【伝蔵荘日誌】

2010年1月31日: 人の肉体的弱点とそのリカバリ GP生

「山道を歩きながらこう考えた」とは漱石の草枕の一節だが、日々プールで水中ウオーキングをしていると、単調な運動だけにいろいろ考えることが多い。 ジムでの平日午前中は年寄りの天国で、何年か通う内に色々な高齢者と知り合いになる。 60歳を過ぎれば誰でも一つや二つ体の不調を感じない者はいないだろう。 ジム内の話は健康に関することが圧倒的に多いのはその証拠である。 若いときには感じることもなかった身体の不調は加齢が進むにつれ、それぞれの人の肉体的弱点が不調のターゲットとなる。 身体の各器官の働き、すなわち代謝のあり方はそれぞれのDNAに支配されているから、十人十色で現れ方が異なるのは当然のことだ。

 自分の故父は腎臓に弱点を持っていた。 40代に急性腎臓炎を患い、70台に入ってその性格から体を酷使した結果、73歳にして人工透析のお世話になった。 人工透析は心臓に大きな負担を強いるため、最後は心不全で人生の終幕を迎えることになる。 父も79歳で最後を迎えた。 父が自分の身体的弱点が腎臓であると認識し、さらにこの弱点をリカバーする術を知って、日々の生活の中で実行していれば違った人生があったと思う。

 自分の二男は生後一か月で肺炎で入院した。 離島の鉱山に勤務していたため、妻の出産時には半年以上の別居をせざるを得なかった。 連絡を受けて病院に駆け付け酸素テントの中で弱弱しく息をする二男を見た時、自身の無力さを感じざるを得なかった。 現在は30代の半ばを迎え、一男一女の父親となっているが、数年前に会社の健康診断で、肺胞にトラブルが生じていると診断された。 若い時からの喫煙の結果と思われる。 自分も20歳から43歳まで毎日一箱は喫煙していたが、70歳の現在まで異常を来していない。

 妻の祖母や叔父たちの何人かが肺のトラブルで死去している。 二男が遺伝的に肺に弱点を持っていたと推測してもおかしくない。 肺胞の細胞膜はほとんどレシチンで構成されている。 ならば二男の傷ついた肺胞は、何らかの原因で再生されにくい遺伝的特性を持っていると考えられる。 レシチンは大豆に含まれているが、不足分は体内で産生される。 二男の場合レシチンの産生能力が不足していたとも考えられる。 そこで、サプリメントとして「レシチン2.7g、ビタミンB群、ビタミンC、プロテインスコアー100のプロテイン20g」を一日2回飲ように勧めた。 6か月後の検診で肺の影は見事消失していた。 レシチンは肺胞のみならず、全身の細胞膜の重要な構成物質であり、特に脳の正常な働きを保つためには欠かせない様だ。 認知症の脳にはレシチンが少ないことや、集中力や知能を高めるためにレシチンが働いていることなどが知られている。

 更に、レシチンはコレステロールや中性脂肪を乳化させて胆汁に溶かして排出する働きを持っている。 胆石の防止にも一役買うことになり、高齢者には必須の栄養素の一つと考えられ。 自分は現役のサラリーマン時代に疲労とストレスのダブルパンチを食らうと、必ず声がかすれてきた。 30代の半ば頃、声がかすれた上、咽喉に違和感を感じたので、近くに日赤病院の耳鼻咽喉科に車で出かけた。 診察の結果、扁桃腺の周囲に膿がたまる「扁桃周囲膿症」と言われた。 直ちに手術しないと、破裂した膿が肺に入り重度の肺炎を引き起こすと脅され、その場で手術となった。そのまま一週間の入院となった。その後も、同じような声のかすれが生じたことを考えると、やはり咽喉に弱点を持っていると考えざるを得ない。

 退職後、縁あって分子栄養学に出会い、プロテイン等のサプリメントと一緒にビタミンAを摂取している。 ビタミンA は皮膚や網膜、粘膜などを正常に維持する働きを持っている。 胃や十二指腸などの消化管から保護のために粘液が分泌されている。 気管も咽頭も同様でこれ等の粘液の分泌にビタミンAが大きくかかわっている。 退職後は声がかすれたのは一度だけで、ここ10年は正常である。 退職による過労やストレスから解放された結果なのか、ビタミンAの多量摂取のおかげなのか、どちらかは分からない。多分、両方の結果だろう。 この当時は10,000IU/日を摂取していたが、現在は一日3000IUを三回に分けて食後に摂取している。 ビタミンの過剰摂取は警告されているが、ビタミンAは特に注意が必要と言われている。これはビタミンAの単独摂取の場合の配慮であって、タンパク質の同時摂取が十分であれば余程の量でなければ心配はいらないと思う。

 それぞれの人の肉体的弱点に対する対処の方法は千差万別であろうし、すべてが栄養条件の改善で解決できるとは思わない。 医者に相談しても、それぞれの症状に応じた薬を処方されるだけであり、根本解決にならないどころか、場合によっては、その副作用によって新たなトラブルを抱え込まないとも限らない。 肉体的弱点は特別な場合を除いて、通常若い時の発症は少ないのが普通だ。 長年の生活習慣の不調和の結果、高齢になってから弱点が発症するのが一般的だと思う。 その不調和の大きな要因は、長年の自身の肉体に対する不適切な栄養条件に求められることが多い。このことは自分の今までの生活を顧みた時、納得できるのも事実である。 加齢により、年々自身の肉体的機能が低下していくのを感じざるを得ない今日この頃、歳なのだからと諦めるのも一つの生き方だと思う。 けれど、学ぶこと、考えることにより、食生活を含めた生活習慣を見直し、継続して実践することのほうが、明日えの希望が持てるのではないかと信じている。
 

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