【伝蔵荘日誌】

2010年4月18日: 高濃度汚染水をどうするか GP生

 夕食時に妻に高濃度汚染水処理の話をしていたら、昔、水処理の仕事をしていたのならアナタが処理すればいいのにと言われた。 勿論、出来る訳はないけれど、思いだけを書くことにした。

 福島第一原発では3基の原子炉や使用済み核燃料格納容器に大量の水を送水して、冷却に努めている。 原子炉格納容器や圧力容器内の圧力値を毎日見ているが、原子炉圧力容器で圧力が大気圧以上を示しているのは1号機のみで、2号機、3号機は測定値マイナスを呈している。 原子炉収納容器で見れば1号機、3号機とも格納容器本体と圧力抑制室とも0.1Mpa以上を示していて、密閉状態を示唆している。 それに反して2号機は本体は0.1Mpaを示しているが、抑制室のデーターはない。 3月15日の爆発で抑制室の一部が破損したことは間違いない。 現在問題になっているピットの水位上昇は、原子炉本体に注入している冷却水が格納容器を経て、抑制室の破損部から流失しているのは間違いないところだ。

 3月26日、3号機のタービン室の地下で作業員3人が水に入って被ばくしており、3月28日には2号機地下室の水の放射線濃度が極めて高いことが確認された。 これに繋がっている恐れのある配管用トレンチの水も極めて高い数値を示した。 4月2日には海岸近くのピットから高濃度の放射線を含む水が海に流出したことが確認された。 この経緯を見れば素人でも、原子炉圧力容器に注水している冷却水が水量増加の発生源であることが分かる。 各号機の溜り水を合わせると5万立方メートルを超えるという。 この中には、東京消防レスキューが命がけで放水した時、ポンプ車の能力から連続4時間が限度との報告に激怒した通産大臣が、7時間放水しろとわめきたててポンプを壊した時の水も含まれる。

 報道がないので他は分からないが、圧力容器本体に注入している水が大量に漏れているのは2号機だけのようだ。 東電は膨大な溜り水の処理のためメガフロートを含めた受け皿対策と、高濃度水の海洋流失ストップに全力を挙げている。 現場としては当然の判断でそれ自体は間違いではない。 処置が遅れれば、オーバーフロー水の海水への混入を止める手段がないからだ。 問題は圧力容器の冷却には注水は止められず、高濃度汚染水は増加し続けることにある。 この二律背反の難問を長期的にどの様に解決するかが課題だ。

 使用済み燃料棒の水槽は、蒸発して減少した水を補充していけば当面は抑えられる。 余震で電源が遮断した時の対策を何重にも準備しておけばよい。 既に実行中だ。 圧力容器の冷却には年単位を要すると聞く。 大容量タンクを幾ら並べても限がない。 オーバーフローした水を処理して、冷却水として循環使用するしかない。 溜り水に含まれる放射性物質と海水中の塩分を除去するプラントを現地に早急に建設することだ。 日本には世界に冠たる水処理技術がある。 凝集剤、濾過技術、吸着技術、膜処理技術は世界のトップレベルにある。 私見だが、放射線物質の除去と海水中のミネラルの除去はこれ等の技術の組み合わせで可能だとイメージ出来る。 ただ、放射性物質を除去する実績とノウハウを持っている企業はないと思う。 時間があれば、処理実験を重ねながらデーターを蓄積し、実証プラントの確認試験を経て実プラントを建設する。 しかし今は、時間との競争だ。 セシゥム137を吸着する機能を持つゼオライト土嚢を海中に投下する対策とは訳が違う。 フランスから放射性物質汚染水処理の専門家が来日しているではないか。 スリーマイルズ島原発事故処理の米国の経験者も来ている。 彼らのノウハウと日本の各水処理メーカーや水処理プラント建設企業の力を結集すれば、十分機能する処理設備を短期間で建設することは可能のはずだ。

