【伝蔵荘日誌】

2011年3月25日: いわゆる風評被害と危機管理 GP生

 東京都の金町浄水場の水道水から放射性ヨウ素131が210ベクレル検出さた。 暫定基準なるものが成人は300以下、乳幼児100以下であり、乳幼児のミルクには使わないほうが良いが、代替え飲料水が確保できなければ、摂取しても差し支えないとの極めてあいまいな報道であった。 東京都の水道局のHPを開いてみると同様なコメントで、3月23日午前9時の分析値は金町浄水場の放射性ヨウ素131は190、朝霞浄水場、小作浄水場は不検出であった。 浄水場汚染のインパクトはホウレンソウの比ではない。 店のペットボトルは瞬く間に売り切れた。

 一般国民にすれば、つい先まで「マイクロシーベルト」だの「ミリシーベルト」の高低を聞かされ、今度は「ベクレル」だ。 単位の意味が不明でも、基準値の何倍と政府の発表をテレビ局が増幅して煽り、「危険」が独り歩きしている感じだ。 それでいて、「直ちには心配ない」とか「買占めは止めましょうとか」必至にアナウンスしている。 これでは、マッチポンプだ。

 葉物野菜の放射性物質の付着も水道水の汚染もここ何日かの降雨が原因だ。 空中に漂っていた極微細のチリが雨により地上に落下したものだろう。 政府にしても水道当局にも当然事前に予測できることだ。 放射能に対して素人の自分ですら、どの程度の汚染になるのか心配していた。 今回の政府発表にしても、水道当局の対応にしても事前に予想して十分準備したコメントとは思えない。 最悪を予想して最善の備えをするのが危機管理の要諦だ。 天気予報予報を聞いてから、彼らは一体何をしていたのだろう。

 金町浄水場は江戸川水系だ。 他に利根川水系、多摩川水系と複数の水源があり、浄水場の数も多い。 聞くところによれば、都内にたくさんある給水場では色々な系統の水がブレンドされているという。 これらすべての浄水場の測定値は発表されていないし、ブレンドされた水は当然放射性ヨウ素の値は下がるはずだ。 都水道局は、金町水系の給水図しか発表していない。 不親切極まりない。 事前に予想し準備しておけば、より細かい場所ごとの数値を発表できたであろうし、都民にここまで危機感を抱かせることもなかったはずだ。 各給水所の値は金町浄水場の値より低いことが予想されるからだ。

 ホウレンソウを始めとする葉物野菜の発表にしても同じ事が言える。 放射能と放射性物質を混同したコメントが多い。 官房長官の話にしても同様だ。 ホウレンソウを水洗した場合、湯洗した場合に付着した放射性物質がどう減少するのか、計測放射線の値がどう変わるのかは簡単な物理実験だ。 水洗により放射性物質が減少すれば、廃棄処分にする事もないので生産農家の風評被害をいくらか低減できるはずだ。 政府のコメントは何キロ以上食べなければ大丈夫だの、直ちに健康に影響する物だはないなど、あいまいなコメントしかしない。 直ちに影響しないと言われれば、ではどのくらいの時間で影響が出るのかとの疑問が出るのは当然だ。 半減期を考えれば、放射性物質の新たな降下が無い限り、野菜を水洗すれば、大きな心配はいらないはずだ。 最初の測定値が永久に継続するかの様な説明を政府がしている。 喋っている官房長官自体わかっていないのだろう。 東京工業大学卒で原子力に詳しいと豪語する内閣総理大臣殿はご存知と思うが。

 フジテレビの朝の番組で水洗前のホウレンソウと水洗後とを画像で説明していた。 20時間ぐらいかけてフィルムに感光させたそうだが、一目瞭然。 水洗後に痕跡程度に低下していた。 画像ではなく放射線の値を測るなら何時でも出来るはずだ。 放射線は水洗できないけれど、放射性物質は水洗できる。 一般国民に理解し易いコメントを事前に何故準備出来ないのだろう。 半減期8日強の放射性ヨウ素が問題になっているが、幸いセシゥム134や137は基準値以下だ。 原子炉に新たな臨界状態が生じない限り、破損した燃料棒が水没すれば放射性物質の周辺への飛散は防げる。 そのため現場は必至の対策と復旧工事を行っているのだが、この辺の情報量は極めて少ない。 枝葉の周辺事象に政府もメディアも振り回されている感じだ。 都民が大騒ぎすれば無視出来ないのは判るが、危機管理の基本意識もなく、あいまいな表現で情報を垂れ流したのは誰なのか。 かってのソ連のように情報を隠して被害を拡大するよりかは遥かに良いと思うが、ただ正直に数値を発表すれば良いと言うものではない筈だ。

 ここまで書いていて、24日朝の金町浄水場での放射性ヨウ素131の値が79に低下したとの報道があった。 これで一応水騒動は鎮静化すると思うが、葉物野菜に対する対応はまだだ。 震災後2週間も経っても、目まぐるしく変化する事象に組織的に対処出来ない官邸の危機管理を立て直せるのは誰なのだろう。   

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