト、つまり国家の破産が避けられない。 EU加盟国のギリシャ経済が破綻すると、貸し込んでいるヨーロッパの銀行が軒並み経営破綻する。 統一通貨ユーロもおかしくなる。 そうなると連鎖的にスペインやイタリアのような債務国も危うくなり、EUが破綻しかねない。 ヨーロッパ発の世界恐慌にも至りかねない。 慌てたドイツとフランスが何とかしようと乗り出した。 ギリシャに緊急資金援助し、その上債務の半分を棒引きにすると言う救済策をまとめ、他の加盟国や銀行を説得した。 共倒れが怖いので、彼らも渋々飲んだ。 後はギリシャがうんと言うだけ。 それなのに、アーそれなのに、ギリシャ国民はこの救済策を蹴飛ばした。 EUはにっちもさっちも行かなくなった。 ニースで開かれたG20では、ギリシャのパパンドレウ首相とEU各国首脳が非難悪口の応酬。 居酒屋の口論のような状態が続いている。

 例えればこうだ。 借金で首が回らなくなり、夜逃げ寸前のところに借金取りがやってきて、「とりあえず借金の半分はチャラにしてやる。 金も貸してやる。 その代わりこれからは無駄遣いせず、地道に暮らせ」と有り難いお言葉。 「これぞ世の助け。 神様仏様。 有り難や、有り難や。 渡る世間に鬼はない。 以後真面目に暮らします。」と、しおらしく言うのが当たり前だ。 ドイツのメルケルもフランスのサルコジも、世界中がそう思った。 ところがどっこい、ギリシャ国民は一筋縄ではいかなかった。 逆に「お前ら何様のつもりだ。 でかい面するな。 そもそも金は借りる方より貸す方が悪い。 借金棒引きするからつましく暮らせだと。 アホ抜かすな。 俺らは今まで通り好き勝手に暮らすぜ。」と啖呵を切った。 借金取りの方が慌てて、何とか言うことを聞いてくれと、土下座して頼み込んでいる。 まるで漫画だ。

 これだけでも十分に喜劇だが、ギリシャという国はそれに輪をかけておかしな国だ。  浮世離れしている。 まともな国とは思えない。 メルケルとサルコジの救済案に対し、ギリシャのパパンドレウ首相が、突然「自分の一存では決められない。 国民投票にかける」と言い出した。 あまりに国民の反発が強かったからだ。 いやしくも議会制民主主義の国の首相が、自国の財政問題を自ら決断せず、国民に決めてもらうなんてお笑いぐさの大喜劇である。 これには世界中がずっこけた。 でもギリシャ世論の70%はこの救済案に反対だから、やる前に結果は見えている。 間違いなく蹴飛ばすと。 そうなればギリシャの破綻は火を見るより明らか。 つられてEUも破綻する。 ギリシャに貸し込んでいるヨーロッパの銀行は軒並み経営破綻に陥り、その先は世界大恐慌。 このニュースが駆けめぐったら、途端に世界中の株価が下がり、ドルとユーロが下がった。 当然のことながら円は上がった。(泣けてくるね!) メルケルもサルコジも、オバマも野田も、世界中が頭を抱え込んだ。 窮鼠猫を噛むと言うか、尻尾が犬を振り回している。

 その後ババンドウレ首相はこの馬鹿げた思いつきの国民投票案を撤回したそうだが、ギリシャ国民の反発は依然として根強く、辞任は避けられないと言われている。 思いつきを軽々しく口にして、国政を大混乱に陥れた首相は他にもいる。 深く考えもせず、「普天間は最低でも県外」とかっこよく口走り、舌の根も乾かぬうちに「海兵隊の抑止力の意味がやっとわかった」などといとも簡単に前言を翻した、我らがルーピー総理である。 ギリシャの破綻が避けられないように、もう普天間問題は永久に解決しないだろう。 日本の国家安全保障は立ち行かないだろう。 胡錦涛と将軍様がほくそ笑んでいる。 ババンドウレとルーピー鳩山は実によく似ている。 三代続く政治家のお金持ちのオボッチャマで、二人とも祖父と父親が首相を務めている。 スポーツ選手と政治家の二代目三代目は例外なく駄目男という、絵に描いたような見本である。

