【伝蔵荘日誌】

2011年6月23日: 嘘をつくこととは GP生

 先日、30代のカップルが5年間住んだ居宅の解約があった。 入居時は同棲であったが、何年か前に入籍した。 結婚を機に部屋を社宅扱いにしてもらい、経済的にも共働きの安定した状態であった。 結婚に到達せずに別れるカップルを多く見て来ただけに喜んでいた。

 解約理由は「職場が神奈川県に変わったので、近場に転居したい」と言うことだった。 解約時、夫たる男性と一緒に現状確認の立会を部屋で行ったが、部屋に入るなり異様な光景が目に飛び込んできた。 リビングの天井、壁のクロスは真白なペンキが塗られていた。 トイレの壁も同様であった。 リビングからキッチンにかけてのクッションフロアーの床は、一面真っ白な粘着性プラスチックタイルで敷き詰められていた。 「どうしたのか」と聞いたら、「妻が自分の好みに改装した」とのことであった。 自然損耗や汚損は別として「人為的な改装は原状回復するのが契約条項にある。 この状態を元に戻すのに預かっている敷金では足りない」旨、具体的に説明したら、男性は真っ青になった。

 良く聞いてみたら、「戻ってくるであろう敷金を当てにしていた。 実は奥さんとは既に離婚していて、現金や預金通帳を全部持って行かれ一文無し」とのことであった。 神奈川に職場が変わったのは奥さんの方で、解約理由は嘘をついたようだ。 彼女は解約手続き等の面倒な後始末を元旦那におしつけ、全財産を持って安全圏逃げ込んだ。 連絡も取れないという。 入居時から、はっきりとものを言うパリパリの女性と、体は大きいが何処か締まりのない物言いの男性の組み合わせに妙な安定感を覚えていた。 この男性、解約申し入り時に、さすが「女房に逃げられた」とは書けなかったようだ。 話していて、同じ男として彼に哀れを覚えた。

 この入居者男性の嘘は聞く者に哀れを催させる嘘だが、永田町から聞こえてくる嘘は吐き気を催す。 「Trust me」、「最低でも県外」、「腹案がある」、「1500万円の子ども手当は説明責任を果たす」、「次の総選挙には立候補せず引退する」等々、次から次に嘘をつき続けた、Loopy・鳩山。 引退をほのめかし内閣不信任案を乗り切ったら、詭弁を弄して約束を反故にする菅直人。 彼は次々に思いつきの政策を並び立て、与党幹部の連中の説得には一切耳を貸さず、総理大臣の地位に懸命にしがみ付いている。 現在、彼の味方は腹に一物をもつ亀井静香等、極めて少数だ。 ペテン師、詐欺師の罵詈雑言を浴びてもびくともしない。 天性とも言える腹の据わりようだ。 これだけ腹の据わった人物が、外国要人とのサシノ会談で下を向いたきりのカンニングペーパー棒読み人間と同一人とは思えない。

 人は生きていく上で「嘘」を上手に活用している。 「俺は今まで嘘をついたことはない」が真っ赤な嘘であるように、嘘をつかなかった人間はいないだろう。 子供が悪いことをして親から怒られそうになった時、誰に教わったわけでもないのに咄嗟に嘘をつく。 その場しのぎの嘘をつき、後でつじつま合わせに四苦八苦した経験は誰にでもあるだろう。 付いた嘘は必ずバレる。 天に吐いた唾が確実に己の顔にかかるように。 鳩山にしても菅にしても、ついた嘘が次々に暴かれても平然としているが、それらの連鎖が総理大臣としての地位を汚し、自らの信頼が失墜していくことに気が付かない。 気が付いていても、自らの地位を守るためさらに嘘を重ねざるを得ないとしたら、アリ地獄と同じだ。

 一般庶民が彼らのような嘘を一回でもついたら、周囲の人間は誰も相手にしなくなるだろう。 世の人はそれを知っているから、自らの立場を悪くするような嘘は滅多につかない。 菅直人のような職業的詐欺師は別にして、嘘をついた人の心は平常心を保つことは難しい筈だ。 何故なら、人は自分の心に嘘をつけないからだ。 嘘をつけない自分の心が、嘘をついた自分を許せないからこそ、己の過ちを反省し二度と同じ嘘をつかないと心に誓う行為が日常の中で繰り替えされている。 この心の働きが、自分の魂を磨き、心を大きく丸く成長させる所以だ。

 現役サラリーマンを離れてすでに17年が過ぎた。 古希を過ぎると、自分の人生の行く末がなんとなく見えてくる感じがする。 肩肘を張る必要もなく自然体で生きていくことが出来る感じもある。 今の自分に、心に嘘をついてまでするなにかもない。 小さな嘘も、妻との助け合いの生活の中では全く必要がない。 菅直人の様な天才的詐欺師の行く末はどうなるのだろうか。 彼も60代半ばにさしかかっているはずだ。 彼の言動を見るにつけ、内閣総理大臣たる空疎な肩書にしがみ付く姿から、現世で己の愚かさを悟るのは難しいだろう。 彼の残りの人生はわずか15年か20年だろう。 彼の如き自己保存の心が強過ぎる人間のあの世での住処は、孤独な官邸暮らしを遥かに超えた暗く寂しい、彼一人しかいない世界であろう。 自分のあの世での住処の状態が事前に判れば、人の反省は速いのだろうが、それでは現世での修業にならないから、人生一寸先が見えないのだ。

 元妻に捨てられた彼は隣町に居を構えた。 元妻の内装破壊の現状回復費用は敷金を6000円弱オーバーした。 本来なら支払いを請求するところだが、5年間家賃の滞納は一度もないことと、彼の現状に哀れをもようしたので、支払不要との連絡をした。 離婚のきっかけは、入籍後、彼が大病して彼女に迷惑をかけたことだそうだ。 好きあって一緒になった男が大病すれば、一生懸命看病するのが普通の妻だと思うが、そうではなかったようだ。 「僕が病気をしたのが悪いのです」とうなだれる彼にかける言葉がなかった。 立会点検でガスコンロの魚焼き器を見たら、5年前の入居時と同じ新品同様だった。 魚を焼いたことは一度もなかったとは彼の言。 表面的な見てくれを大事にする生活姿勢は部屋の隅々に溜まった大量のほこりが現している。 夫の看病を負担と感じ、魚を焼くことのない女性のどこに、彼は魅力を感じたのだろうか。

 別れるとき「まだ若いのだから、今度結婚するときは、家庭的な女性を選ぶのだね」と何時ものように余計なひと言を付け加えた。 彼の様な哀れな嘘を付くことなく、毅然としてし女性を袖にする男は吾がテナントに存在しないようだ。

目次に戻る