【伝蔵荘日誌】

2011年5月20日: 花粉症はなぜ消えた? GP生

 先日の日誌で花粉症が消えた理由として腸内細菌の改善を挙げた。  書いた後も、本当にこれだけの理由なのか釈然としない思いがあった。 腸内細菌改善の必要条件に過ぎないのではないか、今年の自分の身体に生じた変化に 見落とした要因があるのではないかとの思いがあったのだ。 日誌を読んだTG君からメールを貰った。 彼は5,6年前に突然花粉症が発症したが、今年は極めて軽い症状で推移したとのこと。 彼は善玉腸内細菌の維持には注意しており、以前から胃酸で死なないビフィズス菌のサプリやヨーグルトを摂取しているので、君の説には賛同しかねるとの意見であった。 記載してあった便の状態から、彼の腸内では善玉菌優位の状態が維持されていると推測された。 日誌に書いた通り、昨シーズン以前と以後で何か違った要因があるのではないかと思い、更に考え直してみた。

 思い当たるのは、昨年3月から摂取し始めた「核酸ドリンク」しかない。 分子栄養学の勉強仲間から勧められたものだが、妻の健康レベルアップの一助になる可能性があるので購入し、二人で飲み始めた。 核酸は細胞の核内に存在するDNAと核外に存在するRNAの総称で 、共に分子量の大きい高分子化合物である。 食された核酸は小腸でヌクレオチド(塩基・リン酸・糖が一個ずつ結合した化合物でDNAの構成物質)やヌクレオシド、更に塩基、糖、リン酸などに低分子化されて体内に吸収される。 核酸成分は細胞分裂時に開裂した遺伝子のあい方の構成物質として細胞核内に常に存在を要求される重要物質だ。 体内で遺伝子以外にヌクレオチドを有する物質には「ATP(エネルギー産生システム)、ニコチン酸補酵素、ビタミンB2補酵素、細胞内神経伝達物質」等沢山あり、それぞれ人の生命維持の根幹にかかわりを持っている。

 食品に含まれる核酸の大部分は、エネルギー産生システムに利用されるので、核酸不足は生命力の低下に繋がることになる。 核酸は肝臓で産生される。 この合成はデノボ合成と言われ、複雑な酵素反応と大量のエネルギー必要とされる。 使用済みDNA,RNAは酵素により分解され、最終的に尿酸になる。 ところが、核酸分解で生じた中間生成物が尿酸に至る前に、別の酵素によりDNA,RNAに再合成される。 これをサルベージ合成と言うが、デノボ合成の10倍もの核酸が産生されているそうだ。 大量のエネルギーを要するデノボ合成より、効率の良いリサイクルは人体の合目的性の結果だと思う。 人体の核酸の総量は一定に保たれている。 人体のホメオスタシス(恒常性)の妙と言えるだろう。

 食物由来の核酸や核酸ドリンクから吸収された材料も、酵素反応によりサルベージ合成され利用される。 外部から経口摂取される核酸量が極端に増加すれば、人体の恒常性からデノボ合成量が低下する。 コレステロールの産生コントロールと同じシステムが働いていると言える。 人は加齢に従って肝臓の代謝機能が衰えて来るので、デノボ合成能力が低下する。 必然的に高齢者の体内では核酸絶対量が不足傾向となり、老化に拍車がかかる。 人の筋肉細胞や脳神経細胞は成長後は分裂を停止するが、腸管内皮細胞や造血細胞は生きている限り分裂を続ける代謝の激しい細胞だ。 タンパク質や各種ビタミン・ミネラルの供給が十分であっても、細胞分裂の激しい現場で核酸の絶対量が不足すれば、代謝が計画通り行えないので、消化吸収能力の低下や白血球産生低下による免疫力低下も考えられる。 年を取ると白髪が増えるのは、生命に直接関係がない「メラニン」産生の材料を、ほかの重要部署に廻す結果だと言われている。

