【伝蔵荘日誌】

2011年4月12日: 我が放射線対策独断考 GP生

 3月22日、東京の金町浄水場の水から放射性ヨウ素131が210ベクレル測定され、乳幼児の基準である100ベクレルの2倍を超えたことで騒ぎになった。 自分が住む町の店から、ペットボトルの水があっという間に消えた。 現在も品薄状態が続いている。 当時、金町浄水場以外の東京都の浄水場では検出されていないし、金町では24日に100ベクレル以下となり、3月末以降不検出を続けている。 世間を騒がせた歌舞伎役者夫妻が福岡でペットボトル水を大量に買いあさり、東京に送ったと聞いた。

 今回問題になったのは半減期の短い放射性ヨウ素であり、セシュウム137、134は検出されていない。 ヨウ素は甲状腺に蓄積される性質があるから、蓄積量の少ない乳幼児が問題になるのてあって、蓄積の進んだ成人には恐れる量ではない。 関東周辺の大気中の放射性物質の濃度からして、震災以来久方ぶりの降雨であるから、一時的に河川の放射性物質の濃度が上がることは予め予測がつくし、一過性のもので、直ぐに安定することも容易に想像できることだ。 政府にしても、都の水道局にしても、もう少し誤解を生じないようなコメントが準備出来なかったのだろうか。 池上彰レベルの説明力は危機管理上から必要なことだ。

 東京圏で生活している自分にとっても、放射線の人体に対する影響は他人事ではない。 大気中放射線の新宿での定点測定結果は、緩い減少傾向を示しながら、4月以降0.1μSv/Hを切り、過去平均最大値の1.1倍位で推移している。 この放射線を365日浴び続けたとしたら計算上0.876mSv/年となり、健康に問題生じない年間被ばく量3.4mSv/年の26パーセント程度だ。 ちなみに、自然放射線による年間被ばく量は2.4mSvだ。 問題になった放射線は殆どが放射性ヨウ素131由来のベーター線であって、体内に入らない限り人体にはほとんど害を及ぼさないと考えられる。 放射線の人体被害は急性と慢性とに分けられる。 一度に大量の放射線を浴びない限り急性被害はあり得ないから、東京近辺では慢性的被害を考えればよい。

 対象となるのはヨウ素131とセシュウム137だ。 いずれもベーター線を放出し自己崩壊するが、ヨウ素131はキセノン131にセシュウム137はバリウム137mとなる。 いずれの生成物も微量ではあるがガンマ線を放出する。 半減期が30年のセシュウム137が身体から出ていく半減期は70日程度だ。 放射性物質が体内に取り込まれた場合、発生するベーター線やガンマ―線は人体の細胞の中を走り、細胞を構成する分子中の原子と相互反応をしてエネルギーを失う。 放射線を受けた原子は軌道内の電子を失い、不安定なラジカル原子になる。 通常の化学反応では最外殻の電子を失うが、放射線による場合は軌道に関係なく電子がはじき出される。 これが、DNAを構成しているヌクレチオドで生じれば分子の構造が変わり、機能を失う。 細胞膜を構成する脂質や血液中のコレステロールで生じれば、脂質ラジカルが生じる。 また、細胞の70%を占める水分子に放射線が作用すれば活性酸素が発生する。 細胞を構成する物質割合から、放射線を受けた細胞内で発生するラジカルは活性酸素割合が高いと考えられる。

 これ等ラジカルは電子を失って極めて不安定な状態になり、周辺の物質から電子を引き抜き、安定化を図ろうとする。 電子を取られた物質が今度はラジカルになり、このラジカル反応は連鎖的に続くことになる。 細胞核内でラジカルが発生すれば、DNAのヌクレチオドが傷つく可能性が大きくなる。 DNAの二重螺旋構造の一本が傷つけば、相補完する相方が、傷ついたヌクレチオドを近くにある正常部品と取り換える。 もし相対するヌクレチオドが同時に切断されたら、修復は不可能になる。 この部位がガン抑制遺伝子であれば発ガンの可能性を高める事になるし、その他の役割を有する部位であれば、本来のタンパク質を合成できなくなる。

 人が呼吸する酸素の2%が活性酸素になると言われている。 激しい運動をして、呼吸酸素量が増えれば活性酸素の発生量は増加する。 これに対抗するため人体はSODと呼ばれる酵素を産生し活性酸素を無害化している。 40歳を過ぎるとSODの産生量が低下するから、激しい運動は命取りになる。 放射線により発生するラジカルは活性酸素だけではないので、SODだけでは対抗できない。 ラジカルは酸化力が大変高い物質だ。 これに対抗するには、還元力の強い物質をラジカル発生現場に大量に配置することで、二次的に発生する細胞構成物質の酸化を防げることが出来る。 要は全身にくまなく配置することだ。

