【伝蔵荘日誌】

2011年5月2日: 花粉症はなぜ消えた? GP生

 毎年、五月の連休が近づくと気持ちが楽になるのが通例であった。  二月の後半から四月の後半につながる期間、スギ花粉症に悩まされるからだ。 連休前には間違いなく終息する。 自分の場合、スギ花粉症に悩まされてかれこれ20年以上になる。 昨年のシーズンは例年になく花粉発生量が少なかったが、鼻水とクシャミに悩まされた。 今シーズンは早くから、スギ花粉の大量発生が予測されたし、テレビの花粉情報でも、”真っ赤”の大量飛散情報が連日報じられていた。 それなのに結果的にシーズンを通じて、スギ花粉アレルギーは殆ど発症しなかった。 20年以上毎年悩まされてきたアレルギーの発症が、最悪条件の今年に何故起こらなかったのか不思議な思いがする。 人体の諸々の反応には必ず理由がある筈だし、今回の不思議の原因を探ることが自分の健康レベルアップにつながると考え、再度アレルギーと免疫の関係を勉強しなおしてみた。

 先ず、花粉症の発症メカニズムを考える。 花粉が侵入するとヘルパーT細胞はこの抗原が有害であるか、無害であるかを判断し、有害であると判断すれば、B細胞に命じて抗体を大量に生産して花粉を攻撃する。 花粉が鼻の粘膜に付着すれば、抗体で攻撃することで抗原抗体反応が起き、周辺の肥満細胞から刺激物質のヒスタミンが飛出す。 このヒスタミンが神経や血管に作用して、クシャミ、鼻水を発し、花粉を体外から排出しようとする。 これは人体が有害物を排除しようとする極めて合目的な免疫系の働きだ。 しかし、花粉は本来無害であるはずだが、都会の大気汚染物質が花粉に付着していれば、免疫系が花粉を含めて有害と判定することは有り得るようだ。 鼻の粘膜に付着した花粉が人体にとって有害か無害か、ヘルパーT細胞の判定能力が問題になる。

 免疫細胞は、骨髄の造血管細胞の分裂から生まれたリンパ球の内、胸腺に行ったリンパ球はここで教育されて胸腺由来の細胞、即ちT細胞になり、それ以外のリンパ球はB細胞、NK細胞になる。 骨髄で作られる白血球の仲間にマクロファージ、顆粒球があり、免疫の重要な一端を担う。 胸腺の働きが最も活発なのは20歳ころで、加齢とともに徐々に低下し、50歳代になるとがっくり衰えると言われている。 胸腺の衰えにより、T細胞が減少すると、異物の侵入の感知機能が衰えたり、攻撃すべき異物と正常細胞との区別を正しく出来なくなり、自己免疫疾患を引き起こすと言われている。 自分は50再前後からスギ花粉症を発症しているから、どうやらT細胞の減少や機能低下と関係がありそうに思える。 T細胞にはインターフェロン等を放出して抗ガン、抗ウィルスと闘うヘルパーTh1型とB細胞からヒスタミン等を放出を指示するTh2型がある。 このTh1型とTh2型は、マクロファージからの放出される免疫物質サイトカインにより、量やバランスをコントロールされていると言う。 Th1型に傾くと自己免疫疾患になりやすく、Th2型へとバランスが傾くとアレルギー疾患になり易くなる。 このバランスの安定が大切と言える。

