【伝蔵荘日誌】

2011年6月18日: 瑣事に生きる日々 T.G.

 以前の日誌に、瑣事に明け暮れる日々の幸せについて友人のGP生君が書いていた。 さもありなん。 震災だ原発だと悩ましい事柄が多すぎる昨今、瑣事ほど幸せなものはない。 この先何年生きられるか分からないが、せめて飽き飽きするような瑣事にかまけて過ごしたいものだ。 そう言うわけで、ここ数日の瑣事について書く。

 空き家になった隣家の二階の戸袋に椋鳥が巣を作った。 ちょうど二階の書斎の真ん前なので、暇にあかせて一日中観察する。 親鳥は3〜5分おきに、休むことなくひっきりなしに餌を運んでくる。 偉いものだ。 そのたびに戸袋の中の雛の鳴き声がかまびすしい。 1週間ほどそれが続いたらそろそろ巣立ちである。 餌を運んできた親鳥が、巣の外から盛んに呼びかけるがなかなか出てこない。

 巣立ちを写真に撮ろうと、窓の隙間からレンズを向けるがなかなかうまく行かない。 敏感にカメラを察知して逃げてしまう。 しばらくすると今度は雛を狙ってカラスがやってきた。 親鳥は急遽餌運びを中止して、自分の何十倍も大きいカラスに健気に立ち向かう。 周囲を飛び回りながら威嚇する。 実に偉いものだ! そうこうしているうちに、嫌気がさしたカラスはどこかへ行ってしまった。 こんなことを繰り返しながら、4羽の雛がすべて巣立つまでに三日かかった。 椋鳥も人間も、親というのはつくづく切ない商売だ。

 三ヶ月に一度の定期検査で市立病院に行く。 検査の結果は、尿酸値6.4、総コレステロール値は少し下がって245。 他の約100項目の数値は正常。 まあまあの結果で一安心する。 この話をGP生君にしたら、70過ぎでコレステロール245は理想的数値だと言う。 それなのに、コレステロール値がまだ高いので、食生活に気をつけろと医者は言う。 どう気をつけるのか聞くと、総カロリーを減らせと言う。 要するに食べ過ぎるなと言うことだ。 生まれつき小食なほうで、ひとの半分ぐらいしか食べない。 朝遅く起きたときなど、1日二食で済ませることもある。 だからガリガリに痩せている。 これ以上どうやって食を減らせと言うのか。 医療マニュアルにそう書いてあるのか。 死んじゃうよ。 まあ、医者の言うことは黙って聞くことにしよう。 

 久しぶりに東京へ出て、昔の業界仲間と一杯やった。 各種団体や競合他社の人たちばかりで、自分と同じ会社の人は一人もいない。 何故か気が合うので、よく飲んだりゴルフをしたりする。 ほとんど気楽な馬鹿話に終始したが、小生より少し年齢が若い人たちはまだ仕事を続けているので、話の端々に業界の最新事情や空気に触れられた。 こういうことは田舎に蟄居して新聞を読んでいるだけでは分からない。 どうも我らがIT業界は調子が悪いようだ。 特にかっての“我が社”であるN社が。 今や株価は無惨な170円台。 潰れる一歩手前である。 「あの一世を風靡したピカピカ会社が、どうしてこうなってしまったの?」と、ライバル会社F社のIzさんが気の毒そうに言う。 「国と同じで、会社が駄目になるのは社長が馬鹿だから。 他に理由はない。」と答えておいたが、まあそういうことだろう。 どうか年金だけは止まりませんように。 早く社長が替わりますように。

 パソコンのブラウザをIE8からIE9に換えたらどうも動作がおかしくなった。 ウェブの表示画面を印刷しようとすると、スクリプトエラーが起きて印刷できないことがたびたびある。 いろいろ試したが原因が分からない。 そのことをマイクロソフトの質問サイトに投稿したら、何人かの人から答えが返ってきた。 どれも帯に短したすきに長しで、あまり参考にならない。 ビデオドライバーの性能不足という意見もあったが、もしそうならマイクロソフトのIE9 は大半のパソコンで使えないことになる。 当方のパソコンはかなり高性能なのだ。 そうこうしているうちにこの現象は起きなくなった。 どうやら出来たてほやほやのIE9の初期不良だったようで、Windows Updateで修復されたらしい。 マイクロソフトのいつものやり口です。

 もう一つはDVDの再生である。 お決まり定番ソフト、PowerDVDで再生すると、音声にエコーがかかってしまう。 リアルな戦闘場面で、兵士の叫び声や銃弾の音にカラオケまがいのエコーがかかったら興ざめである。 音声出力設定などあれこれいじくってみたがどうにもならない。 販売元のCyber Link社の質問サイトに訊いてみたら、「本製品にてエコーをかける機能は仕様上ございません。 ご利用環境に起因している現象であると見受けられます。」と、つれない返事が返ってきた。 まあそうだろうな。 今日ダメモトで再度試してみたら、何故かエコーがかからなくなっている。 何もいじくっていないのに。 狐につままれたようだ。 これもWindowsのお決まりか。

 再生したのはバンド・オブ・ブラザーズ(Band of Brathers)と言うタイトルの戦争映画である。 BS放送でやっていたのを録画した。 第二次大戦末期、米国陸軍第101空挺師団E中隊が、過酷な訓練を経た後、ノルマンジー上陸作戦に呼応し、フランス領内にパラシュート降下。 ドイツ軍と激しい戦闘を繰り返しながらベルリンに向かう。 全10話、10時間に及ぶ大作である。 実話に基づき、登場人物もすべて実名。 俳優トム・ハンクスとスティーブン・スピルバーグ監督による制作である。 特殊撮影は一切使っていないが、戦闘場面が実ににリアルで凄まじい。 E中隊の兵士はすべて若い志願兵で、職業軍人はいない。 最初のB17輸送機からのパラシュート降下の際、ドイツ軍の激しい対空砲火で半数が着地前に死んでしまう。 その後の戦闘でも隊員の多くが銃弾に倒れ、ベルリンにはたどり着けない。 この映画を見ていてつくづく思ったのは、どこの国の若者達も持っている、いざとなったら命をかけて国を守るという極めて観念的な価値観を、はたして今の日本の若者も持っているかと言うことだ。 いい映画だが、残念なことにその後一度も再放映されない。 こういうシリアスな映画にエコーがかかっては興ざめなことが分かるでしょ。

 こういう具合に昨日も今日も明日も、瑣事に取り紛れて過ぎていく。 幸せと言うことだろう。   

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