【伝蔵荘日誌】

2010年3月17日: カミさんの一言 T.G.

GP生君へ

 福島原発のあまりに絶望的なニュースを見続けていたら、気持ちが落ち込み、先行きの不安で胸が圧迫されるような気分になりました。 もともと生まれつきの心配性なのですが、いくら考えても、先行きに光が見えてこない。 どう考えても絶望的な状態がなくなりそうもない。 それが頭の中で堂々巡りをしているのです。 一種の鬱状態に陥っているのが自分でも分かるのですが、どうあがいてもそこから抜け出せない。

 あまりに憂鬱そうな顔をしていたらしく、見かねたカミさんに一言言われました。 「大したことじゃない。 広島にも長崎にも原爆が落ちた。 でも今は何ともない。 福島にもう一つ原爆が一つ落ちたと思えばいいじゃないか。」と。 そうしたら急に胸のもやもやが俄に消えて、楽な気分になりました。 なるほどそうかと。 カミさんの一言で一瞬にして鬱が晴れたのです。 人間の精神なんておかしなものですね。 いくら理屈で考えてもどうにもならないものが、カミさんの理屈もへったくれもない、実に非条理で非論理的な一言で解消してしまうのだから。 少し気分が楽になって、計画停電に合わせて少し早い夕飯の時、熱燗を飲んだら実に美味かった。 福島で避難生活している心配性のお父さんも、太っ腹なお母さんに一言励まされているのかも知れませんね。 女は強い。

   近くの愛書堂で今月号の文藝春秋を買いました。 特集は、「これが私たちの望んだ日本か」というタイトルで、各界有名人125人に今回の政権交代の批判を書かせているのです。 ほとんどの人が今の民主党政権にあきれ果てて、ノーを突きつけているのですが、今の福島原発の惨状、困難さを見た後では、「小せえ小せえ、もうそんなことどうでもいいじゃないか」という気分になりました。 地震の前なら僕も同調して、一緒になって民主党にあれこれけちをつけたのでしょうが、もう今の状態はその次元をはるかに飛び越えていますね。 事態があまりに大変すぎて、ああだこうだと訳知り顔に政党批判にうち興じる気分になれません。

 それにしても、いつまでも管、枝野に任せていないで、自民党あたりから声を掛けて、超法規的臨時救国内閣でも作ったらどうか。 だれか指導力のある奴が乗り出したらどうだろう。 こういう非常時に向いている人間と向かない人間がいます。 少なくとも菅、枝野は不向きの典型ではないですか。

 そう思うのも、管や枝野がやっていることは、戦いの指揮官が絶対にやってはならない「兵力の逐次投入」の繰り返しだからです。 最初は自衛隊2万人だったのが、5万人になり、最後は10万人になりました。 優れた指導者なら、最初から10万人出したでしょう。 原発事故対策もそうです。 今頃東京から放水車を向かわせたりしていますが、もはや放射能レベルが高すぎて近づけない。 まだ放射能値が低い初期に出しておれば、今頃燃料冷却プールに水が入っていたはずです。 今頃送電線を敷いていますが、そんなこと無駄骨を承知で、最初からやっておけばいい。 おそらく東電任せにして、その東電幹部が管や枝野の顔色をうかがいながら同じ「兵力の逐次投入」をしたのでしょう。 これほどの危機に際して、実に無能力な情けない国家指導者を持ったものです。 まあ日本国民が拍手喝采して選んだのだからどうしようもありませんが。

 なかなか寝付けず、もやもやをはらすためにこれを書いています。 そう言えば君の所は東京23区内だから計画停電はないんだ。 けっこうきついです。 昔の空襲の時の灯火管制を思い出しましたよ。 それではお休みなさい。  T.Gより 

 T.G.君へ

 君の奥さんはなかなか腹が据わっていて大したものです。 地震時の夜に電話してきた消息通のテナントさんはどうやら逃げ出したようです。 実家が和歌山なので多分そちらでしょう。 危機的災害時での人の行動は皆それぞれです。 その人のもって生まれた性格や人生経験、生き方が方向づけるのでしょうね。 今の現実が更に厳い展開になると考えれば、伝蔵荘あたりに避難するのがベターなのかもしれません。

 自分は、それこそ命がけで懸命に冷却作業に邁進している現場当事者の努力を信じたいと思います。 総司令部の後方指揮は極めて頼りないが、非常時には隠れていた能力を顕在化する人が必ず出てくるはずです。 必ず紆余曲折はあっても事態の鎮静化にたどり着くものと信じています。 自分はいざとなれば、家族は別にして、30余のテナントさんに対する責任がありますので、自分は留まるつもりでいます。 RC製の半地下室にいれば、現在予想される放射能で直ちに生命にかかわる事態にはならないだろうとタカをくくることにしています

 71歳まで十分か生きてきました。 たとえここで命を失っても寿命が10数年早まるだけだと腹をくくっています。 たとえ、肉体生命を失っても魂は永遠に残り続け、この地球が健在であれば、またいずれの世にか転生するはずです。 死ぬことに対する恐れは全くありません。 今の自分のやるべきことは、家族を守ることとテナントさんに対する、責任を果たすことが第一です。

 東京23区は停電除外ですが、杉並区、練馬区、荒川区の一部が停電地区に入っていて、西荻北は第一グループに入っていますが、現在までは停電はありません。 東電も23区周辺の停電を避けるよう努力をしているようです。

 ここまで書いていて、ニュースで自衛隊ヘリ2機による放水開始と東北電力からの緊急送電が現実的になってきたと報じていました。 期待しましょう。 妻の弟の娘婿が山形空港経由で多賀城に行ける目途がつきました。 手持ち荷物なので限度はありますが、昨日は妻と救援物資の買い出しをしました。 ローソクは停電除外地区の仏具屋で大量に買い込んみました。 午後、港区三田の姪の家まで運ぶ予定です。

人のために活動できる自分の身体条件と環境条件は大変ありがたいものです。 ご先祖様や守護霊・指導霊に日々感謝しています。 信じて進めば道は必ず開かれる。 自分の若い時からの信条です。 明日の日本を信じましょう。 日本人もまだ捨てたものではありません。 GP生より   

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