【伝蔵荘日誌】

2011年7月25日: 中国人は利口なのか馬鹿なのか? T.G.

 中国ご自慢の高速鉄道で、かねてから予想されていた大事故が起きた。 中国浙江省温州市付近で23日午後8時半すぎ、杭州発の高速鉄道車両が衝突脱線、車両2両が高架橋から転落し、少なくとも35人が死亡、200人以上が重軽傷という。 どうやら落雷で停止していた列車に別の列車が追突した事が原因らしい。 鉄道では考えられない、あるまじき事故である。 高速鉄道技術で日本、ドイツ、フランスを上回ったと喧伝し、世界中に売り込みをかけ、国民を鼓舞していた胡錦涛政権にとっては大打撃だろう。

 そもそも昔から鉄道の運行管理は、一定の区間内に他の列車を入れないのが世界共通の鉄則である。 昔、と言ってもつい50年ほど前の事だが、まだ電化も電子化もされていなかった頃の鉄道には、衝突を避けるための通票というのがあって、駅ごとに駅員と運転手が輪っかのようなものを手渡ししていた。 これを持たない列車はその区間に入れない。 通票は区間ごとに一つしかないので、衝突は起こりえない。 今の最新式高速鉄道も原理は同じである。 輪っかか電子的信号かの違いだけである。 にもかかわらず、中国の最新式高速鉄道は、区間内に列車がいるにもかかわらず、他の列車を入れてしまった。 別の報道によれば、衝突した後続列車は時刻表としては先に通過するはずだったと言うから聞いて呆れる。 普通の鉄道でもこんな馬鹿なことはあり得ない。 、鉄道として実にお粗末な、恥ずかしい限りの事故である。 ちなみに日本の新幹線では同様の事故を避けるために何重にも安全策が取られている。 始まって以来50年、衝突はおろかそれに類するトラブルは一度も起きていない。

 JR東海の葛西敬之会長はかねてから中国への新幹線技術売り込みに一貫して反対してきた。 理由は中国による技術盗用と安全性軽視にある。 これに対し中国側は不快感を示し、もはや中国の鉄道技術は新幹線を上回っている。 日本にとやかく言われる筋合いはないと言い続けてきた。 しかし現実は葛西会長の言うとおりになった。 新幹線からパクッた技術を独自技術と称し、日米欧で特許申請し、その不完全なくそ真似技術を外国に売り込み、挙げ句に衝突事故を起こした。

 そもそも新幹線技術の粋は車両そのものにあるわけはなく、線路を含むトータルな運行管理システムにある。 高速車両を作ることはそれほど難しくはない。 強力なモータを載せればいい。 そこそこの技術さえあれば、300キロでも400キロでも容易に出せる。 肝心なのはそれを安全に運行できるかどうかである。 中国はそのことをいくら説明されても分からない。 とにかく速ければいいと思っているから車両技術だけ取り入れた。 高速列車を10分間隔で走らせて、50年間一度も大事故を起こさない新幹線の運行システムは取り入れなかった。 運行を支える信号システムは日仏独技術のいいとこ取り、まぜこぜだという。 それを独自開発と称している。 そんな危なっかしいシステムの上で高速列車を走らせ、日本の新幹線より100キロも速いと自慢していたのだ。 こうなると中国人は利口なのか馬鹿なのか分からなくなる。

 車両は見よう見まねで何とかコピーは作れるだろう。 しかし複雑精緻な運行管理システムは一朝一夕には真似られない。 ましてや作れない。 新幹線技術を真似るなら、車両より運行管理システムを真似るべきだが、そう言う発想は中国にはない。 今後も同じようなトラブルが頻発するだろう。 日本の鉄道は明治初期にイギリスから導入された。 だからイギリス本国とは違う植民地規格の狭軌ゲージを押しつけられた。 機関車も当初はイギリス製だった。 長年かけてその技術を習得し、それに磨きに磨きをかけ、百年かかって広軌ゲージの新幹線を創った。 もはやイギリスの真似ではなく、日本の独自技術だが、そのことを日本は声高には言わない。 言う必要もない。 言わずとも世界中が理解している。 そう言う当たり前のことが中国には出来ない。

 この愚かさは、何に使うつもりかよく分からないが、今中国海軍がシャカリキになっている空母建造も同じである。 空母というものは単体では機能しない。 搭載する戦闘機と熟練パイロット、潜水艦やイージス艦、補給艦など数十隻の護衛艦隊、レーダーや防御システム、それらを一体化して統合運用する指揮システム等が伴って初めて成り立つ。。 だから一隻の空母には数兆円の費用がかかる。 いくら今の中国が金持ちだと言っても、簡単に出来る話ではない。 ロシアの中古空母を買ってきて、戦闘機を載せれば済むという単純な話ではないのだ。 高速鉄道を同じく、それが中国人には理解できない。 中国海軍研究の権威、バーナード・コール米国防大学教授は次のように言っている。 「中国海軍は空母を支える輸送船や給油艦が不足している。 空母自体、米軍の空母のような防御や攻撃の能力を有していない。 中国側がそんな無力な空母を多数造れば、他の兵器に回る資源が減るため、私はなかばユー モアを交え、『どうぞ、多数の空母の建設を』と提唱したい。」と。

 台北の故宮博物院に行くと、おびただしい宝物が展示されている。 毛沢東に追われた国民党の蒋介石が、北京の紫禁城の宝物をそっくり輸送船に載せ、台湾に運んだものだ。 殷時代の亀甲文字に始まり、中国五千年の歴史が時代順に展示されている。 展示ケースの壁に年表が貼ってあり、上段は中国、下段には同時代の世界の歴史が示されている。 これを眺めていて気付くのは、中世以降世界の、特にヨーロッパの文明はどんどん進展するのに、中国のそれは宋、元、明時代から清朝末期に至るまでほとんど停滞しっぱなしに見えることだ。 彫刻や絵画もほとんど似たような文物で代わり映えしない。 千年の隔たりが感じられない。 政治形態も同じである。 極論すれば、明や清王朝の政治と今の共産党一党独裁政治はほとんど似たようなもので、世界史的進展がまったく見られない。 マルクスレーニンも真っ青の、名前は同じでも近代史的共産主義と似ても似つかぬ、中国共産党王朝の相も変わらぬ独裁。 民主政治は行われず、言論の自由や人権とはほど遠く、古ぼけた中華思想に凝り固まっている。 その行き着いた先が現代版万里の長城とも言える高速鉄道であり、張りぼて空母だとすると、日本を追い越し、やがてはアメリカに迫ると言われる中国の人たちは、はたして利口なのか馬鹿なのか?
     

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