【伝蔵荘日誌】

2011年8月10日: 菅直人の脱原発 T.G.

 先週会社の同期の仲間8人と伝蔵荘でゴルフをやった。 夜一杯飲みながら、今話題の脱原発宣言の話になった。 このメンバーは以前から基本的に民主党支持者が多い。 最近はさすがに批判的になっているが、それでも今回の福島の惨状を見せられて、脱原発には大方が賛意を示す。 中でもOt君など、脱原発一点で菅直人全面支持だと言う。 菅以外には出来ないから、選挙では彼に投票するという。 Ob君は今も変わらぬ熱烈な民主党支持者である。 脱原発はもちろん、菅首相のやることなすことすべて賛成である。 いったい全体菅のどこが悪いのかと、いまだに意気軒昂である。 原発を止めても電気は足りているじゃないか。 だから菅の脱原発は全面的に正しい。 あんな危ない原発は即刻廃止しろと、Ot君以上に過激である。 

 でもねOb君。 今電気が足りているのは民主党政府が中国政府も真っ青な独裁政権まがいのことをやって、無理やり電気を止めているからだよ。 企業やオフィスに強制的に15%の節電をさせているからだよ。 日本企業の生産能力を15%下げさせているからだよ。 違反すると1時間100万円罰金取られるんだよ。 Ob君も含めて、大方の人がそのことを忘れて、原発がなくても電気は足りていると錯覚している。 しかしそれは大間違いです。 こんな無理が来年も再来年も、そのまた次の年も続けられるわけがない。 この世界大不況の折、日本経済は沈没します。 そうさせないためにも、とりあえず安全対策を施して、今ある原発は動かさねばならない。 それなのに菅も民主党政府も寄ってたかって原発を止めさせる。 あいつら国のことをどう考えているのか! 何も考えていない? 多分そんなことだろう。

 「脱原発」という言い方は実に曖昧である。 「今すぐにやめる」から、「将来いつの日かやめる」まで、時間幅がめちゃめちゃ長い。 この両者は似ているようで、本質的にまったく意味が違う。 採るべき対策も違う。 将来が10年後か50年後かでも同じだ。 国のエネルギー政策としてはまったく別の話になる。 もともとウラニウム自体が希少資源であって、石油と同じく今世紀中に枯渇するのだという。 だから放っておいてもやがては世界中が脱原発になる。 だから時間軸を示さない脱原発はまったく無意味。 お経の文句と同じである。 

 脱原発が、「原発が危険なことがよく分かった。 こんなものにいつまでも頼るわけにはいかない。 出来るだけ早急に他のエネルギーに転換し、時間をかけて廃止の方向に持っていこう。 それまでの間も電力は必要なので、現存する原発に安全対策を講じて動かし、その間に新たなエネルギー政策を立案、推進しよう」、と言う意味なら理解できる。 菅嫌いの小生も賛成である。 個人的見解であろうとなかろうと、少なくとも総理大臣が口にするなら、そう言う意味合いでなければならない。 国家の方針と対策を明示しなければいけない。 危ないからやめると、だだっ子のようなことを言ってはいけない。 総理大臣はアジテーターや舌先三寸の市民活動家とは違う。 何と言っても日本国の最高責任者なのだ。 しかしながら菅直人の脱原発宣言はそう言う重みと内容がない。 おそらく根拠も無しに気分で言っているのだろう。 実にたちの悪い総理大臣だ。

 原発は危険だと言うが、今回の千年に一度の、未曾有の大地震に遭っても、原発そのものは壊れなかった。 設計通り正常に運転停止した。 福島は地震で壊れたのでなく、直後の津波で電源が壊れ、冷却システムが動かなくなったからだ。 原子炉や格納容器そのものはまったく無事だったのだ。 もし非常用のジーゼル発電機が高台に設置してあり、循環冷却を続けられたら、何事もなかった。 3号機の水素爆発も起こらなかったし、4号機の燃料プールも無事だった。 より震源に近い女川原発でも、震度8の激震にもかかわらず原子炉は無傷。 設計通り整斉と停止している。 検査を済ませればいつでも運転再開できる状態にある。 日本の原発は頑丈なのだ。

 だから菅首相のなすべきは、見通しのない脱原発を言ったり、恫喝で浜岡原発を止めさせたりすることではなく、何はさておき今ある日本中の原発54基に至急予備電源と冷却システムを装備させることではないか。 そうすれば、一万年に一度はともかく、千年に一度の地震津波が来ても耐えられることは福島と女川が証明している。 原発の運転は続けられる。 あれから5ヶ月。 誰一人としてそれを言い出さないのが不思議である。 福島の後始末に比べたら、はるかに容易だし、効果は大だし、費用もかからない。 1基100億円として5000億円もあれば足りる。 国民はひとまず枕を高くして寝られる。 何故そうしないのだろう? なすべき事をせず、人気取りのために軽々しく脱原発を口にする政治家は地獄へ堕ちろ!

 それにしてもこれだけ危険な構造物に、命綱である冷却システムと電源が1系統だけしかなかったのは驚きだ。 信じられない。 コンピュータシステムではこんなお粗末は考えられない。 重要な部分は二重化が鉄則。 駆け出しプログラマでも知っているイロハのイの字である。 斑目とか、日本の原子力専門家と称する連中は馬鹿しかいないのか。 いったい東大の原子力工学科は何を教えていたのか。 こんな馬鹿どもに国家の安全を預けていたのかと思うと、今さらながら背筋が寒くなる。 個人的には安全対策を施せば今の原発はしばらく使えそうに思えるが、こういう馬鹿どもには任せる気がしない。 また同じ事をやらかすだろう。 この点は菅直人とまったく同意見である。

 原発の危うさ地震や津波ではなく、使用済み核燃料と廃炉で大量に吐き出される高濃度放射性物質の始末にある。 一歩間違えたらそこら中にチェルノブイリが出来する。 そのことは福島で痛いほど勉強した。 今回の福島原発だって、本当に危険で難しいのは今とりあえずの目標にしている常温冷却が済んだ後である。 燃料プールに溜まった使用済み核燃料と、原子炉内でメルトダウンした燃料は広島原発の何千倍という量である。 これを未来永劫冷やし続けなければならない。 一度でも冷却が止まれば、福島の4号機と同じ運命になる。 核燃料は露出し、自ら発する高熱でメルトダウンし、手がつけられなくなる。 日本には再処理工場やフィンランドのオンカロのような最終処分場はない。  廃炉にした原発の近くに保管し、未来永劫冷やし続けなければならない。 福島の4号機だけでこれほど大変なのに、そう言う災厄の種が日本各地に54カ所もある。 考えただけで気が遠くなる。 やはり原発はやめたほうがいい。 問題はいつまでにどうやってやめるかだ。 誰かちゃんとした総理大臣が出てきてくれ!

  

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