 昨年から妻と一緒に飲み続けた「核酸ドリンク」の核酸がヘルパーT細胞のバランス改善に関係があるか調べてみたら、東京大学大学院生命科学研究科の戸塚護と言う人の論文を見つけた。 腸管免疫寛容に関する「卵白アルブミン」及び「ヌクレオチド」の経口摂取の影響について書かれている。 実験はマウスによるものだが、「ヌクレオチドは腸内上皮細胞で免疫をコントロールするサイトカインの産生を増加させ、且つ、アレルギー発症に抑制的に作用するTh1型細胞応答を誘導し、IgEの産生を低下させた。ヌクレオチドの経口摂取のこの効果は腸内のみならず、全身免疫系にも作用する。」との要旨であった。 ヌクレオチドがどのようなメカニズムでTh1を増加させ、IgE産生を低下させるのかは不明だが、ヌクレオチドは薬物ではないし、核酸の構成物質にすぎないのだから、必要十分なヌクレオチドの供給が細胞分裂時のDNAみならず、酵素を含む各種タンパク質の産生に係るRNAの代謝機能を向上させて、免疫系のバランス改善に貢献しているのではないかと推測している。

また、ライフサイエンス研究所の宇住晃治氏の研究でも、核酸を摂取させたマウスのTh1細胞が増加したことが明らかにされている。 上記知見はマウス実験によるものだが、人でも脳と赤血球ではサルベージ合成の重要性が知られているし、ガン細胞の分裂増殖にはデノボ合成されたヌクレオチドしか使用されないので、大量の核酸食品の摂取により核酸のサルベージ合成が増えることで、ガン細胞をいわば兵糧攻めにする研究もある。 自分に核酸を紹介してくれた知人の姪は毎日数百mlの核酸ドリンクを飲んで、若年性の肺ガンの進行を遅らせたと聞いている。 ただ、費用が続かず止めざるを得なかったようだ。 核酸成分は人体の代謝のスタートに全て関与している物質であるだけに、過不足の影響は全身何処に表れても不思議ではない。 当然、個人差は大きい筈だ。 自分の花粉症が今年消えた十分条件は核酸の摂取による所以でないかと考えた。

 ではTG君の場合はどう考えたら良いのだろうか。 TG君は高尿酸の気味があり、長年、尿酸のコントロールを行っている。 DNA・RNAが分解される過程は三段階に別れるが、尿酸を産生する直前とその前の過程で働く酵素を、薬物でブロックすることで尿酸産生を抑制する。 尿酸に転換できなかった中間産物はどうなるのだろうか。 これ等は全てサルベージ合成によるヌクレオチドの原材料になると考えられないだろうか。 この合成過程には別の酵素が必要とされるが、TG君の場合、何らかの要因が作用してこの酵素の産生量が増え、その結果サルベージ合成されたヌクレオチドが増加した。 その結果、先の理由で免役バランスが改善したのではないかと考えた。 サルベージ合成酵素の産生量増加の要因は、酵素合成材料であるタンパク質、ビタミン、ミネラル等の供給が以前より増加したと考えるのが通常だ。 基礎体温の上昇も体内の代謝効率に与える影響は大きい。 TG君の食生活を含む生活習慣は自分にはわからないので、あくまで一般論の中での推察にすぎないが。

 尿酸と言うと痛風に直結するイメージだが、悪いことばかりではない。 脳血管障害では、高酸化物質による酸化ストレスから神経を保護する防御因子として尿酸が大きな役割を果たしている事が報告されているし、血液中の酸化防止機能の半分は尿酸が果たしている事も知られている。 また、痛風になりやすい遺伝子と長寿遺伝子とは関連があるとの話もある。 いずれにしても、TG君の場合は尿酸を上手にコントロールすることで、花粉症抑制のみならず、長寿を全うできる可能性がある。 但し、交感神経の緊張で核酸の分解が促進されるとの研究もあるから要注意だ。 交感神経の乱れは腸内細菌にも、消化機能にも血流にも、免疫系にも大きな影響を与え、生活習慣病の隠れた遠因になっていることは良く知られる事実だ。 東電福島第一原発の事故の推移は自分の身体に大きな影響を与えている筈なので、早く冷温停止に至ってくれることを願っている。 一号機圧力容器や格納容器の破損報道を聞くと、心の安定にはほど遠い現実だ。 心身の自衛措置を考えなければならない様だ。   

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