【伝蔵荘日誌】

2011年8月14日: サッカー、松田選手の死 GP生

 かつて横浜Fマリノスで活躍し、2002年ワールドカップ日韓大会でベスト16入りに貢献した松田直樹選手が練習中に倒れ、数日後死去した。 34歳の若さだ。 死因は急性心筋梗塞であるという。 今年の初めに、メディカルチェックを受けており、異常がないことは確認されていた。

 専門家は「心臓冠動脈に血栓ができて血流が止められた。 夏場の激しい運動による脱水状態が重症化させたのではないか。」とテレビで解説していた。 血液がドロドロになると血小板が凝集しやすくなり、血栓となるとのことであった。発汗で血液中の水分が減少して、血液の流動性が損なわれ凝固するのであれば、当日練習をしていたほかの選手の何人かが同じ症状になってもおかしくない。倒れたのは松田選手一人。 血栓性心筋梗塞発症の必要条件は分かるにしても、十分条件がテレビ解説では良く判らなかった。

 心筋梗塞の発症因子を調べてみたら、沢山ある。「喫煙、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、ストレス、肥満、血液透析、高ホモシスティン血症」等だ。 これ等の要因より、血栓を含む冠動脈閉塞が生じるという。高ホモシスティン血症は遺伝子欠損による病気だし、血液透析は 一般要因でないから、こでは除外する。高血圧は血管に繰り返し圧力が加えられることにより、血管壁が厚く、硬化され弾力性を失う。 松田選手が高血圧症であるとは思えない。 他の発症因子の共通要因は活性酸素が疑われる。

 喫煙は煙の中に過酸化水素を含み、肺から吸収され全身をめぐることになる。この活性酸素は比較的安定しているが、鉄イオンに出会うと、最強の活性酸素「ヒドロキシラジカル」に変身する。もしも、血流中の赤血球が活性酸素で破壊されたとしたら、ヘモグロビン中の鉄イオンが血流に入ることになる。 冠動脈で両者が出会えば、ヒドロキシラジカルにより、冠動脈壁が酸化され炎症を起こす。 人体はこれに対処するため、マクロファージ等の免疫が働いたり、血小板の凝集や繊維素フィブリンの止血作用で修復する。但し、修復部は血栓となる。プロのアスリートたる松田選手は喫煙はないだろう。

 コレステロールは活性酸素によりアテロームを作る主犯として目の敵にされてきた。 一般的には、コレステロールが基準値を少々オーバーしても、医師はスタチン剤を処方する。 肥満と共に松田選手には関係のないことだと思う。

 糖尿病は万病の元としてよく知られている。高血糖状態では非酵素的に発生する糖化蛋白が生成過程で、活性酸素を発生させる。 また、LDLコレステロールが糖化されたり、糖化蛋白と結合したりする。 これ等が、動脈硬化の原因たるアテローム形成に貢献するそうだ。 松田選手が糖尿病であるはずがないので、これも無関係だ。

 可能性の高い原因は、ストレス要因だ。 炎天下の激しい運動は人体にとって、大きなストレス要因となる。 プロのアスリートであるからこそ、激しい運動により、通常に比べ体内に取り込まれる酸素量は増大するはずだ。 一般的に、呼吸酸素の2%程度が細胞内で活性酸素となると言われている。 激しい運動時に、活性酸素発生量は急激に増加する。 血管の内皮細胞で発生した活性酸素が細胞膜を破壊したとすれば、これを修復するため、凝結作用やマクロファージ等の働きで、血栓が出来てもおかしくない。 同時に血管内で赤血球が破壊されれば、血栓は更に大きくなる。ストレスに対抗するため、副腎等で抗ストレスホルモンが産生される。これ等ホルモンの産生時にも、使用後の分解時にも活性酸素が発生する。

 人体は活性酸素に対抗するため、抗酸化酵素を大量に産生する。産生量は20代をピークに、加齢とともに減少する。 30代半ばではかなり低下していると思われる。 ちなみに、60代では最盛期の60%以下だ。痛風の基として毛嫌いされる尿酸も血液中では強力な抗酸化物質として作用する。食物由来のビタミンCやビタミンEも、抗酸化物質として援軍となる。

 松田選手の場合、単に脱水状態だけでなく、何らかの理由で急激に発生した活性酸素に対抗すべき抗酸化物質の総量が足りなかったのではないかと推測する。しかし、推察はあくまで推察に過ぎない。練習中の沢山の選手の中で、如何なるプロセスで、松田選手だけが冠動脈血栓生成に至ったか、本当の事は神のみぞ知ることだ。

 プロのアスリートとは全く異なる我々高齢者にとっても、松田選手の今回の事故は他人事ではない。 健康に良いからと、激しい運動に勤しむ人は多い。皇居一周ジョギングや井の頭池一周ジョギングに精を出す高齢者をよく見かける。ジョギングの教祖と呼ばれたジェームス・フィックスと呼ばれた52歳のアメリカ人は、ジョギング中に心筋梗塞で急死している。 朝早くのジョギングやゴルフでの急死が多いようだ。 活性酸素はまさにサイレントキラーと呼ぶのにふさわしい。

 自分の山の仲間も皆元気で、今だに山歩きをしている。 どんなにゆっくり歩いても、山歩きは身体に負担のかかる運動の部類だ。 当然体内での活性酸素の発生量も多くなる。 事前に、食事やサプリでそれなりの対策をしていれば別だが、伝蔵荘でのアルコール過多の食事では、翌日の山歩きは危険であると心配している。 今まで事故が起きていないのは幸いなのだが。高齢者にとって、汗はかかない、ハアハア息をしない程度の有酸素運動が一番だ。朝飯前の散歩はやらないほうが良い。 空腹時の運動は百害あって一利なしだ。気温条件も要チェック事項だ。

 我々高齢者には、些か長い残余の人生を過ごさなければならない。 体をチューブだらけにしてベットに横たわっていたり、車椅子で介護されたりするより、自力で生活を楽しむことの方が良いに決まっている。 元気で体力がある人ほど、歳をとっても無理をしがちだ。 萎縮する必要は無いが、年寄りのセオリーを守りたいものだ。

 現在、多くの人達が心配している放射線対策は、煎じ詰めれば活性酸素対策に尽きる。 DNAが放射線に直撃されるより、細胞内の水と接触するほうが遥かに確率が高いからだ。 放射線が水と出会えば水分子を分解して、活性酸素を発生させる。 細胞内に抗酸化物資が大量にあれば、発生した活性酸素を直ちに無害化できる。高齢者にとって抗酸化物質の積極的摂取は健康維持の必要条件の一つだ。

 亡くなった松田選手は直情径行の熱血児で、サッカー小僧のまま大人になったと形容されている。 彼はサッカーに全人生を注いていた様だ。 健康管理は食事を含めて意を注いていた様だが、思い込んだら突っ込んでいく性格は、気付かぬうちに身体に負担を掛けがちだ。 体力に自信があれば、本人は負担と感る事は少ない。そんな性格も急死の遠因になっているのかもしれない。まだまだ、好きなサッカーを続けることが出来る年齢だ。 好漢の急逝を惜しむ。
  

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