 今年、スギ花粉アレルギーが消えたのには、昨シーズン終了後とそれ以前で自分の生活に何か違いがあると考えた。 特に食生活の違いは健康に直結する大きなファクターになるはずだ。 色々考えたが、食生活の違いが二つあった。 一つは、朝食時にヨーグルトにオリゴ糖を加えて飲み始めたこと。 二つは、昼食時に粉末青汁10gを水に懸濁させて飲み始めたこと。 これ等の摂取の目的は腸内細菌のバランスを善玉菌に傾けさせることにあった。 それまでの便は固く大きすぎたし、所謂「オナラ」の発生も家人からの苦情の種であった。 飲み始めて1,2ヶ月過ぎると、便も細く柔らかになり「オナラ」の発生も激減した。 ヨーグルトは「腸内活性ヨーグルトメイト」の名の製品で、人由来の有用定住腸内乳酸菌群(ビフィズス菌、フェーカリス菌、アシドフィルス菌、酪酸菌)を含有している。 オリゴ糖は腸内細菌の良好な餌、青汁粉末には乾燥重量3.6gの食物繊維が含有されている。 これ等の成分の定常的摂取が腸内細菌を善玉菌優位に傾けたのは間違いない。 腸内細菌の活性と免疫系の改善には関係ありと推測され、色々調べてみたことを箇条書きにする。

1. 腸管免疫系は免疫系全体の60%の免疫細胞や抗体で構成されている。
2. 腸管免疫系はいくつかの器官から構成され、その中の一つの器官からT細胞が産生されている。
3. 腸内細菌のクラストバチルス菌やビフィズス菌はT細胞をTh1型に導く。
4. 無闇やたらに免疫系が働くのを抑制する「経口免疫寛容」には腸内細菌が関与している。
5. T細胞に指令を出すマクロファージの健全性は腸内細菌に影響される

。  最近の研究によれば、腸内細菌の一種であるラクトバチルスカゼイ菌はアレルギー反応の原因となる免疫グロブリンEの産生を抑えたり、アレルギー反応によって起こるアナフラキシーショックを抑制するそうだ。 昨年秋、伝蔵荘でスズメ蜂に足を刺された。 一昨年那須でスズメ蜂に刺されているので、アナフラキシーショックを心配しながら病院に行った。 足は腫れ上がったがアレルギーショックは免れた。 今考えると、この善玉菌が腸内で優位な状態にあったのではないかと想像する。

 これ等の事から、腸内細菌が免疫系の働きに大きく関与していることが分かる。 自分の場合、腸内細菌の改善策の実施が、当初の目的を達成すると同時に20年来の悩みを解決してくれたことになった。 免疫系の改善強化は、花粉症の軽減だけでなく、感染症に対する抵抗力を高め、NK細胞やキラーT細胞も当然活性化している筈で、日々体内で発生している数千と言われるガン細胞を潰してくれている。 高齢化と共に免疫の主役たるリンパ球の産生量低下は覚悟しなければならない。 ストレスの増加もリンパ球を減少させる。 体温の低下も免疫力を低下させ高齢者には命取りとなる。 大震災後の避難所での高齢者の発症は、低体温と低栄養がもたらした痛ましい症例だ。

 免疫の働きを高めるには十分な量のタンパク質とビタミン、ミネラルの摂取が必要だ。 具体的にはビタミンA,C,Eやセレン、亜鉛等だ。 また、経口免疫寛容の働きを高めるのに核酸やω-3系脂肪酸の摂取が効果があるとの報告がある。 自分が毎日、朝食時に食べているクルミやカシュ―ナッツはω-3系脂肪酸の宝庫だ。

 男の厄年は42歳だが、免疫力が大きな下り坂にさしかかる年齢であることを、古来から人は経験的に知っていたのだろう。 ましてや、高齢者は胸腺は脂肪の塊となり機能せず、免疫を司る重要器官の脾臓は機能低下し、血液やリンパ液の流れも滞りがちになる。 食事もアッサリ系、サッパリ系を好むようになり、意識しないと低タンパク、低ビタミン食になりがちで免疫力の急速な低下は免れない。 不規則な生活による自律神経の乱れは、リンパ球を大幅に減少させることが知られている。 昔から言われている「早寝早起き」、「三度の食事をキチンと」、「体を動かす」をそれぞれ現代流に言い換えれば、「自律神経の安定」、「毎日の栄養補給」、「循環器系の活性化」となる。 都会で花粉症に悩む人が多いのは、夜更かし、不規則な食事や運動不足になりがちな現代人の生活習慣と大いに関係ありそうだ。 高齢者の健康は医者任せにせず、自主的に行わなければ保たれないと改めて感じている。   

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