 それにしてもギリシャという国はおかしな国だ。 そもそも国民が浪費好きの怠け者だから借金がかさんだ。 平均的労働者は、朝から昼まで働いて、後は働かない。 ランチに2時間かけ、その後は昼寝、つまりシェスタ。 それが終わると後はベッドに入るまで娯楽とディナーを楽しむ。 羨ましい限りです。 国民の25%、4人に一人が公務員で、平均よりはるかに高給を取っている。 徴税システムがちゃんとしていないので、税収は見込みの30%しか取れない。 脱税はスポーツと同じで、市民はあれこれ脱税テクニックを自慢し合う。 プール付きの豪邸から固定資産税を取ろうとすると、プールを覆いで隠してしまう。 徴税対象のプール付き豪邸は350戸しかないが、衛星写真で見ると1万3千軒もあるという。 人口は日本の10分の1、1千万人強しかいないから、金持ちの比率は日本よりはるかに高い。 田園調布も芦屋も真っ青だ。

 その上ポルシェの保有率が世界一で、そのローン残高が8000億円だという。 今回の追加融資と同額である。 腐敗も横行していて、つい最近まで領収書発行義務がなかったから、いくら収入があるか掴めない。 だから税金も取れない。 国が潰れそうなのに、国民は税金を納めず、高い給料と年金をもらい、甘い生活を送っている。 いくら国が潰れようと、給料や年金が下がり、税金が増える救済案なんて、受け入れるつもりはさらさらない。 いい度胸と馬鹿にしてはいけない。 そう言う脳天気国民は他にもいる。 隣に軍事大国、中国北朝鮮があるのに、「米軍はグアムに出て行け。 沖縄に基地はいらない。 だけど自主国防も集団的自衛権も真っ平ご免だ。 平和憲法万歳!」などと、いつまでたっても寝言を言っているどこかの国と同じである。

 ギリシャは国民が怠け者だから国の借金が増えた。 日本の借金はそれをはるかに上回る。 ギリシャの28倍、1024兆円にも達する。 GDPの212%もある。 ギリシャと同じように、近い将来のデフォルトが囁かれている。 ギリシャと違い日本国民は世界一勤勉で働き者である。 それなのに何故こうなったか? 原因は、政治家と官僚が馬鹿だったからだ。 いくら考えてもそれ以外の理由を思いつかない。 この点はギリシャと同じである。 返せないほどの借金を毎年20年間も続ければ、こうなることは足し算引き算しかできない小学生でも分かる。 1980年代の日本の国債残高は100兆円もなかった。 それから20年で10倍に増えた。 小沢一郎が自民党の幹事長だった頃、アメリカにおだてられ、と言うか脅され、10年間で公共事業430兆円の大盤振る舞いをした。 すべて借金である。  いまだに返せていない。 こんな愚かなことを可能にしたのは、無責任で垂れ流し大好きの財務省(その頃は大蔵省)官僚の後押しがあったからだ。

 彼らは今の民主党政権になっても、借金依存のバラマキ政治を見て見ぬふり。 止めようともしない。 それどころかかえって煽っている。 どんどん膨れあがる毎年の概算要求書を見れば分かる。 足りなければ増税すればいいと、頭の悪いドジョウ総理をたぶらかしている。 消費税を10%に上げても税収は10兆円しか増えない。 国債残高を考えれば焼け石に水である。 それどころかこのデフレ時代に増税などしたら、景気が冷え込み、税収が落ちるのは経済の常識である。 デフレと不景気を戦争で解決した例はあるが、増税で建て直した国は古今東西一つもない。

 しからば東大法学部出の頭のいいはずの役人どもが、なぜそういう馬鹿を続けるのか。 理由はいたって簡単で、彼ら財務官僚は税金取ることと好き勝手に使うことが三度の飯より好きな連中の集まりだからだ。 彼らは税金さえ取れて好き勝手に使えれば、日本がどうなろうと構わない。 税金取ることと使いまくることが自己目的化している。 戦争大好き人間の集まりだった戦前の陸軍省、海軍省と同じである。 陸軍と海軍の官僚どもは、日本国がどうなろうとお構いなしに、戦争すべき理由を次々に考え出した。 湯水のごとく金を使って戦争をした。 挙げ句に日本を潰した。 戦前の陸軍省と海軍省に代わって、戦後日本は増税大好き、国債発行大好き人間の役人どもに潰されるだろう。 第三の敗戦を迎えるだろう。 戦前と同じく、政治家は彼らの操り人形に過ぎない。 日本は民主主義国家にあらず、世界に冠たる官僚主義国家である。 ギリシャが喜劇なら、さしずめ日本は悲劇だ。
  

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