 代表的物質はビタミンE、ビタミンC、ビタミンAだ。 ビタミンE、Aは脂溶性のため細胞核の中まで入っていける。 ビタミンCは自らも抗酸化力を発揮するが、酸化されたビタミンEを還元して、再度本来の働きに戻す働きが重要だ。 ビタミンCもまた電子を失ってラジカルになるが、ニコチン酸を持つ酵素で還元される。 ニコチン酸の不足は皮膚炎や舌炎となって現れる。 通常はアミノ酸の一種トリプトファンから作られるが、ビタミンB2、B6が必要だ。 ニコチン酸は日常の食品では肉、魚肉、豆類に多い。 ひと頃有名になったコエンザイムO10は、脂溶性ゆえビタミンCが入りきれない場所で抗酸化力を発揮する。 カロチンやキサントフィルの仲間も抗酸化力を有する。 人参のカロチン、卵黄にはルティン、トマトのリコピン等緑黄色野菜には抗酸化物質が豊富だ。 イチョウ葉エキスで有名なフラボノイド類も強い抗酸化力を発揮する。 ソバに多く含有され、かってビタミンPと称されたルチンもフラボノイドの仲間だ。 コーヒー成分のカフェー酸は胡麻油のセサモールと並ぶフェノール系抗酸化物質だ。 先のSODの産生にはタンパク質はもちろん、生産工程に必要なエネルギー源やビタミンB群(B1、B2、B6、B12、ニコチン酸)、ビタミンCがなければならない。 無視できないのが尿酸で、使用済みのDNAから肝臓で産生される。 体内の量は多く、抗酸化力もビタミンEを凌ぎ、最強の活性酸素たるヒドロキシルラジカルに効力を持つ。 人は進化の過程でビタミンCの産生能力を失ったが、他の哺乳類に比して尿酸量が圧倒的にため、長寿を獲得したとの説もあるくらいだ。

 被爆する放射線量に対して摂取すべき抗酸化物量を幾ばくにすれば良いかは判らない。 日常でのビタミンの摂取量でも個人差が大きく、個々で試行錯誤的に決めるしかないからだ。 放射線に対抗するしても、日常摂取量に対してどの程度増量するかは個々で判断するしかない。 体重85Kgの自分であれば、毎日ビタミンAが3000IU、ビタミンCが2〜4g、ビタミンEはα-Dトコフェロールで200mgの摂取であるから、現状の放射線量が少々増えても、このままで良いと考えている。 万が一、大気中や水の汚染量が増加すればが、汚染の程度を考慮した増加割合にするつもりだ。 その時には食品からの抗酸化物質の摂取量を積極的に増やすつもりでいる。

 遺伝子の修復にしても、細胞核内に十分の核酸がなければならない。 核酸のほとんどは複雑な各種の酵素反応により肝臓で産生されいてる。 これ等酵素は必要十分なタンパク質と各種ビタミン・ミネラルの存在下でDNAの指示により合成される。 核酸産生量も加齢とともに低下し、60歳を超えると60はパーセント以下になるとも言われているし、個人差が著しく大きいことは、SODの産生量と同様である。 これを補うため、鮭の白子や酵母に代表される核酸を多量に含む食品の摂取も視野に入ってくる。 万が一、細胞がガン化したとしても、免疫システムが健全に機能していればガン細胞を消滅できる。

 免疫細胞の産生にもタンパク質やビタミン・ミネラルを必要とする。大量の放射線の直接 被ばくは白血球を破壊し免疫系をズタズタにするが、少量の間接被爆では免疫系は健全に維持される。 この免疫系の能力を最大限発揮させる条件を整える努力だけ考えれば良い。 いたずらに、放射線に脅える行為は人体に大きなストレスを与える。 ストレスの増大は免疫細胞を産生する機能を著しく低下させるだけでなく、新たな活性酸素の発生を促す事になる。 僅かな放射線を恐れて避難したが、避難生活でのストレスが原因で発ガンを促すことも在りうるのだ。 自分の居住地域の環境放射線に目を光らせ、あわてることなく冷静に対応策を考えることが必要に思える。

 カリウム40と言われる放射性物質がある。成人の体内にカリウムは140g程度存在し、人体にとって必須物質であるが、この中にカリウム40が微量含まれていて、年間0.2mSvの放射線を人に浴びせている。 空気中の天然ラドンからは1mSvの放射線を浴びているそうだ。 60年代、米英ソにより大気圏内核実験が繰り返された時の東京での放射能濃度は、今騒がれている濃度より遥に大きかったはずだ。 今後多少放射性物質の濃度が増加したとしても、発ガン割合は非喫煙者と喫煙者との発ガン割合よりはるかに小さいとするシュミレーションもある。 人類は避けることの出来ない自然の放射能に曝されて進化してきた。 人の老化の一因は、これ等放射能により体内に発生する各種ラジカルによっていることは間違いない。人工放射線の増加が人の老化にどの程度影響を与えるかは分からないが、栄養を考えない食事、乱れた生活習慣、睡眠不足、喫煙、大量の飲酒、不必要な脅えによるストレス増加等による老化促進の方が遥かに影響大である様に思える。

 山の仲間でもあるWaさんは現役リタイア後の飲酒、喫煙を含む生活習慣の乱れから、古希を過ぎて視力の3/4を突然失った。 放射線対策として書いた各種栄養物の日常的摂取は、摂取量の大小はあっても老化防止や成人病対策そのものだ。 福島の原発事故で不自由な避難生活を強いられている多くの人達のご苦労を想えば、東京を中心とする関東圏の住人は、微量の放射線により発生するラジカル物質に対処することで健康被害に脅える必要はない。 我々成人が考えなければならないのは、放射線による影響を受けやすい乳幼児を始めとする、15歳以下の子供たちの健康であって、東京で大人がペットボトルを買いあさる愚に気が付かなければならない。 ペットボトル水を買えなかった時の不安感やストレスにより発生する活性酸素は、放射線により発生するラジカルより人体への影響は大きいかもしれない。   

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