 最近、東電は汚染水処理設備建設の具体的検討に入ったと報道されている。 オールジャパンのみならず各国の持てる技術を集結させて抜本対策を検討実施することと、かつ現場対策の二面作戦を東電一社に押し付けるのは無理だ。 企業の理論が入れば行動が遅れる。 廃炉を恐れて海水注入を逡巡した決断の遅れが現在を招いていることを忘れてはいけない。 設備の計画、実施を主導するのは政府の役目だ。 東芝や日立から収束のための長期ロードマップが政府と東電に提出されていると聞く。 これ等に具体策がどこまで記載されているのかは分からないが、当面のテーマは汚染水の循環使用設備の建設に尽きる。 3月末の時点で、冷却と増水の問題を同時に解決しなければならないとの深刻な認識を政府は持っていたのだろうか。 原子力安全・保安院や原子力安全委員会のコメントを聞いても、「解決するのは東電の仕事で、俺たちは慎重に事態を見守る」だけの印象だ。 役人が自ら責任を被る仕事をしないのは判るとして、官邸の当事者意識のなさはどうだろうか。 官邸が責任を持って国際チームの能力を結集しなくて誰がするのか。

 官邸は福島第一の各種問題解決のために原子力関係の対策会議を複数立ち上げている。 対策会議は諮問会に過ぎず、提言を実行するのは政治家だ。 アリバイつくりの小田原評定をしている時間はない。 今そこにある危機をに手を打てずにいれば、事態はますます悪化する。 当面の福島第一の対策責任者は細野氏だそうだが、大臣にするとか法的に出来ないとか、どうでもよい枝葉の問題で騒いている。 肩書きなど所詮レッテルだ。 誰でもよい、責任回避することなく、持てる技術と人を一日も早く纏めあげる能力のある人間を選定し、権限移譲を内閣の責任で決めることが肝要だ。 今の官邸にこれが出来るなら、以下の文章を撤回するのにやぶさかではない。

 初期判断と行動を誤った東電と官邸は、地域住民の生活を根本から破壊し、彼らは未だ帰里の目途さえつかない。 原発から北西に位置する地域の汚染が著しいことは、かなり早い段階で分かっていた。 IAEAの測定結果でも報告されていた。 それなのに政府は1ヶ月も過ぎて突然計画的避難地域に指定した。 金銭的保証だけでは解決できない生活破壊に直面する避難地域住民に対して、どの面下げて向かい合おうとしているのだろうか。 官房副長官なる人物の現地説明会の模様をテレビで見た。 地域住民の苦悩に対する同情や理解のみならず、政府の当事者としての責任感は全く感じられなかった。 役目だから話しに来たとしか見えなかった。 その程度の人物が政府高官とは。

 レベル7の決定、発表と言い、官邸は近視眼的な場当たり決定しかできず、長期ビジョンは対策会議に丸投げだ。 原発対策はもちろん東電に丸投している。 誰でもよい、適法であれば手段を選ばず、出来るだけ早くこの出来損ないの“高濃度汚染政権”を除去してほしい。 政局で一時的に中央政治が混乱したところでどうと言うことはない。 各現場の活動は続けられる。 抜本的な汚染水処理設備の建設とオールジャパン政権の建設は同時進行しなければならない。

【追記】
 日誌を書き終わった後、東京電力より福島第一の「事故収束の工程表」が発表された。 感じた想いを追記する。

 発表が遅きに失した感はあるが、内容的には現在の状況では納得ができるものだと感じた。 東電の会見の後、海江田経済産業大臣の記者会見を見たが、彼は「東電から示された」とか「東電の決定」とかの表現を交えて、経済産業省の立場での物言いに終始した。 どうやら、この工程表は東電の責任において立案され、実行に際して万が一工程に齟齬を来しても、政府には責任はないと言いたげだ。 工程に示された内容の実施責任は第一に東電にあることは判るが、国内的にも、国際的にも日本の今後の運命を決定するかもしれぬ約束を、国が責任を以て計画し実行する姿勢を示さないでどうするのか。 平時においてお役所が民間業者へ工事認可を与える感覚だ。

 菅内閣はいろいろ対策会議を設立したけれど、日本国のために自ら火中の栗を拾う政治家は皆無で、東電に丸投げしただけだ。 6〜9か月後に避難者が故郷に帰里出来ない時は、政府に責任はなく東電の責任と言うことになる。 そもそも今回の工程表は、被害地住民や自治体の突き上げにあった政府が、「収束のロードマップ」を早く出せとの圧力を東電に懸けた結果だとも漏れ聞こえてくる。 官邸を始め政府は、原発事故の収束が自分たちの責任であるとの自覚が全くないのではないか。 本音では、自分たちこそ被害者と思っているのかもしれない。 テレビ放送の範囲であるが、各会見で工程表に対する国の関与と責任を追及した記者はいなかった。 マスメディアの責任も大きい。 国民の生命と財産を守る気概のない政治家は百害あって一利なしである。 早急に菅内閣を収束させる工程表の作成が必要だ。   

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